日本最難関の大学が生んだ理系ランナーが、14年ぶりに箱根路を走るかもしれない。関東学生連合(学連)のメンバーに選ばれた4年・近藤秀一選手だ。
2019年が最初で最後のチャンス
1、2年次は学連のメンバー16人に選出されるも、補欠。3年次は1区にエントリーされていたが……。
「箱根駅伝の3日前の12月30日。インフルエンザにかかり、出場できませんでした。悔しいというか……無になった感じでした」
当日は静岡の実家で、テレビで観戦した。そして4年生になり、迎えた最後の予選会。
「夏に左ひざをケガして。正直、直前まで走れるかわかりませんでした。6割程度の回復の中で、10割の力を出し切れたと思います」
今回も学連に選ばれ、最初で最後の箱根に挑む。
「選べるなら? 前回走れなかった1区でリベンジしたい。とにかく前へ前へ。自分の力を出し切りたいです」
練習はもちろん、学業も力を入れて取り組んできた。
「工学部化学生命工学科です。簡単に言うと、物質を合成する実験をし、反応をかけて、できた物質の解析をしています。3〜4年になると研究が楽しすぎて、泊まり込んで実験に没頭する人も多いですね。ただ、自分はそれが陸上に勝てなかった。自分の中の大事な芯は結局、陸上のまま変わりませんでした」
東大陸上運動部の練習は週3日。4年間、ひとり暮らしで自炊だ。一方、強豪校の練習は、ほぼ毎日。寮があり、栄養管理された食事が出される。同じ大学陸上のアスリートとはいえ、雲泥の差だ。
「料理はめんどくさいので、鍋を作って食べる程度。野菜の摂取は心がけています。家庭教師のアルバイトは多いときは週3でしたが、今は週1程度。模試の採点のバイトもやりましたね」
走りをゼロにする進路選択はなかった
そんな多忙な学生生活も、陸上に生かされていると話す。
「自分でスケジュールを判断して、練習時間を確保しました。生活の中で優先順位をつけて、時間と労力のうまい配分を考える経験ができたことは、プラスになっていると思います」
卒業後は、東京大学大学院で運動生理学を学びながら、GMOアスリーツに所属して競技を続ける。
「運動生理学の原理を学び、競技にも生かしていきたいです。生命工学も運動生理学も、身体の中で起きていることを突き詰めていくのは同じ。結局、化学反応なので、両者がどこかでクロスするはずなんです。
走りをゼロにする進路選択は考えませんでした。みんな、何十年か先の満足度で考えるから悩むし、自分もそういう考え方をしたときは悩んだ。でも、先のことは全部捨てて、自分が想像できる1〜2年後の未来で考えたら悩まないと思うんですよね」
未来にどうなっていたいと思うか? 週刊女性が尋ねると、こんな言葉が返ってきた。
「まずはマラソンで2時間10分を切ること。そして、将来的には日の丸を背負って走りたいです」
今年はインフルエンザの予防接種を2回受けた。箱根への準備は万全だ。
「大学4年間を納得する形で終わるためには、箱根駅伝は避けられない。走れなかったら、いつまでも心のどこかで引っかかると思うので。やり残しなく、次のステージにいさぎよく進むためにも。多くの応援してくださっている人たちに喜んでもらえる走りをしたい。それが自分のモチベーションなので」
“4度目の正直”を見届けたい──。
《PROFILE》
近藤秀一選手 ◎東京大学工学部化学生命工学科4年。陸上運動部所属。'95年7月27日生まれ、173センチ、53キロ。静岡県出身。来春より東大大学院、GMOアスリーツ