あなたの周りにいませんか? 30代、40代の独身でアイドル、アーティスト、俳優にご贔屓(ひいき)がいて、彼ら(彼女ら)に夢中な人。ファンクラブに入り、年間スケジュールをチェック。コンサートや舞台には必ず足を運び、時間もお金も惜しみなく費やしている人。
婚活ライターをしながら、仲人としてもお見合い現場に携わる筆者が、目の当たりにした婚活事情を、様々なテーマ別に考えてゆく連載。今回は、『アイドルに捧げる人生、それで幸せですか?』です。
お見合い写真撮影よりも趣味が優先
先日、面談にやってきた昌枝さん(38歳、仮名)は、あるメーカー勤務のOLさん。大学時代や20代の頃は、彼氏らしき人もいましたが、30代に入ってからは、恋愛をすることもなくここまできたそうです。
「気がつけば、あと2年で40歳。“そろそろ結婚したい”と思うのですが、素敵な独身者はもう周りにはいない。このままでは出会いもないでしょうし、お見合いして結婚したいんです。最後のチャンスに子どもも欲しいし」
こう言って早速、入会されました。
相談所のサイトに登録するためには、お見合い写真が必要です。写真は、より多くのお見合いを組むための呼び水になりますから、とても大切。本人とかけ離れてしまうほどの修正には問題がありますが、多少は修正して5割り増しくらいに美しく撮るのが原則です。
「提携している写真スタジオがあって、そこはご本人の良さを引き出した素敵なお写真が撮れるから連絡してみますね」
私はその場で写真スタジオに電話をし、撮影できそうな日時を聞きました。スタジオが出してきた日程を昌枝さんに伝えると、彼女はご自身のスケジュール帳を開けながら言いました。
「〇日、×日ともに都合が悪いです。私、A(アイドルグループ)のNくんの大ファンなんです。〇日は、Nくんの主演映画が公開になって、舞台挨拶があるから見に行くし、×日は、テレビの収録があってお客さんとして入ります」
昌枝さんのスケジュール帳には、ファンであるNくんに関するイベント、テレビ、ラジオ出演、コンサートの日程まで、まるでマネジャーさんのノートのように細かく書き込まれていました。
アイドルへの愛は無償、それだけに一方通行
ご贔屓のアイドルがいるのは、決して悪いことではありません。落ち込んだり、嫌なことがあったりした時に、彼らの歌を聴いたり、ドラマや映画をみて元気をもらったりしてきたのでしょう。
30代に入ってリアルに恋愛する機会もなく、恋心を抱いたのはアイドルNくんだけという昌枝さんは、握手会で触れた手のぬくもりにドキドキし、テレビやコンサートなどで向けてくれる笑顔に癒されてきたのでしょう。
しかし、当のアイドルNくんは、昌枝さんがこんなに好きなのに、昌枝さんの存在すら知らないのです。
私は、昌枝さんに言いました。
「Nくん、確かに素敵ですよね。でも、本気で婚活をするなら、婚活期間中はNくんよりもリアルに男性に出会っていくことを優先させませましょうね。
それに、Nくんのルックスや才能を持つ人をお見合い相手に望んでも、そんな男性はまずいない。また、これまでNくんに抱いていた気持ちをそのまま現実の恋愛にシフトしても、お付き合いはうまくいきませんよ」
恋愛をすれば楽しいことばかりではありません。喧嘩して腹を立てたり、相手から傷つくことを言われて落ち込んだり、時にはフラれたりと、喜怒哀楽の感情が伴います。
しかし、アイドルを好きになるときは、気持ちを一方的に捧げるだけ。いわゆる疑似恋愛です。そこには言葉や気持ちのキャッチボールはありません。
結婚したら、彼女と一緒にコンサートに行きたい
美江さん(65歳、仮名)が、婚活相談にやってきました。ご自身の婚活ではなく、35歳になる息子の豊さん(仮名)の相談。IT企業に勤め、年収は700万円と悪くないのですが、彼女もいない様子。そんな息子がいつになったら結婚できるのか、心配でたまらないようでした。
美江さんは、私に言いました。
「会社が男ばかりで独身が多く、遊び仲間が大勢いるんです。飲み歩いたり、旅行に行ったり、遊び仲間が誰も結婚しないから、のんびり構えているんですよ。お見合いをすれば、少しは結婚する気になるのではないかと思うのです」
月会費などは豊さんの代わりに美江さんが払うとのことでした。
サイトに登録すると年収もよかったので、お申し込みもいくつかかかったのですが、申し込まれたお見合いを全く受けようとしませんでした。また、ご本人からお申し込みをすることもありませんでした。
こうして、まったくお見合いをしないまま3か月が経ってしまいました。
ご本人が婚活する気がなさそうなので、美江さんに再び事務所に来ていただき、そのことをお伝えしました。
すると、美江さんは、言いました。
「豊は、アイドルグループMのファンなんです。今年の夏はツアーをやっていたみたで、会社の休みを調整して、関東近郊だけでなく、地方のコンサートにも行っていました。
Mが好きな女性はいないですか? そういう子がいたら、きっとお見合いするだろうし、結婚してからも一緒にコンサートに行けて楽しいですよね」
私は、思わず脱力してしまいました。
母の「息子の将来が心配」「1日も早く結婚させたい」という気持ちはわかるのですが、アイドル好きを母が応援していては、ますます結婚する気持ちにならないでしょう。
35のいい歳をした男が、相談所の活動費を母親に払ってもらっているところにも甘えがあります。
当の息子は婚活にはお金を使わないけれど、アイドルを推すためにCDや公式グッズをたくさん買い、ファンクラブの会費やコンサートのチケット代を払い、地方に行った時の宿泊代も出す。年間に何百万円と愛しのアイドルのために出費をしています。
ですが、そのアイドルと結婚ができるわけではないのです。
本当に女子力はアップしているのか?
あるアイドルのファンの清美さん(28歳、仮名)が、こんなことを言っていました。
「Yくんにドハマリしてから、周りの男性に全く魅力を感じなくなったんです。7年ほど彼氏ができませんけど、寂しいとも思わなくて。『そんなんじゃ、女として終わっていくよ』と友達に言われるけど、そこらへんの女子よりも、自分磨きには力を入れていますよ。
コンサートに行くためにかわいい洋服を選んで、美容院に行って、ダイエットして……。ある意味、女子力はアップしています」
恋をすると、女性は女性ホルモンと言われている“エストロゲン”が分泌されます。これは別名“恋愛ホルモン”と言われていて、肌をツヤツヤにしたり表情をイキイキさせたりするそうです。
また、ときめきホルモンと言われている“PEA”も分泌され、食欲が抑えられて満たされた気分になるので、無理にダイエットをしなくてもきれいな体形を維持できるのです。
アイドルを見て心をときめかせていても、この2つのホルモンは出るそうなので、「女子力がアップしている」という清美さんの発言は、あながち嘘ではないかもしれません。
ただ、手の届かないアイドルに恋い焦がれるより、リアルな恋愛をした方が女子力はアップするでしょうし、女性としての厚みがもっと出るのではないでしょうか?
ともに恋愛を育み、楽しい時間を共有したり、喜びを分かちあったり、時には喧嘩をしたり、悲しんだり、怒ったり、喜怒哀楽の感情を動かすことで、人生は豊かになっていくと思うのです。
鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイト『最短結婚ナビ』http://www.saitankekkon.jp/