新しい年を迎え、そろそろお屠蘇気分も抜けてきたところで気になるのは、家計に直結するお金の話。すでに1月から電力大手10社が電気料金を値上げ。春にはアイスクリームや塩などの一部食料品が値上げされるうえ、10月には消費税の増税が待ち構えている。さらに、やりくりがしんどくなりそうな予感……。
変化の一途をたどるマネー事情
生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんは「残念ながら、家計全体にとって厳しい状況は続くでしょう」と指摘、さらに、こう続ける。
「なんといっても影響が大きいのが、消費税の増税。税率が2%上がるだけではおさまらず、本体価格のほうも、さらに上がっていきそうです。消費税は原材料費や輸送費などにもかかっていて、当然、それらの増税分が本体価格にも反映されますから」
物価が上がるとなると、増税前にいろいろ買い込みたくなるのが人情。ただ、その反動で増税後に景気が落ち込んでしまうことを防ぐため、政府は対策を考えているよう。具体的には「中小小売店で、キャッシュレスで購入した場合、期間限定でポイント還元」「低所得・子育て世帯へのプレミアム商品券の発行」「自動車や住宅購入の際の税優遇」などの案がまとめられている。
「例えば住宅などは、一部の人気エリアを除いて今後、値下がりしていく可能性が高い。『国立社会保障・人口問題研究所』の2018年の推計では日本の世帯数は'23年をピークに減少に転じます。増税前だからと買い急ぐ必要はないでしょう」
と、あんびるさんは冷静になるよう呼びかける。
「ただ、駆け込み需要狙いで、8月末くらいからさまざまなセールが実施されるでしょうから、そこで目玉商品となっている生活必需品を買うのはアリかも」(あんびるさん、以下同)
支出が増えるとなると、気になるのが収入。増えていく見込みはあるのか?
「大手企業の正社員に関しては賃金アップの傾向です。ただ残念ながら、それ以外はむしろ下がっていきそうです。昨年12月に改正入国管理法が成立したことで、今年4月から外国人労働者の受け入れが拡大します。それに伴って、業種により日本人の賃金も下がる可能性があります」
加えて、IT化による影響も。自動レジを導入するコンビニやスーパーが目立つようになった。
「今までパートでやっていた仕事は、外国人がライバルになるだけでなく、ITとの奪い合いにもなっていきます」
さらに怖いのが、働き口がなくなってしまうこと。
「昨年3月末から“雇い止め”になった非正規労働者がたくさん出てきています。その要因となっているのが'13 年4月に施行された改正労働契約法です」
パートや契約社員などの非正規労働者は、その多くが6か月や1年など期限つきの労働契約を企業と結んでいる。法改正に伴い、有期契約を更新しながら通算で5年以上働いた場合、働く期間の定めのない「無期雇用」に転換できるルールが作られたのだ。
「ところが、企業は無期雇用に転換する契約社員が増えるのを防ぐため、昨年4月以降、労働期間が5年を超えそうな非正規の契約を打ち切るようになったのです」
物価が上昇し続ける
寒風が吹きつけるのは非正規だけではない。戦後2番目に長い好景気とされているものの、暮らしは楽になりそうもない。物価の上昇が本格化し始めているというのだ。経済評論家の加谷珪一さんが言う。
「いま、物価は世界規模で上がっていて、むしろ日本の物価が安すぎるくらいです。その日本でも、企業は食品の内容量を減らすなどしながら、なんとか価格を抑えていましたが、ついに耐え切れずこの春から一部で値上げが始まります。さまざまな原材料価格の高騰なども影響して、物価が上昇し続けるインフレの流れが本格化しそうです」
たとえ専業主婦であっても、今後は積極的に収入を増やす姿勢が重要になってくる、と加谷さん。
「例えば、パートに出るのが難しいなら、スマホを使って売買できる『メルカリ』などのアプリで不用品を売るところから始めてもいいと思います。特に、まだ40代くらいの方たちは、もらえる年金額が今よりも減ることが予想されますから、資産運用も真剣に考えてみてください」
増税に値上げ、物価高と停滞ムードの漂うなか、新時代の到来を感じさせる動きがある。世界規模で進む「キャッシュレス化」だ。
「今年は日本でも、電子マネーなど、現金を使わない支払い方法が普及する“キャッシュレス元年”になりそうです」(あんびるさん)
なかでも昨年12月に発表されるやいなや、話題をさらったのが、スマホ決済サービスの『PayPay(ペイペイ)』の「100億円あげちゃう」キャンペーン。スマホにPayPayのアプリをダウンロードして支払い方法などを設定。対象店舗で支払いに利用すると、なんと価格の20%がポイント還元されるというもの。
そのインパクトに、4か月間実施の予定がわずか10日で予定金額に達しキャンペーン終了。『LINE Pay』も12月限定で20%ポイント還元を行うなど、各社でサービス競争が激化し始めている。
キャッシュレス化は止められない
こうしたスマホ決済をはじめ、クレジットカードや電子マネーの利用を推進し、現金(キャッシュ)のやりとりを減らしていこうとする官民挙げての取り組みがいま、急速に加速している。
「いまは街のあちこちにATMがあって、いつでも手軽に現金が手に入り、わざわざキャッシュレスにしなくても不自由なく生活できる。特に中高年世代は“電子マネーってなんだか信用できない”“現金でないと落ち着かない”という人も多い。ただ今後、そうも言っていられなくなります」
と加谷さん。理由をこう解説する。
「銀行業界は全体的に経営が苦しく、維持費が年間何兆円もかかるATMを減らしていこうとしています。一方、現金をやりとりする小売店などは人手不足で、会計や両替など現金を管理する手間が惜しい。完全にキャッシュレス化すれば、店の人手が3分の2ですむというデータもあるほど。
日本経済全体で考えたときに、実は、現金の維持にかなりコストがかかっているのです。キャッシュレス化が便利かどうかということよりも、企業にコスト面で余裕がないことが理由ですから、この流れは止められません」
実際、政府が電子マネーによる給与支払いの解禁を打ち出すなど、キャッシュレス化へ向けた動きはとどまる気配がない。とはいえ、根強い現金主義で知られる日本。左上の表のように、まだまだキャッシュレス後進国といえる。
このまま進むと、私たちの生活はどう変わるのか。消費生活ジャーナリストでカード評論家の岩田昭男さんはこう指摘する。
「キャッシュレス化が先行している欧米や中国の動きをみると、よくわかります。お店はもちろん、屋台に至るまで“現金お断り”の店が増えるでしょう。生活するうえで、クレジットカードや電子マネーは必須という世の中になります」
変わりゆく時代をとらえ、おトクに乗り切っていきたいものだ。
《PROFILE》
あんびるえつこさん
生活経済ジャーナリスト。著書に『消費者教育ワークショップ実践集』など
加谷珪一さん
経済評論家。著書に『億万長者への道は経済学に書いてある』『大金持ちの教科書』など
岩田昭男さん
消費生活ジャーナリスト。著書に『挑戦と逆転の切り札』『キャッシュレスで得する「お金の新常識」』など