阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士

 インタビュアーとしても、作家としても大活躍を続けている阿川佐和子さん。作家・阿川弘之さんの長女として生まれ、若き日は自分が何をしたいかわからずに模索を続けていたが、その後、ニュース番組出演からキャリアをスタート。

 1年の海外生活を経て、40代で雑誌対談を開始、50代最後に出版した『聞く力』がベストセラーになった。還暦に差しかかってからは父母の介護を担いつつも、ドラマ出演、新聞小説の執筆など新しいことにも果敢にチャレンジ。一昨年には、63歳にして人生初の結婚もして、全方面で充実期を迎えている。

 なぜ、年を重ねるごとに、輝く力を増しているのでしょう? 「私にはご期待に沿える答えはありません(笑)」という阿川さん。そんなことは言わずに輝きの秘密を語っていただきましょう。

輝きのヒミツは4つの力

芋づる式に人を結ぶ『つながる力』

 昨年の11月に65歳になり、前期高齢者となりました。まぁ、またひとつ年を取っただけで特別、感慨はないのでございますが、誕生日にたまたま友人と行ってた宮城県気仙沼で祝ってもらっちゃいました。

 小さい復興支援ではあるんだけど、東日本大震災直後、『TVタックル』に、津波で港を流されてしまった気仙沼の人が出てくれて、「この人のために何かしたい」と思うようになってね。

 まずは友達を誘って遊びに行くってことから始めたんですよ。知り合いと一緒に、チャリティーコンサートをやったらそのあと、いろんな人とつながって。銀座の老舗の人たちと「とにかくできることからコツコツやろう」という会を作ったら、また協力してくれる人が増え、『三陸・銀座つながりスクエア』というイベントもしました。

 私はそんなに働いちゃいないんですけど、地味に動いているうちに芋づる式で人と人とがどんどんつながっていくんですよ。

 ただ、誠意がある人同士を紹介しても合わない場合もあるし、うまくいかないことだってあります。でも、それはしょうがない。失敗を恐れては何も進まないし、失敗から学習すればいいわけですからね。

 今も人とつながりながら、「やっぱり現地に来てほしい」という声に応えて、ちょびちょびと活動を続けています。

阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士

褒め言葉を信じてみる『のせられ力』

 私は根が小心者だから、褒められたり、おだてられたりすると、つい調子に乗って引き受けちゃうのね。『全国マン・チン分布考』という本の帯文を依頼されたときも、「阿川さんにぜひ」と言われて。女性と男性の秘部の名称について、学術的によく取材してあるなぁと本当に感心したので、引き受けてしまいました。

 ドラマ『陸王』の出演を引き受けたときは、ほかの仕事とのスケジュール調整が大変でねぇ。アシスタントは泣くわ、担当編集者は機嫌悪くなるわ(笑)。その対応だけでヘトヘトになってたから、撮影現場は楽に感じられるぐらいでした。

 役者さんの力を現場で目の当たりにしたのも、いい経験だったし。やってるときは大変でも、のど元すぎりゃ、よかったと思えるものなんですよ

その場しのぎでもなんとかする『やりくり力』

 先日、5か月半ぶりに美容院に行きましたが、普段は自分で髪を切っています。美容院ってけっこう時間とられるでしょ。カットやカラーリングの最中、仕事の資料を読もうとしても、老眼だから眼鏡なしでは見えないしねぇ。

 親の介護を始めたときに時間を節約したくて、鼻毛切りでちょいちょいと髪を切ってみたらなんとかなったので、それ以来、自分で切るようになったんです

 その場しのぎでなんとかするのが私のやり方。原稿の締め切りが重なって「無理だよ」と思うときは、とりあえずいちばん短いものからやっつける。

 1本仕上げれば、達成感があって次に進めるんですよ。そうやってその場をしのいでしのいで、今にいたるという感じですかね。

つらい状況も楽にする『笑っちゃう力』

 実は私、更年期障害の時期、けっこうつらかったんです。突然イライラしたり、泣き出したりすることも多くて。いちばんひどかったのはホットフラッシュ

 テレビ局でメイクをしている最中に、締め切りが延ばせないという連絡が入ったとたんに、ぐわぁぁって体温が上がって、「目玉焼きが焼けそうです」と言われるくらい頭が熱くなっちゃったこともありました。そうなると、髪もお化粧もぐっちゃぐちゃだし、症状がおさまるまで待つしかない。

 こんな状態では「仕事は続けられない」と思いつめたこともありますよ。『うから はらから』という小説は連載途中で、「更年期でつらいから書けない」と担当編集者に訴えたら、「じゃあ、それをテーマにしましょう」と言われて。登場人物が更年期で苦しんでるという設定にして、なんとか物語を展開させて、乗り切りました。

 自分をネタに笑っちゃうと少し楽になれるというのはありますね。突然泣いてる私って、ほかの人から見たらおかしいよなぁなんて思いながら、よく泣きながら笑ってました。自分はつらいと思うことでも、角度を変えてみると、笑い話だねってこと、けっこうあるもんですよ

Sawako's Life Style

息抜きでしていることは?

阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士

「ゴルフ! スコアはそのときどきでよかったり悪かったりいろいろ。“ムラの(多い)女”と呼ばれています」。

 最近は、仕事が忙しくゴルフを楽しむ日が少なくなっているのが不満だという。「でもときには、翌日のゴルフをニンジンにぶらさげて、原稿書きのスピードを上げることもある」とのこと。

得意料理は?

「惣菜。冷蔵庫の残り物でぱぱっと作る普通のおかず。“もう使ってもらわないと、僕は死にます”というような残り物……例えばショボくれたナスを蒸して中華風にするとか、しょうがじょうゆで焼きナスにするとかして、おいしいものになったとき、“わしゃ天才か!”と思ったりします。まぁ、たまにお腹を壊す場合もありますけどね(笑)」

毎日、必ず行う習慣は?

「体重を量ること。まぁ、朝シャワーを浴びるとき、ついでにって感じですが。今朝はちょっと多かったんですよ。ヤバいなぁ。

 ……という感じで、体重さえ量っておけば、飲みすぎや食べすぎ、食事の時刻など、多少は意識するでしょ。そうすれば、夜遅くに大ごちそうが出ても、うーんと考えて、結局はやっぱり食べちゃおうってなるんだけども(笑)。頭の片隅に入れておくと少しは違うかなぁって思うんですよね」

好きな時間は?

原稿を書き上げて、何を食べようか考えているときがいちばん楽しい時間ですね。例えば、冷蔵庫においしいお漬物があるから、うちでご飯を炊いて、あとは何を作ろうか……と献立を考えてるときが、食べるとき以上にワクワクする。

 レストランに行ったときも、メニューを見てあれこれ迷った末に1品目が出てくるころがいちばん幸せな瞬間かもしれない」

2019年の抱負は?

1年の計が守られたためしがないので、もはや計画なんて立てないんだけど」と、しばし考えたあと、「1週間ぐらい休んで、どこかに行きたい!」との答え。

 毎日忙しい状態が続いており、「“先に旅行の計画立ててくれていいです”とアシスタントは言うんですけど、立てる前に仕事が入ってきちゃうもんで」と、今のところ長期休暇は取れそうにないが、「贅沢な悩みでございますよ。ハッハッハ」と現状を笑い飛ばした。

おしゃれの匙かげん

 若いころは、「自分は黒子的な仕事をやってるんだから地味でいい」と無難な服ばかり着ていたんですけど。スタイリストの中村抽里ちゃんと40代で出会ってから、自由におしゃれを楽しめるようになりましたね

 彼女のすすめでポップなものを着てみたら、意外に似合うんだなぁなんてこともわかって、可能性が広がったんです。中身の性格がこんな感じですので(笑)、そこに見合ってるおしゃれかどうかというのは重要な要素だと思います。

 ロングヘアの縦巻きロールでエレガントなファッションというのにも憧れはしますけど、それで私のこのしゃべりだと違和感があるでしょう? この体形と、性格と、仕事の仕方と……ということも考えて、自分に似合うものを選ぶようにしています

阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士
 阿川さんは「スタイルで気になる部分がキレイに見えるように」という希望なので、ワンピースは、胸元やウエストがすっきり見える斜めにギャザーが入ったデザインです。パンツスタイルは、小柄な方にも似合うハイウエストタイプ。色みをおさえたフリル付きのトップスで、大人可愛い雰囲気に。(スタイリスト 中村抽里さん)
阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士
 いちばん気をつけているのは肌の質感ですが、最近の阿川さんはとても肌の調子がいいので、さらにイキイキとした印象になるようにパール入りの下地を使って内側から一段明るく見えるようにしています。ポイントメイクのアイラインとチークはしっかり入れて、はっきりした印象に仕上げました。(ヘアメイク 大島知佳さん)

楽しい今日を送るために

阿川佐和子 撮影/廣瀬靖士

たまにはズルすることも必要

 3年前、94歳で亡くなるまでは父のケアをして、今は91歳で認知症の母を介護中ですが、世の中にはもっと深刻な介護をしている人がいっぱいいますからね。

 私は極めて楽をしてると思います。兄ひとり弟ふたりと、たまに意見の食い違いはあれど、基本的には協力して交代でやってますし。

 安心してお任せできる方が平日は面倒をみてくれているので、めちゃくちゃラッキーなんですよ。

 介護や家事をすべて完璧にして、しかも対外的には笑顔を絶やさないというまじめな人も世間にはいらっしゃいますけど、私はいっぱい人に助けてもらってるし、ときにはズルもします。

「頭に来た!」とむしゃくしゃしたら、介護をサボってゴルフに行っちゃう。そのぶん誰かにシワ寄せがいったり、本人を我慢させることになるんだけど。自分がズルしちゃったと思うと、その後は優しくなれるでしょ

 私の場合は、介護の経験が仕事にもつながってますしね。「絶対無理」と断っていた新聞小説も、介護のことなら書けるでしょと乗せられて、『ことことこーこ』という小説を書き上げることができました。

若い時より今のほうが楽しい

 親がだんだん弱っていく姿を見るのは情けないし、寂しいことですけど。昔と比べてもしょうがない。年取るとこうなっちゃうのかぁ、ハッハッハ、と笑うしかない今いいところ、面白がれるところを、見つけるようにしています

 昔と比べてもしょうがないというのは、自分自身にも言えることですよね。今の自分と若いころの写真を比べたら、シワも増えたし残念に感じますよ。でも、生きてるかぎりは枯れていくもんだし、それをもとに戻そうなんてのは、不遜でしょ

 よく「20代に戻りたい」っていう人いるんですけど、「なんで?」って思っちゃう。だって私は今のほうが楽しいもん。まぁ見た目は若いほうがいいかもしれないけど。

 あのころのほうが心はつらかったなぁ。うるさい父親から脱したいと思いながら何もできなかったし、恋に悩んでどうせ私はダメな女だと落ち込むことも多かったから。

 今は忙しくてつらいと思うほど仕事があって、それはありがたいことですしね。いろんなことを笑っちゃうぐらいの余裕もできた。年を取るとともに失ったものをもあるけど、得たものはたんとありますもんね。だから、あまりマジマジと鏡は見ないことにしてるの。今のほうがシアワセだぞって思うためにね。

週刊女性の読者に向けて

 そうねえ……。、週刊女性に書いてあることすべては信じないように。(編集長の「そんなこと言わないで」という突っ込みを受け流す阿川さん)このページも含め、勝手なこと言ってるゼって笑ってやってくださいませ。

介護の実体験を交えた対談『看る力 アガワ流介護入門』
阿川佐和子 大塚宣夫/文藝春秋(本体780円+税)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
笑いと希望の介護小説『ことことこーこ』
阿川佐和子/角川書店(本体1500円+税)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
小さな老いも吹き飛ばす爽快エッセー
『いい女、ふだんブッ散らかしており』
阿川佐和子/中央公論新社(本体1200円+税)※1月10日発売 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

【出演テレビ】
TBS系『サワコの朝
毎週土曜午前7時30分~
テレビ朝日系『ビートたけしのTVタックル
毎週日曜午前11時55分~

PROFILE●あがわ さわこ●1953年11月1日、作家の阿川弘之さんの長女として誕生。慶応大学文学部卒業後は、織物職人を目指していたが、'81年からテレビの仕事を始め、『筑紫哲也のNEWS23』などのアシスタントを担当するなどして活躍。'92年、30代の終わりにそれまでの仕事をいったん辞め、1年間アメリカで過ごした。
 帰国後、『報道特集』でキャスターに。40代からは『週刊文春』の対談の聞き手となったり、『ビートたけしのTVタックル』で個性の強い出演者と絶妙なやりとりをしたり、新しい魅力を発揮。'99年、初小説『ウメ子』を発表、執筆活動にも力を入れるようになり、2012年『聞く力』がベストセラーに。'17年結婚。現在、91歳の母親を介護しつつも、多方面で活躍を続けている。

(構成・文/伊藤愛子)