平成最後の紅白は例年以上に注目が集まりました(東洋経済オンライン編集部撮影)

 大成功と総括していいだろう。

 第69回NHK紅白歌合戦(以下「2018年紅白」)の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、第1部が37.7%(前回2017年が35.8%)、第2部が41.5%(同39.4%)と、ともに前回より伸長。そ

 第2部の40%超えは2016年(第67回)以来となった。また、その後の報道にも見られるように、好意的な意見が大勢を占めており、質的な評価も合格点を超えたと言えよう。

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 では、2018年紅白の大成功の要因は何か。私は、「国民的求心力」復活への執念だと答えたい。

 もちろん制作陣は毎年、その復活を狙ってきたのだろうが、今回は、「一億人を惹きつけてやる」という執念の総量が、例年よりもかなり大きいと思ったのだ。

 ではその執念の下、どのような具体的施策によって、「国民的求心力」が高められたのであろうか。

情報の細分化露出戦略がうまく作用

 第一に、事前の段階的な情報露出である。ここ数年、情報を小出しにして、期待感を高めていく戦略が採られているが、2018年紅白については、情報の細分化露出が、極めてうまく作用したと見る。

・11月14日:出場歌手発表
・12月4日:北島三郎が特別企画で「まつり」を歌うことが発表
・12月12日:サザンオールスターズの特別企画出場が発表
・12月16日:刀剣男士、Aqours、AKB48の曲目・演出が発表
・12月21日:全組の曲目が発表
・12月26日:米津玄師の出場と曲目が発表
・12月26日:サザンオールスターズの曲目が発表
・12月27日:全体の曲順が発表

 中でも、米津玄師の出場決定というニュースは、事前の盛り上げに大きく貢献した。本連載の記事「『米津玄師』の曲がロングヒットし続ける理由」(2018年10月10日配信)でも分析したように、昨年の音楽シーンのMVPと言える米津玄師は、2018紅白の台風の目であり、歌手別視聴率も非常に高かった(サザンに次ぐ2位=44.6%)。

 後述するが、「国民的求心力」に向けて、その年のMVP的な音楽家の出場は、成功への必要条件だと考える。今回の米津玄師出場は、テレビ出演を拒否していると噂された米津サイドに対して、果敢にアプローチを仕掛けたスタッフの大金星だと思う。

 第二に、総合司会・内村光良の見事な立ち回りである。抜群の反射神経で、番組の進行との活性化の両立という難課題をクリア、「近年まれにみるカオス」を華麗に取り仕切った。

 2018紅白の司会布陣は「紅組:広瀬すず、白組:櫻井翔、総合司会:内村光良&桑子真帆」。実はこれまで、この「総合司会」というポジションは、基本的にNHKのアナウンサーが担当していた。しかし、今回と前回(2017年紅白)における内村光良のハマりっぷりを見れば、せめてあと数年、ウッチャンに総合司会を続けてほしいと思う。

 第三に、細かい話になるが、「曲順戦略」の巧みさである。具体的には「演歌を第1部に寄せ、第2部における若者向けJポップを固めることで、最後まで若者を逃さない」という戦略。

 今回出場した演歌系歌手は以下のとおり(歌った楽曲が演歌系以外の歌手も含む)。

・第1部:坂本冬美、山内惠介、丘みどり、天童よしみ、水森かおり、島津亜矢、五木ひろし(20組中7組=35.0%)

・第2部:三山ひろし、北島兄弟、北島三郎、氷川きよし、石川さゆり(30組中5組=16.7%)

 絶対数では7組対5組でそう変わらないが、比率では35.0%対16.7%だから、第2部における演歌系比率は、第1部の半分以下に減っていることになる。これは、演歌系を後半に寄せていた、昭和の紅白の対極を行くものである。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 この結果、第2部の22~25曲目=松任谷由実(視聴率43.7%・3位)→星野源(43.4%・4位)→米津玄師(44.6%・2位)→MISIA(43.4%・4位。星野源と同率)という、演歌系を介さずに全員が視聴率43%を超えるという「奇跡の26分間」が生まれたのである。

 また、多くの曲で、過剰な演出(けん玉、筋肉体操、イリュージョンなど)を加えることで、Jポップならシニア層、演歌なら若者層を取り逃がさない緻密な工夫がなされていた。このような「曲順戦略」と徹底した演出によって、2018年紅白の高視聴率が形成されたと見る。

「紅白」成功の最も大きな要因

 そして、第四の要因――それは成功への最も大きな要因と思われるのだが――として挙げたいのは、2018年紅白のMVPと言える、桑田佳祐と松任谷由実の存在である。事実、歌手別視聴率においても、サザンオールスターズが45.3%で1位、松任谷由実は43.7%で3位と、非常に高い水準となっていた。

 ここで注目したいのは、サザンオールスターズと松任谷由実が、キャリア初期の曲を選んだことである。

・松任谷由実:「ひこうき雲」(1973年)「やさしさに包まれたなら」(1974年)

・サザンオールスターズ:「希望の轍」(1990年)「勝手にシンドバッド」(1978年)

 特に1970年代=昭和の歌が3曲占めていることに注目したい(「希望の轍」のみ、ギリギリ平成)。「平成最後の紅白」において、桑田佳祐と松任谷由実は、平成を超えて、昭和生まれの曲を選んだのだ。

 松任谷由実は、NHKが実施した事前の投票でトップとなった「春よ、来い」を避け、ジブリ映画でも知られる荒井由実時代の2曲を選択。また、メディア露出時は必ず新曲をフィーチャーするサザンも、デビュー曲「勝手にシンドバッド」で締めくくった。

 結果論かもしれないが、両者とも、キャリア初期の曲を選曲することで、その途方もなく長い音楽キャリアが強調され、ひいては両者の「レジェンド感」が高まったと見る。そしてそのレジェンド同士が、最後の最後で、まさかの共演を果たした!

 強く感じたのは、「国民的求心力」のハブとなるのは、もはや演歌ではなく、桑田佳祐と松任谷由実らの音楽だろうということだ。

 さらに細かく刻めば、両者のような1950年代生まれのレジェンドが、その天才性を遺憾なく発揮し、かつ、ボリューム的に視聴者層の中核をなす1960年代生まれの層(私含む)が多感な時期に聴いた、1970~1980年代の「ニューミュージック」ではないか、ということである。

「国民的求心力」を保持するためにどうすべきか

 さて、これからの紅白が「国民的求心力」を保持するために、どういう方向に向かっていくべきだろうか。

 まずは、リアリティーとファンタジーの融合である。具体的にはリアリティー(生中継、生歌、生舞台、ハプニング性)とファンタジー(過剰な演出、完璧に編集された録画、違う場所からの中継)の見事な連携を意味する。もはや紅白は、どちらかだけでは食い足りないのだ。

 2018年紅白における松任谷由実の、「ひこうき雲」(録画)と「やさしさに包まれたなら」(生放送)の一連の流れは、まさに「リアリティーとファンタジーの融合」だった。

 次に、音楽シーンのMVP出場(への果敢な交渉)だ。米津玄師が出なかったら、今回のような成功はなかった。実はここ数年、個人的にMVPと感じている音楽家が、確実に紅白出場をしていてうれしい(2015年:星野源、2016年:宇多田ヒカル、2017年:椎名林檎、2018年:米津玄師)。今後も「MVP出場記録」が伸びていくことを期待する。

 そして最後に、具体的な話となるが、今回特別枠で出演した桑田佳祐の、今後のレギュラー化を望みたい。「国民的音楽番組」が発揮すべき「国民的求心力」のハブとして、桑田以上の存在はありえないと筆者は思うからだ。

 サザンオールスターズの大トリ、そして、桑田佳祐と音楽レジェンド(吉田拓郎、沢田研二、矢沢永吉、浜田省吾、そして可能性は著しく低いと思うが山下達郎など)の共演を固定にしてくれたら、あと数年ほどの紅白は安泰ではないかと妄想するのだが――。

 もう今から、今年の大みそかが楽しみで仕方がない。

(文中敬称略)


スージー鈴木(すーじー すずき)◎評論家 音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。