「世間体が悪い」「世間が許さない」「世間では通用しない」とやたらと周りからどう評価されるかを気にして生きている人がいます。婚活者の親の世代に、こうした方たちが多い気がします。
婚活ライターをしながら、仲人としてもお見合い現場に携わる筆者が、目の当たりにした婚活事情を、様々なテーマ別に考えてゆく連載。今回は、『世間体を気にする親に子どもがどう向き合うか』の話です。
世間様に笑われないお式にしたい
先日、成婚退会した吉行さん(仮名、28歳)が、事務所にやってきて、開口一番にこう言いました。
「マリッジブルーって、女性がなるものかと思ったら、男性もなるんですね。結婚を辞めたい心境ですよ」
なにが彼をこんなに憂鬱にさせているか? 話を聞くと、結婚を決めた同い年の絵美さんの親御さんの存在でした。
「結婚のお許しをいただく挨拶に行った時から、細かいことにこだわる人たちだなというのは感じていました」
婚約指輪はどうするのか、結婚式はいつやるのか、新居はどこに構えるのかあれこれ聞いてきたというのです。
「まだ何も決めていないので、これからひとつずつ絵美さんと相談して決めていきます」
そういうと、「私たちにも予定があるので、決まったら教えてくださいね。そんなにお金をかけなくてもいいけれど、世間様に笑われないお式にはしたいし。いい? 絵美」と、母親は娘に念を押したといいます。
そこから二人で都内のホテルを回り、結婚式を9月に決め、そのことを告げました。
「そうしたら、『9月は雨が多いんじゃないの?』とか、『衣装選びには、私もついていきたいわ』と、まるで自分の結婚式のような勢いでした。そんな母親に絵美さんは何の反論もせずに、言われたことをただ聞いていました」
そして、衣装選びの日は、絵美さんの母親も同行してきたそうです。さらに驚いたのは、吉行さんのご両親が結婚式の日に何を着るかにまで口を出してきたことでした。
吉行さんは、憤りを隠せない口調で続けました。
「留袖っていうんですか? 親や親族の女性が着る着物。ウチの母親は腰の手術をして以来、杖を使わないと歩けないんですよ。着物は着られないし、持っていない。その話をしたら、『困ったわねぇ。それじゃあ、世間体が悪いわ。今、留袖風のドレスがあるはずだから、それを着てもらいましょう』って、言うんです」
まだ、吉行さんが返事もしないうちに、そこのホテルの衣装担当の人に、「新郎のお母様が着られるような留袖風のドレスはありますか?」って聞いたとか。
さすがにムッとした吉行さんは、先走る絵美さんのお母さんに言いました。
「申し訳ないんですが、母は外出する時にはズボンしか履かないんです。スカートはまとわりついて転んでしまって危ないから」
すると、絵美さんの母親がこう言ったそうです。
「ズボン? 正式な場所に女性がズボンを履くのはみっともないですよ。結婚式には、吉行さんの会社の上司の方もいらっしゃるんでしょう? 正式な場所では、正式なスタイルでお客様をお迎えしないと。世間様に笑われますよ」
吉行さんは、私に言いました。
「彼女の家に結婚の挨拶に行った時から、お母さんの会話の中には、“世間”と言う言葉が本当によく出てきていました。世間って、いったい誰なんですか? 足の悪い母がズボンを履いていたのを見て、招待された客が笑いますか?」
今、吉行さんはこのまま結婚を進めていいものかどうかを悩んでいます。
髪型から服装まで、クレームをつけられて
もうひとつは、婚約を破棄してしまった真由さん(38歳、仮名)のケースです。
「振り出しに戻ったので、もう一度、婚活をします」
そう連絡があった時は、本当に驚きました。1か月ほど前には、結婚するお相手の誠一さん(43歳、仮名)と、仲良く事務所を訪れてくれたというのに、いったい何があったのでしょうか?
すでに結婚式の日取りも決まっていたはず。ひとまず面談をすることにしました。
「結納もして、結婚式の日にちも決めていたんでしょう。そこまで進んでいたのだから、やり直すことはできないの?」
こう言う私に、真由さんは言いました。
「『結婚を取りやめにしよう』と言い出したのは、誠一さんの方なんです。『お互いに価値観があまりにも違いすぎて、結婚してもうまくやっていけるとは思えない』って、言うんですね」
おつきあいしている時は、真由さんの服装や髪型について何も言わなかった誠一さんですが、彼のご両親に真由さんが会ってからと言うもの、遠回しに言うようになった。それが彼の意見ではなく、母親に言わされていると言うのを感じたそうです。
由美さんは、バストあたりまであるセミロングなのですが、レイヤーを入れてデザインカットをしているので、いつも下ろしたままのスタイルにしていました。
「その髪型似合うんだけれど、外出する時には髪の毛をゴムか何かでまとめた方がいいんじゃないかな。ご飯を食べている時に、髪の毛が料理に入りそうな時があるから」
真由さんは、私に言いました。
「彼のご実家にご挨拶に行ったすぐ後に、これを言われたんですよ。そのほかにも、『スカート丈は、膝上だと短すぎるから膝が隠れるくらいの方がいい』『メイクは自然に見える感じがいいよ』とか、これまで全く言わなかった細かいことにまで口を出してきて」
そのたびに、「そうね」と言って聞き流してきた真由さんですが、堪忍袋の尾が切れる出来事が起こりました。
結婚式は、世間様に恥ずかしくないお式を
「鎌田さんもご存知の通り、ウチの親は離婚しています。私は父の顔を知りません。父とはボツ交渉です。どうも誠一さんのご両親は、ひとり親だと言うのが気に入らなかったみたいなんですね」
先日、誠一さんの実家に、「話があるので来てほしい」と言われて行くと、ご両親からこんなことを提案されたそうです。
「真由さんのご両親が離婚なさったという話は誠一から聞いているんですよ。それで、お父様の顔も知らないそうだけれど、その話は、今後一切ウチの親戚、誠一の友人、会社の人の前ではしないでくださいね。世間体が悪いから。
あと、結婚式にウチは父と母が揃っている。でも、真由さんちはお母様だけ。それだと、最後に新郎新婦と両家の親が並んだ時にバランスが悪いでしょう?」
こういうと、仰天な提案をしてきました。
「今、人を貸し出してくれる代行サービスみたいなのがあるから、そういうところにお父様になる男性をお願したらどうかしら。世間体もあるし」
その帰り道、由美さんはこれまで溜まっていた不愉快な思いを、誠一さんに一気に吐き出しました。
「世間体が悪いって言うけど、世間って何ですか? ひとり親がみっともないですか? 私は、母が女手一つで私と弟を育てて大学まで出してくれたことを誇りに思ってるわ。代行サービスにお金を払って、父親でない人を父親にして結婚式に参列してもらうなんてバカげてる。そんなことはしたくない!」
由美さんの怒りに満ちた言葉に誠一さんは、口ごもりながらもこう答えました。
「まあ、そうなんだけど、ここで親と揉め事を起こさない方がいいよ。お金で人が雇えるなら、それはそれでさ。それに、僕の会社の手前もあるから、お互いに父親と母親が揃っていた方が、見栄えもいいんじゃない?」
その言葉を聞いて、「もうこの人との結婚はやめよう」と思ったと言います。
しかし、気持ちを伝える前に誠一さんの方から、「結婚は取りやめたい」という連絡がきたのだそうです。
この親にしてこの子あり。きっと幼い時から“それは世間が許さない”“世間様に笑われる”“世間体が悪い”そんな親の言葉を刷り込まれて、大きくなってきたのでしょう。
「それは世間が、ゆるさない」「世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?」
これは、太宰治の『人間失格』にある有名な言葉です。
本当は自分が気に食わない。それを“世間”と言う言葉に置き換えて、多数の人たちの声にしてしまう。自分の発言や考え方に自信が持てない人たちが、“世間”という言葉を使うのではないでしょうか?
親御さんの世代には、“世間”を気にする生き方をしてきた人たちが多い。日本がそうした時代背景だったというのもあります。
そんな親御さんに育てられた息子、娘が、親とどう向き合うか、どうパートナーを守り尊重していけるか。そこが大事ではないでしょうか。
鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイト『最短結婚ナビ』http://www.saitankekkon.jp/