外国人の技能実習制度。
“逆植民地”みたいなもの
外国人技能実習機構のホームページには、
《技能実習制度は、我が国で培われた技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「ひとづくり」に寄与することを目的として創設された制度》
と記されている。要は日本で技術を学んでゆくゆくは祖国の発展のために活用してもらう、という崇高な理念。耳当たりのいい制度だと思えるが、実態を知ると大違い。
「日本人経営者が外国人の労働力を低賃金で搾取している。言ってみれば“逆植民地”みたいなもの」(キー局報道局記者)という。
日本全国に約26万人いるが、劣悪な労働環境などのため2017年には7000人以上が失踪。'15~'17年の3年間に69人が死亡していたことが明らかになるなど、問題点が浮き彫りになっている。
諸外国には送り出し機関があり、日本には受け入れ機関として全国各地に2000以上の監理団体がある。そこで一定期間の講習をした後、技能実習生は受け入れ企業へと送り出される。
西日本の印刷会社で実習を受ける予定だったが、直前に妊娠がわかり、現在は就労できていないベトナム出身の女性Aさん(23)は、
「送り出し団体が、こういう仕事しかないと言って仕事を勝手に決めてしまいます。テストに受かったら、お金を払って、もうついて行くしかないんです。行かないならほかの人を実習生として行かせますと言われました」
と証言する。ベトナムでは家族で経営していた縫製の仕事をしていたという。
Aさんの妊娠に、ベトナムの送り出し団体の職員からメールが届いたという。監理団体が、Aさんを受け入れる会社に妊娠したことを伝えます、という内容だった。
その際、あたかも帰国がAさんの希望であるかのような手はずで進んでいた。
それに対しAさんは、
「私はまだ帰りたくないです。私は仕事して貸してくれたお金を家族に返したいです」
という意思のメールを送信した。週刊女性の取材に対しても、
「私は子どもを産みたいです。妊娠したことはうれしいですが、心配になることがあって、それは会社に雇ってもらえるのかということです。ただ、産みたいという気持ちは強いです」
と複雑な胸中を吐露した。
結婚や妊娠は想定されていない
Aさんは、SNSなどを通じて、外国人労働者問題に取り組んでいる全統一労働組合に相談を持ち込んだ。同組合の佐々木史朗さんは、
「もともとこの制度自体、女性の実習生が妊娠するという想定をしていないんです」
とバッサリ。
「監理団体が帰国を迫った事実はないということでした。ただ、はっきりしていることは、ベトナムの送り出し団体が、執拗に帰るように訴えていることです。妊娠がわかった2日後には、送り出し団体の副社長が来日して、Aさんを連れ帰ろうとしたんです。
彼女の場合、送り出し団体の契約書に、妊娠した場合は帰国と書いてあったのです。しかし技能実習制度では、本人の意思に反した帰国をさせてはいけないと規定されているんです」
その後もAさんは技能実習生の同僚にパスポートを抜かれたり(送り出し団体の職員に命令されたのでは? と佐々木さんは疑う)、Aさんの家族にまで早く帰るよう説得しろと送り出し団体が圧力をかけたり、送り出し団体の職員にベトナムから中絶の薬を持って行くと言われたりと、さんざんな目に遭っている。
前出・佐々木さんが続ける。
「家族帯同を認めていない制度にそもそも、人権侵害のおそれがあると思います。労働力として来るわけではなく、生活者として来るわけですから、結婚や妊娠というものは想定しないといけない。技能実習生手帳にも、技能実習制度運用要領のマニュアルにも、妊娠・出産・育児については、何も書いてありません。
想定外と切り捨てているんです。妊娠・出産は社会が最も保護しなければならないこと。政府が少子化対策や子どもを産む環境づくりを整えるなどと言いながらも、外国人実習生に対しては何もしないというのはいかがなものなのでしょうか」
技能実習生は、送り出し団体に「平均で50万~100万円を支払って日本に来ている」(前出・佐々木さん)。生活習慣も気候も違う日本で働き、生活しながら、母国の家族に仕送りし、借金の返済をするという、がんじがらめの生活を余儀なくされる技能実習生。
日本で働けずに帰国しようものなら、本国の給料ではなかなか返済できない借金だけがのしかかることにもなってしまう。
前出・Aさんも、
「子どもが元気に生まれて、今ある借金をとにかく返したいんです。それが今、いちばんの夢です」
と日本滞在を望む。
「人間としての扱いをしていない」
岐阜一般労働組合の甄凱さんは40代の中国人女性がこうむった日本の横暴なマタハラを告発する。
「母国には夫と長女がいて1度、休暇で中国に帰国しましたが、再来日したときに妊娠がわかりました。茨城県の農業関係の会社から、子どもを堕ろせば技能実習を継続しますが、もし子どもを産むのであれば帰国しなさい、という選択を迫られたと相談を受けました」
結局、女性は堕胎を決断せざるをえなかったという。
「人間としての扱いをしていないですね。ケガでも小さいケガならそのまま仕事をさせて、大きなケガだと帰国を強いる。働けない人の面倒は見ないということです」
と前出の甄凱さんは、怒りをにじませる。
妊娠を理由にした強制帰国をめぐっては、その違法性を訴えた中国人実習生が裁判で勝利したケースもある。判決は確定し、先進国とは思えない日本企業の“実習生使い捨て”が白日の下にさらされた。
つい先日、可決・成立した外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法の審議の最中、最低賃金以下の賃金で働かされていたり、技能実習生の逃亡防止のためにパスポートを取り上げたり、パワハラ・セクハラが当たり前のように行われている実態が次々に明るみに出た。
政府は、'25年までに50万人以上の外国人の就業を目指すという。その中には、単純労働分野での受け入れも含まれる。
言葉も文化も違う、さまざまな国からの人々を、単なる労働力、使い捨てではなく、日本人と共存する生活者としてどのように受け入れていくのか。日本語の習得は? 賃金や労災なども日本人労働者と同じように待遇できるのか?
「国は制度を作ったけど、何も責任を取らないという姿勢です」(前出・佐々木さん)
という技能実習制度を反面教師に、パワハラ、セクハラ、マタハラなどがない意識改革が、外国人労働者を雇い入れる側にも必要だ。