「夕飯の支度をしていたら救急車や消防車がひっきりなしに来てね。ここは高齢者が多い団地だし珍しくないんだけど、パトカーも来たからただごとじゃないって外に出たの。そうしたら娘が父親を虐待したって聞いて驚いてね」
近所の主婦(77)が事件当日の衝撃を明かす。
生活費の無心を断られ……
発生はお正月ムードの残る5日午後4時ごろ。厄除けで有名な寒川神社にも近い神奈川県平塚市にある築44年の団地で惨劇は起きた。
自宅で口論となった父を暴行した傷害の疑いで神奈川県警平塚署は6日、同市の無職・川木綿子容疑者(35)を逮捕した。父親の秀夫さん(68)は、直後に意識を失い、搬送先の病院で死亡した。
「木綿子容疑者は秀夫さんとふたり暮らしで、秀夫さんの年金と貯金を切り崩して生活していました。動機について“生活費を無心したところ断られ、ケンカになった”と供述しています」(捜査関係者)
秀夫さんを知る女性は事件前、こんな話を聞いていた。
「“年金だけじゃ苦しい”とこぼしていました。娘さん、前はバイトしていたみたいですが、今はわからないです」
お金を渡さない父親に木綿子容疑者がキレたのか、父親も仕事をしない娘に不満があったのか。止める人もなく周囲の人も気づかず、2DKの自宅で壮絶な親子ゲンカが繰り広げられた。
木綿子容疑者は父親に殴る蹴る、熱湯をかけるなどし、取っ組み合いにまで発展。
「容疑者の腕も少し赤くなったり、すりむけていました」(前出・捜査関係者)
その後、父親の異変に気づき、自ら119番通報した。
「“意識がなくいびきをかいている”という通報でした」
と消防関係者。
冒頭の近所の主婦が警察に連行される木綿子容疑者を目撃したという。
「救急隊がしばらくお父さんの心臓マッサージをしていたの。しばらくたったころ、団地の階段から警察に腕をつかまれた女が下りてきてね。眼鏡をかけて髪はぼさっと短くて実年齢より老けて見えました。驚いたのは表情が全然ないの。取り乱したり、泣くでも笑うでもなく無表情」
普段の木綿子容疑者の印象を聞くと、
「暗い」「挨拶しない」「しゃれっ気がまるでない」「印象に残らない」
というものばかり。秀夫さんがひとり暮らしと思われるくらい、存在を知られていなかった。
しかし地元の少年たちには有名だったという。少年の1人が明かす。
「あのおばさん、スゲーくさいんすよ。酸っぱいすえたにおいってわかります? お風呂に入っていないみたいな、汗みたいなやつ」
少年たちは深夜、自宅近くのディスカウントストア『ドン・キホーテ』で買い物する木綿子容疑者と一緒になることがよくあったという。
「レジを終えて商品を袋に入れてるときに隣り合わせになるともう最悪。マジくさかった。いつも黒いスウェット着て無表情。1度だけピンクのスウェット着ていた日があったけど」(前出・少年)
いい娘さんだなと思ってたのに……
それでも日中は父娘の仲睦まじい姿が目撃されていた。
「お昼過ぎにいつも2人でスーパーに買い物に出かけていましたよ。パパさんは自転車で娘は歩きで。(木綿子容疑者は)少し太っているからダイエットかなと思っていました」
と団地住人。前出・秀夫さんを知る女性も、
「私がここに引っ越してきて20年になりますが、川さん一家はその前からいました。秀夫さんは穏やかで“しまむら行ってきた”とか話す気さくな方でしたね。親子関係は悪くなかったと思いますよ。
おととしの秋ごろ、秀夫さんが体調を崩して入院して、退院後も右足を引きずっていて具合が悪かったの。でも“娘が面倒を見てくれている”と話していたので、いい娘さんだなと思っていたのに……」
と周囲は良好そうな父と娘の姿を見ていた。しかし、前出・団地住人が振り返る。
「いま思えば買い物したり、一緒に歩いているときも笑いあったりする感じではなかった。会話してるところも見たことないかも。娘は暗いし声を聞いたことないけど、パパさんは感じよくて挨拶してくれることもありました」
だが秀夫さんの意外な一面を古くからの知人が明かす。
「昔はケンカ早かったと聞きました。奥さんに対しても暴力をふるっていて、20年ほど前に離婚している。それが娘さんになんらかの影響を与えたのかなと思っちゃいます」
生活費の無心を断られたことをきっかけに、過去のうっぷんも爆発したのか。
「殺意は確認されていない。見たところ死に至るような傷はなく、暴行と死の因果関係は不明」(前出・捜査関係者)
夜な夜なドン・キホーテを訪れた容疑者が父親を殴ってまで手に入れたかったものはなんだったのだろうか。