いまや患者数1330万人を超える慢性腎臓病(CKD)。目立った症状が現れることなく静かに進行、悪性化していくことから『サイレントキラー』の異名を持つ。
CKDが引き起こす“負のスパイラル”とは
腎臓病の専門医である『まごめ内科・腎クリニック』の井上禎子先生が解説する。
「腎臓の働きを慢性的に低下させる病気の総称がCKDです。腎機能が正常の60%以下に低下しているか、タンパク尿が出るなどの腎障害が3か月以上、持続した状態を指します」
にぎりこぶし大のサイズである腎臓は、その大きさとは裏腹に、多岐にわたる重要な役割を担っている。
「血液をろ過して必要なものを残し、不必要なものを尿から体外に排出するフィルターの働きをしています。また、酸性に傾きがちな身体を中性に保ったり、ホルモンを放出したりして、骨髄に血液を作らせることも腎臓の役割です」(井上先生、以下同)
それだけにCKDを発症すると、身体全体の機能が低下し、心筋梗塞や脳卒中などの引き金になりやすい。また、病気のステージが上がれば血液中の老廃物が排出できなくなり、最終的には人工透析が欠かせなくなってしまう。
このような恐ろしい病気でありながら、初期症状は目立たない。むくみやだるさなど、腎臓病でなくても起こりうるものが多い。そのため血液検査をしなければ正確な診断はできない。
「家庭でできることは血圧のチェックですね。腎機能が落ちると血圧が急に上がることがあります。家に血圧計を用意して、異常が見えたら即、内科を受診するようにしてください」
太りぎみな人や血圧が高めの人は30代ごろから血圧チェックを心がけよう。
とりわけ気をつけたいのが睡眠との関わり。眠っている間に呼吸が止まる『睡眠時無呼吸症候群』がある場合は要注意だ。
「呼吸ができないと脳も筋肉も低酸素状態になり、それを解消しようと血圧が上がります。最も血圧が低いはずの安静時(睡眠時)すら、高血圧状態になるわけです。高血圧は血液をうまくろ過できなくなる腎硬化症の原因になりますし、インスリンの効果を落とすことから、糖尿病にもなりやすくなります」
CKDが高血圧を引き起こし、腎臓の負担が増し、さらに血圧を高める……この負のスパイラルで心臓血管病も起こしやすくなる。
食事療法と運動が基本
睡眠の質が低いと人工透析のリスクを高めるという報告もある。大阪大学の研究グループによれば、睡眠不足や過眠傾向のあるCKD患者は、ほかに比べて透析に至るリスクが1・3~2・1倍高かったという。
CKDも糖尿病と同じく生活習慣による影響が大きい。塩分や脂質の多い食事は動脈硬化や高血圧、高血糖を招き、CKDになるリスクも高めてしまう。
そのため治療は、糖尿病と同じく食事療法と運動、それから利尿薬などを使った薬物療法が基本になる。
「腎臓のろ過作用に負担をかける塩分を控えて。ごはんなどの糖質は総カロリーの55%程度におさえましょう。患者さんには“ときには食べすぎてもいいけれど、その分を3日から1週間かけて食事をコントロールすることで、帳消しにしてね”と伝えています」
肥満はCKDを引き起こす原因のひとつ。予防を考えるうえでダイエットは重要なポイントだが、意外な落とし穴も。
「最近、やせることを目的に糖質をとらない食事法が一部で流行していますが、過度な糖質制限は、腎機能の低下を引き起こしかねません」
CKDが重症化した場合、腎臓の移植手術が必要になる。そこで近年、注目されているのがiPS細胞を使った腎臓再生と、その移植だ。“腎臓の芽”となる前駆細胞をブタなどの動物の体内で作成、最終的に人間へ移植する技術が開発されつつある。
「患者さんにとって福音となることは間違いありません。まだ動物実験の段階ですが、こうした研究が実を結び、早期に治療の現場で使われるようになればと思っています」