登坂広臣 撮影/廣瀬靖士
「『雪の華』は日本人なら誰もが1度は耳にしている名曲ですし、僕にとっても青春の1曲」と登坂広臣(31)。中島美嘉の歌う大ヒット曲『雪の華』からインスパイアされ生まれた泣けるラブストーリー映画に主演する彼に聞いた、表現者として心にとどめていること、そして、男の幸せとは。

「必死に演じることで届けばいいなと思いました」

 俳優デビュー作で、数々の新人賞を受賞した映画『ホットロード』。この作品から5年ぶりとなる待望の恋愛作品に挑戦した登坂広臣。三代目 J SOUL BROTHERSのボーカルであり、’17年からは本格的なソロ活動もスタートさせたアーティストの顔ではない、俳優としての新たな姿を見せてくれるのが『雪の華』。

「企画の段階から声をかけていただいていたんです。3年くらい前かな」

 すぐには返事ができなかったと言う。それは、『ホットロード』を経験し、生半可な気持ちでは引き受けられない、相当な覚悟が必要だと感じたから。気持ちが変わったのは、

プロデューサーさんの熱意に打たれたというか。そこまで僕にという、その方の気持ちに応えたいと思って引き受けさせていただきました

 残念ながら、プロデューサーは作品の完成を見ずに永眠。きっと天国から大きな拍手を送っていることだろう。中島美嘉が歌い、国境や世代を超え愛される名曲『雪の華』(’03年)。このラブソングにインスパイアされ生まれた作品の脚本を手がけるのは朝ドラ『ひよっこ』や映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』を生み出した岡田惠和。

 余命宣告され、絶望しながら歩く美雪(中条あやみ)は、ひったくりに遭う。彼女のバッグを取り戻し「声出していけよ、声!」と前向きな気持ちにさせてくれたのが登坂の演じる悠輔。半年後、偶然、彼の働いている店の危機を知った美雪は勇気をふりしぼり「私が出します、100万円。そのかわり、1か月、私の恋人になってください」と提案する。

 一見、ぶっきらぼうだが、まっすぐで温かい悠輔は、自分とそうかけ離れていないと感じたと言う。ガラス工芸家を目指しながらカフェで働き、妹弟の面倒を見ている、ごくごく普通の青年を“無”になって演じた。

「この作品に向かった姿勢と同じで、ライブで歌っているときも、無になっているというか、雑念のない状態になるんです。とにかく一生懸命、伝える。不細工だろうが、どう見えていようがかまわない、必死に演じることで届けばいいなと思いました

 “無になれるようになった”、それにはある出来事があったという。

「アーティストとしてデビューしたころ、すごくいろんなことを考えてステージに立っていました。あるとき“うまく歌おうとしている。歌を、歌詞を届ける以外のものがたくさんある気がする”と指摘されたことがあって。それから、カッコつけるということを捨て、いま生まれた言葉のように歌ってみたら、“(これまでと)全然違う”と言ってもらえた。こういうことなんだと思いました。

 どんなに大きなステージに立っても、いつも、このことを思い出します。今回の作品に対しても同じでした。そうじゃないと受けられないくらい大きなものなので。でも、ほかでは、カッコつけているんですけどね(笑)」

 笑顔を見せる。いつも冷静で、俯瞰で自分を見ている印象のある登坂だが、

自分で思ったことはないですが、そう言われてみれば……。歌に関して言えば、4万、5万人の方が来てくださるドームで公演をしていても、ひとりに向かって歌っている感覚になるときがある。

 それが今回の作品も一緒で、もちろんカメラは回っているし、録音部さん、照明部さんがいて、いろんな人がいるけれど、ただ、そこにいる美雪と向き合っているだけというか。美雪しか見えない。だから、カッコつけるとか、どうでもよくなるのかな

「僕自身は、女性に振り回されるほうが好き(笑)」

 今作でも十分カッコよかったと伝えると、「本当ですか?(笑)」とテレる。

 初共演となった中条あやみ演じる美雪に徐々に惹かれていく悠輔をどう感じたか聞くと、

登坂広臣 撮影/廣瀬靖士

「美雪が天真爛漫な明るい笑顔でいても、どこか裏にある孤独や、陰の部分を悠輔は感じている。そこを好きになったわけではないんですけど、彼女には何かがあると感じているんです。

 それは、彼自身にも葛藤があるからこそ感じ取れること。“めちゃくちゃ振り回される。なんだよ”とも思うんですが、ふとした彼女の表情に引っかかりを覚えて、でも、その理由がわからなくて自分自身に腹を立てて。そんなふうに彼女への気持ちが募っていくことで惹かれていったんだと思います」

 彼氏ができたらやってみたかったことを実践していく美雪に振り回される悠輔。だが、意外にも登坂は……。

僕自身は、振り回されるほうが好き(笑)。一生、女性の尻に敷かれていたいです。男って、女性に手のひらの上で転がされているほうが幸せだと思います。自分が引っ張っているつもりだけど、実は、女性が“はいはい”って転がしてくれているほうが。女性って、強いじゃないですか、その強さがあるから、男の人を立てる優しさがあると思う。そういう女性と一緒にいるほうが、絶対に幸せですよ。

 自分のカッコ悪さ、ダサさを全部さらけ出すことができて、すべてを押し殺してでもその人を思って行動できる。そんなふうに純粋に愛することができる人に出会えたらいいですね

 まさにその純愛を描いたのが今作。

「最近、これだけの純愛物語って、あまりないかもしれないと思うくらいのストレートな恋愛物語だと思います。ただ、それだけではなくて、美雪へのお母さんの愛情だったり、さまざまな愛が描かれているので、きっと何かを感じ取っていただけると思っています」

 そう語る登坂に、もし、美雪のように残された時間があと1年しかなかったら、何がしたいかを聞くと、

「やりたいことを全部。ライブもしたいですし、身体のことを気にしないで暴飲暴食も(笑)。日ごろは、撮影やツアーがあるので、気をつけてはいます。

 どちらかというと、そこまで追い込まないタイプですけど、そういうものから解放して、夜中のラーメンも食べたいと思ったら食べるとか(笑)。あと、温暖化で水没してしまうと言われているモルディブに行ってみたいので、そこで過ごすのもいいですね」

Q.一生分の勇気をふりしぼって悠輔に声をかける美雪。美雪のように最近、勇気を出して挑戦したことは?

A.「自炊! 全然、してなかったんです。(取材を行った昨年末は)スーパーに週3とかで行きますし、ひとり鍋をよくやるので、ねぎスライサーまで買いました(笑)。簡単に作れるので、どうしても鍋が多くなっちゃうんですけど、豚しゃぶにしたり、トリ鍋にしたり。

 友達を家に呼んで食べることもあります。だいたい、誰かが夜中に「お腹すいた!」と言うので、夜食を作ってあげたりして。最近は、誰かの「腹減った!」って声をワクワクしながら待っています(笑)。メンバーのELLYが来たこともあって、鍋を作ってあげました

登坂広臣 撮影/廣瀬靖士

Q.作品を見て驚いたことは?

A.「いろいろあったんですが、いちばんは(音楽を担当した)葉加瀬太郎さんの力です。自分が演じているときは、その場所に音楽は流れていないですが、作品になって葉加瀬さんの作り出したメロディーが入ったことで、より見ている人の感情を揺さぶるというか。

 作品に、より厚みが出たなということをすごく感じました。演じていたときと、できあがったものの印象がまったくと言っていいほど違うこと、そして、音楽の力に驚きました」

『雪の華』(c)2019 映画「雪の華」製作委員会
『雪の華』 2月1日(金) 全国ロードショー
登坂広臣、中条あやみ、高岡早紀、浜野謙太、箭内夢菜/田辺誠一
監督:橋本光二郎 脚本:岡田惠和 音楽:葉加瀬太郎
公式サイト:http://yukinohana-movie.jp