伊香保温泉入り口にそびえ立つ「ペヤングオブジェ」。石段から流れる温泉を“湯切り”に見立てた演出も 撮影/渡邉智裕

 石段にドドンと鎮座する巨大ペヤング。すると、むせるほどの大量の湯気をもくもくと放ちながら、勢いよく“湯切り”が始まった!「ここって情緒が漂う、あの伊香保温泉!?」なんて驚き、戸惑いながらも、規格外の大きさの白く“四角い顔”と記念撮影する老若男女の観光客たち。

 群馬県の名湯・伊香保温泉が今、変わりつつある──。

 神経痛、婦人病、冷え性など女性にうれしい効能がたくさんあることから“子宝の湯”としても知られる伊香保温泉は、名物と名高い365段の石段を有する歴史の深い温泉地。今から2000年前に開湯したといわれる日本屈指の古湯が、なんとも大胆なイメチェンに踏み切った!

 そう、伊香保温泉は『ペヤング祭り』真っただ中。同じく群馬県に本社を置く『まるか食品』とのコラボ企画により、冒頭の巨大オブジェが登場するなど“ペヤング化”しているのだ。なぜ、即席麺のカップやきそば『ペヤング』が、唐突に伊香保温泉とコラボすることに?

「『ペヤング』はさまざまな種類の販売はもちろん、斬新なプロモーション施策により多くのお客様から愛される商品になりました。今回はその活動自体がお客様、当社はもちろん、第三者も幸せになる三方よしの企画ができたら素敵と考え、活動自体を集客コンテンツととらえた地域活性化企画を考案し実施に至りました」(まるか食品)

 つまりは、みんなで楽しく温泉とペヤングを満喫して伊香保温泉を盛り上げよう、ということなのだろう。

 たしかに温泉地の各所には、“攻めた”クセの強いお祭り色が濃く出ている。

 赤城山などを一望できる物聞山山頂まで結ぶロープウェイのゴンドラは、通常タイプの白色、激辛タイプの赤色とペヤングカラーに模様替え。標高932メートルを走る空飛ぶカップやきそばに乗れば、思わずニヤニヤしてしまう。

塗装されたロープウェイのゴンドラはまるで、空飛ぶカップやきそば 撮影/渡邉智裕

 そして伊香保神社からほど近い、湯本源泉地にある「伊香保温泉露天風呂」も『ペヤングの湯』に様変わり。いざ入浴すると食欲をそそるソースの香り……ではなく、新商品「スカルプDやきそば」をモチーフにした露天温泉は、まろやか~な湯あたりそのままの源泉の鉄分のにおい。新たな試みとして、水着着用での混浴時間が設けられた。

 祭りの開催を知らずに訪れたという若いカップルは、

「一緒に入れるとは思わなかったのでうれしいです(笑)。温泉に行くのが好きなのですが、こんな温泉地は初めて。特別な体験として思い出に残るので、こういう企画はどんどんやってほしい」

 と、好印象のようだ。

水着の貸し出しは無料。オリジナルデザインの水着は購入することも 撮影/渡邉智裕

 温泉あがりに小腹がすいたらペヤング販売所へ。水着やタオルなどのオリジナルグッズのほか、塩ガーリック味、たこ焼き風味、麻婆春雨味など10数種類を購入でき、併設された食堂で食べることができるのだ。まさに見て、入って、食べて満足の大盛りイベントになっていた。

販売所に並ぶ10種類以上の“ペヤング”の中には、見たこともないレアな味も。飲食スペースも併設(お湯代別途料金) 撮影/渡邉智裕

コラボに踏み切った伊香保温泉の大改革

「ペヤング」の語源はペア&ヤング。「恋ペヤング絵馬所」なる恋愛スポットも 撮影/渡邉智裕

 ところが取材中、「情緒があまり感じられない」という、観光客の声が聞こえたのも事実。たしかに古湯の温泉地を期待していた側にすれば、異例の祭りは複雑な気持ちになるのかもしれない──。

「不易流行という言葉があるように、新しいものを取り入れていかなければ廃れてしまいます。アクションがあるからリアクションがある。ダメだったらやめればいいだけ」

 そう話すのは、自らも旅館を営む渋川伊香保温泉観光協会・大森隆博会長。伊香保にかつての活気を取り戻すべく、新しい挑戦を展開する仕掛け人でもある。今回の祭りに賛否あるのは承知のうえのようだ。

「賛否があるのは当然」と大森会長。若い世代の意見も積極的に取り入れるアイデアマン 撮影/渡邉智裕

 平成3年の年間172万人をピークに、伊香保温泉を訪れる宿泊客は減少し、現在は年間110万人を割る。そんな観光客の減少に歯止めをかけ、逆に年間180万人を目標にV字回復をすべく改革を進めているのだそう。

「私の宿の予約は6割がWEBからです。つまり若い世代が増える中で、温泉地も変化が求められている。さらに、例えば台湾の方なら、74%がSNSを利用し、うち65%が観光地の写真をアップするというデータが示すように、外国人観光客対策も考えなければいけません。伊香保温泉を訪れる外国人観光客は、全体のわずか2%にすぎない。裏を返せば、まだまだ伸びしろがある」

 今回のコラボも若い世代や外国人が関心を抱くきっかけにしたい狙いがあってのことだ。それでも大森会長が「情緒があるところににぎわいを創出」と話すように、めったやたらにペヤングを配置しているわけではない。

 たしかに展示は部分的にとどめられ、肝心の石段街エリアや、もっとも古い516年の歴史を持つ旅館をはじめとした情緒ある街並みは保たれている。そして“美肌の湯”のもととされるメタケイ酸や、身体を芯から温める鉄分を多く含んだ優れた泉質は変わることはない。

 観光客が求める温泉地の“源泉”はそのままに、それでも“温泉大国”群馬県の観光を活性化させるため、時代に沿った新しいチャレンジをしているのだ。

「伊香保が盛り上がれば、群馬県全体が盛り上がる。そのためであれば、ペヤング以上のこともします(笑)。賛否以前に、無反応、何もしないことほど怖いものはありません。今後も、さまざまなことを仕掛けていこうと思いますので、ぜひ伊香保温泉に来て、体感してみてください」

伊香保神社の先に露天風呂「ペヤングの湯」が。せっかくならペアで楽しみたい! 撮影/渡邉智裕

 古めかしいと古くさいは、まったくの別もの。古めかしさを生かすために──。伊香保温泉は、いや、群馬県の温泉地は大きく生まれ変わろうとしている。

ペヤングの湯
「伊香保温泉ペヤング祭り」ともに3月31日まで
営業時間:【混浴】10:00~13:30(水着着用)【通常】14:00~18:00(入場17:30まで)
2月以降の営業日はHPを参照 https://lp.onsen-ouen.jp/ikaho-peyoung/