「いまどき犬や猫の子でも段ボール箱には入れませんよ。しかもお腹を痛めた自分の子どもを段ボール箱に放置したんでしょう。同じ女性として怖い。恐ろしいですよ」
と近所の60代の主婦は眉をひそめた。
「最初は息をしていました」
生後間もない女児の遺体を自宅2階の押し入れの中の段ボール箱に遺棄したとして、群馬県警伊勢崎署は1月26日午前4時15分、死体遺棄の疑いで、母親である同県伊勢崎市在住の飲食店アルバイト・源島(げしま)ゆみ子容疑者(25)を逮捕した。
捜査関係者が逮捕に至った経緯を説明する。
「前日の25日午前10時25分ごろ、児童相談所(以下、児相)職員と市役所職員が伊勢崎警察署を訪ねて、“1月2日に出産予定だった女性の出産の事実が確認できず、子どもの安否がわからない”と相談してきた。そこで県警捜査一課の捜査員と伊勢崎署員が自宅へ行ったところ、子どもの安否確認ができなかったため、本人を任意同行して事情聴取したわけです」
源島容疑者は、
「子どもは1月中旬に自宅2階のトイレで産みました。そのときは産声をあげ、当初は息をしていました」
などと供述している。
捜査令状をとって、家宅捜索に着手したところ、自宅2階にある容疑者の部屋の押し入れで乳児の遺体を発見。胎盤やへその緒はついておらず、目立った外傷はなかった。
それで逮捕に至ったわけだが、容疑者は子どもが死んだことについて、
「死んだという認識はしていません」
などと曖昧な供述を繰り返しているという。
自宅は閑静な住宅街にある一軒家で、両親と姉と暮らす実家だった。しかし、
「家族はみな容疑者の妊娠や出産を“わからなかった”と話しています」(前出の捜査関係者)
非常に不可解な話だ─。
事の詳細を、時系列に関係者の証言でたどってみる。まず、容疑者は昨年の11月下旬に初めて産婦人科を受診している。伊勢崎市役所は、
「その産婦人科から、市の保健管理センターに妊娠の連絡が入っているんです。ところが保健管理センターから12月27日、“その後、定期的な検診に来ておらず、妊婦さん本人とも連絡がとれない心配な状況にある”と報告がきました。すぐに年末年始を迎えましたので、年が明けてから、本人の連絡先(スマホ)に4回連絡をとりました」(担当者)と話す。
うち1回は、容疑者から折り返し電話があったという。
「スマホに受信履歴があったので電話しました。今度、病院を変えて通院しますので」
と話し、市の担当者がどこの病院にかかるのか尋ねると、
「これから探しますので」
という返答だった。
本人は家族の前で妊娠を否定
その後はまた連絡がとれなくなったという。前出の同市担当者が説明する。
「1月2日が出産予定日でしたが、初産なので少し遅れる可能性があった。出生届の提出期限は2週間以内です。児相と連携をとりながら連絡を待っていたのですが、見込みの期限を過ぎても出生届が提出されなかったので、児相に相談して同24日に自宅に行ってもらったのです」
その児相(群馬県中央児童相談所)は次のように話す。
「心配でしたので、夜の7時過ぎにスタッフ2名で家庭訪問しました。本人も家族もいました。子どもさんのことは、家族もおられたので、なかなか切り出せませんでした。本人が“妊娠していません”と否定されたんです。
中絶や流産した可能性もありますので、その場は引き上げてきました。翌日は朝からこの件で会議を開きましたが、やはり本人の発言や行動がおかしいことと、子どもさんが確認できなかったので、市役所職員と伊勢崎警察署に相談に行きました」
その後、先に述べたとおりの結果となってしまった。
「こんな悲しい出来事になるとは思いもしませんでした。無事に出産されて、市が支援できたらよかったのですが……」(同市の担当者)
容疑者宅を訪ねた。近隣住民によると、周辺は約20年前まで養蚕が盛んで桑畑が広がっていた新興住宅地。源島一家も一戸建てを購入している。インターホンを押すと、白髪まじりの短髪の男性がドアを30センチほど開け、憔悴しきった顔で「父親です」と名乗った。
なぜ、妊娠がわからなかったのか?
裸を見ているのに気づかぬ家族
「本当にまったく気づかなかったんですよ。昨年11月ごろ、家族4人で近場の温泉に日帰りで行ったんですね。そのときに、ボクは見てないですが、あの子の母親も姉も彼女の裸を見ているんです。それでもわからなかったぐらい。
一時は少しお腹まわりが太ったかなとは思いましたよ。でも、本人は“便秘ぎみなんだ”って言っていたし、それ以上は大きくならなかったんでね。12月は風邪をこじらせて寝込んでいたので、あまり見なかったし……」(父親)
警察官が自宅に来た1月25日、父親は在宅していた。
「本人と私が伊勢崎署に連れていかれ、別々に事情聴取をされて、そのまま本人は逮捕されたので、それっきり、話はしていません。ええ、面会もできない状態ですから。本当に妊娠していたか、産んだかについては、もう何がなんだか……」
とうなだれた。そして「ただ……」と付け加えた。
「あとで弁護士さんから聞いたら、妊娠がわかったころ(産婦人科の受診時)には、もう堕ろせない時期だったようです。それから、そのときにはもう、付き合っていた男性とはすでに別れていたみたいなんですよ。うーん、いまから考えると、やはり、ずっと情緒不安定な感じはあったですね」
その男性を自宅に連れてきたことはなかったのか?
「ないです。会っていたら、父親としては反対しませんよ。そろそろ結婚してもいい年ごろですからね」
と話し、ひとりで悩みを抱え込んでいた娘に手を差しのべてやれなかったことを悔やんでいる様子をみせた。
近所の主婦は、「お母さん、お姉さん、妹さん(容疑者)の3人とも、成人女性の平均身長よりも少し低く、ややコロッとした体形をされているので、妊娠しているかどうか余計にわかりにくかったのかもしれませんね。お母さんとお姉さんは一緒にいる姿をよく見かけましたけど、最近、妹さんは見かけなかった」と話す。
1月28日には乳児の遺体の司法解剖の結果が発表された。
死因は判明しなかったが、呼吸をしていた形跡が認められたという。つまり、死産ではなかった。死に至るような明らかな先天的異常や損傷もなかった。今後は、細胞検査などで生まれた時期や死亡した経緯を調べていく。
初産だった容疑者の自力出産は容易ではなかったろう。「便秘」と偽って自宅トイレで産むことはできても、赤ちゃんを授かることは、ひとりではできない。赤ちゃんの父親は何をしているのか。
やまさき・のぶあき 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している