鈴木拡樹 撮影/森田晃博

 “マンガの神様・手塚治虫”が描いた未完の傑作『どろろ』が50年ぶりにアニメ化され現在放送中。3月には舞台版の上演も決定し注目を集めている。アニメと舞台の両方で主人公・百鬼丸を演じるのは鈴木拡樹さん。新たなチャレンジとなる出演のオファーが来たときの心境を尋ねると。

本格的にアニメの声をやったことがなかったので驚きましたね。でも、こういう機会はそうないだろうと思いましたし、自分の経験にもなるし楽しまなきゃ損だなと。両方を精いっぱい楽しめたらいいなと思っています

『どろろ』は、戦国時代が舞台の物語。生まれる際に12体の鬼神(=人間の目では見えない化け物)に奪われた身体を取り戻すために旅をしている全身作りものの男・百鬼丸と、幼い盗賊のどろろが主人公だ。ともに旅するようになる2人の絆、鬼神との闘いや乱世の人々とのかかわりを描いている。

 子どものころ好きだった手塚作品は『ジャングル大帝』と『三つ目がとおる』だと言う鈴木さんの今作の印象は?

「手塚さんの作品の中でも異色の作品といわれているものですが、原作は今回のお話をいただくまで読んだことはなかったです。でも妻夫木聡さん主演の実写版映画を見ていたので世界観は印象に残ってました。そのときは百鬼丸が奪われた身体の部分をどんどん取り戻して人間に近づいていくっていう設定が希望に感じとれたので、冒頭からワクワクして見られたんです。ただ調べていくうちに、怖がられるようなおどろおどろしい雰囲気もある作品だと知って、僕が最初に見てた感覚とはちょっと違うところもあったんだなと思いましたね。

 でも男の子って、こういう奪われたものを取り戻していくって設定は好きなんじゃないかな」

アニメ声優初挑戦で挑む難役

 演じる百鬼丸は、最初はのども奪われていて、声が出せない設定のキャラクター。アニメの声優初挑戦で挑むにはかなりの難役だ。

最初、ちょっと笑いました。しゃべんないんだって(笑)。この役は段階を考えるっていうのが難しいことで。のどを取り戻せた直後にすごいペラペラしゃべるのはリアルじゃない気がするので、このアニメは心理的にとてもリアルだと思います。最初って、感情があふれすぎちゃうんですよ。大切な何かのために感情が爆発して、それが音になるっていう。しゃべるのではなく音になったのはいいことだなと思いました。その後、どろろが百鬼丸の気持ちをどんどんほぐしていってくれてぽろっと出るひと言であったりとか、そういうところもすごく繊細でキャラクター性を感じますね」

 アニメで演じた経験は舞台にどう生かされるのか。

アニメーションでアクションがカッコよく作られていてすごく感動したので、それは個人としてその動きひとつひとつを取り入れられたらなと感じてます。役作りとしては、あまり何もしないっていうのがポイントかなと思っています。テクテク歩いてたのにいきなり立ち止まってそこから動かないみたいな、お客様が見てて“あれ、なんで止まったの?”って思う。その“なんで?”をいっぱい引き出したいですね。ん? って思った瞬間に、どろろが“兄貴なんで動かないんだよ~”って突っ込んでくれるので(笑)。そのバディ感は最大のミソだと思うので大事にしたいです」

鈴木拡樹 撮影/森田晃博

 百鬼丸の人物像を鈴木さんは人間っぽいと語る。

「物語の主人公でヒーローなので、人のために善の行いをすることが多いのかなと思っていたら、とても人間らしい自分の衝動だけでも動いていて、この人ヒーローじゃないって強く感じて。それがドラマとしてすごく好きです。人形みたいで何を考えているのかわからないってところから始まって、最後に出てきたのがとっても人間だったんだなってところがうまく表現できたら面白いかなって思いますね

ベースは舞台という軸は変わらないけど

 百鬼丸の弟、多宝丸役で出演する有澤樟太郎さんとは初共演。「ずっと共演したいと思っていた」と鈴木さんを慕う若手俳優のひとりだ。

ありがたいですね。そう言ってもらえるのはうれしいことだなと思いますし、自分もちゃんとしなきゃなって改めて思います

 1月の『映画刀剣乱舞』公開に始まり、3月には主演ドラマが放送、『どろろ』の後も連続で主演舞台が控えるなど、ますます多忙を極める鈴木さん。仕事の幅が広がっているなかで変化していることはあるか尋ねると。

「ベースに舞台を置きたいとずっと考えていましたし、今もそこの軸っていうのは変わらないんですけど。変わらないなりに、新しいことをやっていくために挑戦して、学んで得るものっていうのもたくさんあるなって感じているので。いただいた機会に対しては常に感謝して誠実にちゃんと取り組もうと思っています。何をするにしても、挑戦ってやっぱり大変ですけどね」

 最後に今いちばんホッとするときを聞いてみた。

「……休みで寝てるときっていうのも考えたんですけど、お正月に十分寝て、もう寝ることすらなんか満足したときに、休み方がわからないってなったんで(笑)。だから結局1周まわって、仕事してるときのほうがいいのかな(笑)。仕事で何か役について調べたり考えているときが、いちばん楽しい時間でもあるので。何か気になることを探してる瞬間が、たぶんいちばん楽しくてほっとしますね

 
■舞台『どろろ』
 “マンガの神様・手塚治虫”未完の傑作が舞台化。舞台は戦国時代。生まれる際に12体の鬼神に奪われた身体を取り戻すために旅をしている全身作りものの男・百鬼丸(鈴木拡樹)と、幼い盗賊のどろろ(北原里英)が出会う。2人の、鬼神との闘い、乱世の人々とのかかわりを描く。大阪公演:3月2日~3日@梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ/東京公演:3月7日~17日@サンシャイン劇場/福岡公演:3月30日@ももちパレス/三重公演:3月23日@三重県文化会館大ホール
【公式HP】www.dororo-stage.com

すずき・ひろき◎1985年6月4日、大阪府出身。主な出演作は、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season月〈下弦の月〉』など。MCを務める『2.5次元男子推しTV』Season3(WOWOW)、アニメ『どろろ』(TOKYO MX、BS11毎週月曜、時代劇専門チャンネル毎週金曜)が放送中。今後は、舞台『PSYCHO-PASS サイコパス』(東京:4月18日~30日/大阪:5月4日~6日)、『最遊記歌劇伝-Darkness-』(6月6日~14日)に主演。主演のWOWOWオリジナルドラマ『虫籠の錠前』が3月放送予定。

(取材・文/井ノ口裕子)