2000年2月2日。ひとりの若き青年がデビューした。従来の演歌歌手像を覆す、茶髪にピアス、そしてイケメン。その歌声と笑顔は多くの人の心をつかみ、一気にスターダムに。演歌界のトップをひた走り続け、いよいよデビュー20周年というメモリアルイヤーに突入した。
世界各地で開催されたミレニアムカウントダウンが落ち着きを見せたころ。“平成の股旅野郎”というキャッチフレーズをひっさげ、氷川きよし(41)は演歌界にキラ星のごとく現れた。
デビュー曲『箱根八里の半次郎』は160万枚超えの大ヒット。日本レコード大賞や日本有線大賞などの大きな賞を手中に収め、『NHK紅白歌合戦』にはデビュー以来19年連続出場を続けている。競争や浮き沈みの激しい芸能界でデビューできるのは、ほんのひと握り。その後、デビュー20周年を迎えられる人間がどれだけいるだろう。この記念すべきタイミングに、きよしくんが語ってくれた、あのころ、現在、そしてこれから。
感謝の20周年にしたい
「振り返ってみると、どこの誰かもわからないひとりの青年が福岡から東京に出てきて、いろんな方の力で“氷川きよし”を作ってもらったんだなと感じています。
ファンの方が“こういう氷川きよしでいてほしい”と発信してくれるリクエストに応えたい、喜ばれたいという思いがすごく強くありました」
“氷川きよし”という責任のもと、みんなが作ってくれた道を歩き、歌ってきた、と追憶。デビューしたとき、20周年を迎えられると思っていた?
「いや、思ってなかったですね。今はよくても、1年後にはどうなるかわからない……。そんな不安はデビューのころから変わらず、今もあります」
昼の部は満員だったコンサートが、夜の部ではガラガラ……。そんな夢を見たこともあるという。
「お客さんが入ってくれることを当たり前だと思ってしまったら、失うものは大きいでしょうね。どんなときも“ありがたい”という気持ちを心から持ち、感謝しないといけない。だからこの1年は、感謝の20周年にしたいと思っているんです」
'19年のコンサートツアーのタイトルは、ズバリ『20周年大感謝祭』。命名はもちろん、きよしくんによるもの。感謝の気持ちをストレートに前面に押し出し、全国各地にその歌声を届ける。
5月18日(土)〜27日(月)には大阪新歌舞伎座での座長公演、そして7月11日(木)&12日(金)には日本武道館でのコンサートが控えている。メモリアルイヤーは、まさにお楽しみイヤーというわけだ☆
デビュー、あのヒット曲をあらためて振り返る
2000年2月2日。デビューの日には、どんなことを考えていた?
「とにかく自分のCDを出させてもらえることがうれしくて、すごく楽しみで。憧れでしたから」
実際に、レコード屋さんに確認しに行ったと、その日を懐かしむ。
「当時、“コロムビアレコード90周年記念アーティスト”、“北野武監督命名”という2つの冠があって。力を入れてもらいましたよね。“それにどう応えよう” “結果を出さないといけない”という気持ちは大きかったです」
ビートたけし&志村けんがMCを務める『神出鬼没!タケシムケン』('99〜'00年、テレビ朝日系)への出演を機に、デビュー曲『箱根八里の半次郎』はバカ売れ。コロムビアレコードでは“CDが足りない!”と、大騒ぎになったという。
「『箱根八里の半次郎』をいただいたとき? “やだねったらやだね”がかわいいなと思いました。
ただデビュー前は、ちょっとおしゃれな歌がいいなぁと思っていたんですよ。まだ22歳だったので“シャレてる”って言われたくて(笑)。だから“股旅でいくよ”と聞かされたときは戸惑いましたね」
時代劇に触れたことのなかったきよしくんは、ひたすらその世界観を勉強した。
「義理と人情。お世話になった人に尽くす礼。真心、そして優しさ。人間にとって大切なものが、股旅には詰まっている。すごくステキな世界を知りました」
そのスピリットは、現在のきよしくんが大切にしているものばかり。新人ながら異例のミリオンヒットを達成したきよしくんは、一気にスターの仲間入り。しかしシンデレラボーイは、やっかまれることもあった。
「“やだねったらやだねで終わる”とか“一発屋”とか、とにかく言われましたね。“頑張ります”としか言えませんでした」
セカンドシングル『大井追っかけ音次郎』も110万枚を売り上げ、2年連続で『NHK紅白歌合戦』に出場。最高瞬間視聴率は52・4%で、ケミストリーとともに瞬間最高視聴率獲得歌手となった。
「うれしさ以上に、すごいプレッシャーを感じてしまって。“ちゃんとした氷川きよしでいないといけない”という焦りを感じた年でもありました」
サードシングルはご存じ『きよしのズンドコ節』。コンサートのフィナーレを飾ることも多いこの曲をもらったとき、どう感じた?
「おもしろいことを考えるなぁと思いました。そして、流れに身をまかせてみようと思いました」
スターとなった自分自身への戸惑いを、この曲が吹っ切らせた。
「今、『きよしのズンドコ節』があることはすごく感謝しているんですが、もう17年も前の歌。次の“氷川きよしといえばこの曲!”といってもらえる曲を作らないといけない。
やはり、年齢とともに価値観や伝えたいことは変わってくる。今は人生を歌いたい。男として、女として、とかじゃなくて。人としてどう生きるべきかを伝えたいんです」
そう考えるようになったのは、一昨年。アニメ『ドラゴンボール超』の主題歌『限界突破×サバイバー』を歌ってから。
「悟空のおかげで、自分は本当に変わった。歌詞に“可能性のドアはロックされたまま”ってあるんですが、まさに自分自身でした。そして、自分は可能性をいっぱい持っているってことに気づかされました」
ヘッドバンキングありのハードロック。今までに見せたことのない姿だった。まさに可能性のドアを開け、歌手としての新たなステージへと進んだのかもしれない。
振り回されない強さを年齢とともに身につけた
この19年の間で変わったことを尋ねてみると、
「強くなれましたね。鍛えられた。やっぱりこの仕事をしていたら、いろんなふうに言われたり、思われたりもします。悔しいこともいっぱいありました。僕はどちらかというと、子どものときから言い返せない子でしたが、今は何を言われても“大したことないな”って思える。
振り回されない強さを年齢とともに身につけように思います。しっかりと自分を持った、一喜一憂しない生き方をしていきたい。自分は何をするべきか。歌で伝えていく。それがはっきりとわかったことが、変わったことだと思いますね」
そのときどきは一生懸命だったが、いま思うと仕事をこなしていくだけで精いっぱいな時期もあったと、きよしくんは厳しく振り返る。
「でも今は、自分で“こういうものを歌いたい!”という明確なビジョンがあるので、作品づくりがすごく楽しいんです。とにかく次から次へとアイデアが浮かぶ。これから、いっぱい楽しいことができるなって思っています」
若かりしころ以上にその瞳をキラキラと輝かせる。逆に、20年たっても変わらなかったことって ある?
「何でしょうね? 謙虚で優しい性格? よく言われます(笑)」
では、最後に。20年目を迎えた氷川きよしさん、これからの夢は?
「うーん。大変申し訳ないんですが、“演歌歌手”というカテゴリー分けを取っ払うこと! 誤解のないように言いますが、自分は日本人として、日本の演歌を歌っていることを誇りに思っています。
ただ、そこだけにとどまらず、“アーティスト・氷川きよし”と言っていただけるくらい、いろんなことを身につけていきたい。
歌唱力もそうですし、音楽性も、センスも。そういったものをひとつひとつ身につけていって、どんな歌も表現できる歌手になりたいですね」
今回、きよしくんに贈った淡い紫色の20本のバラは『オーシャンソング』という品種。平成の股旅野郎から、新時代のアーティストへ。氷川きよしの歌声が海を越え、国境を越え、世界に響き渡っていくことを願って。
2月10日(日)フェスティバルホール(大阪)
2月17日(日)NHKホール(東京)
【出演】山川豊、田川寿美、水森かおり、氷川きよし、辰巳ゆうと/司会・西寄ひがし
【開演】1部=11:00、2部=15:30
【料金】S席=1万円、A席=8500円、S席セット券=1万9000円
※各プレイガイドで好評発売中! セット券(1部、2部の通し券)は『新春豪華歌の祭典2019公演事務局』のみで販売