※写真はイメージです

「いらっしゃいませー!」「コチラは温めますか?」

 都内のローソンでこなれた接客をしているのは、ベトナム出身のニュンさん(21)。

「ハノイの高校を卒業して、従姉妹と一緒に日本に来ました。コンビニでアルバイトを始めて1年半です。将来の夢は通訳になることです」

 “AI化”、“省人化”と、もうひとつ、コンビニ業界のキーワードを挙げるなら“多国籍化”だろう。いま、全国のコンビニで外国人スタッフが急増している。

「私が働いているお店は、ベトナム人とネパール人とモンゴル人……あと、スリランカの人がいます」(ニュンさん)

コンビニ店員、多国籍化のゆえんは?

 東京、名古屋、大阪、福岡などの都市部では、いまやアルバイトは全員外国人という店舗も珍しくない。かつては一般的だった日本人の学生や、いわゆるフリーターがこの数年で急激に減り、代わりに外国人が増えた。

 なぜなのか──。(筆者の)大学生の甥に聞くと「コンビニは時給が安い」「そのわりに覚えることが多すぎ」「同じ時給ならカラオケ店員のほうがラク」という答えが返ってくる。なるほど。確かにコンビニのアルバイトは薄給(最低賃金に近い金額からのスタートも多い)で、業務は複雑。そのうえ、客からはスピードと正確なおもてなしを要求される。

 外国人が増えている背景には、日本人が敬遠する仕事を彼らが請け負っているという側面もある。

 彼らの多くは日本語学校や専門学校に通う留学生だ。留学ビザを取って来日し、学校へ通いながらアルバイトをしている。

 多国籍スタッフの共通語は日本語である。例えば、ベトナム人の先輩スタッフが、新入りのモンゴル人やミャンマー人に日本語で業務を教える。そんな光景も当たり前になった。

「コンビニではいろんな言葉を覚えます。この前は、シュウニュウインシ(収入印紙)を知りました」

 ニュンさんは、コンビニで触れた言葉をすべてノートに書き込んでいるという。バイト先の店で買った小さなノートには、几帳面な文字で、おでんの具や焼き鳥などの商品名が並んでいる。

「最初は『おでん』が食べ物とわかりませんでした(笑)」

 言葉だけでなく、日本の文化を店で知ることも多い。

「いらっしゃいませ、という言葉もベトナムにはありません。お店の人はお客様には挨拶しないので、最初は恥ずかしくて、大きな声で言えませんでした」「恵方巻とか節分の文化もコンビニで知りました」

 雇う側はどう思っているのだろうか。

「正直に言えば、言葉の面や新人教育にさく時間で比べても、日本人のアルバイトのほうがいい」

 と、あるコンビニオーナーは言う。

「でも、募集をかけても日本人は来ないし、背に腹はかえられない。1度は、“じてんしゃがこわれたから、今日はバイトに行きません”ってメールが来てビックリしたけど、まぁ日本人でもLINEで“今日辞めます”とかあるしね。どこの国でもマジメな子はマジメだし」

シフトは週に4、5回

 コンビニで働いている外国人スタッフは、昨年、大手3社だけで5万5000人を超えた。これは全国のコンビニの店舗数とほぼ同数。つまり、平均すると全店舗に1人は外国人スタッフがいる計算だ。しかし、彼らは、留学生であり、厳密には労働者ではない。

 出入国管理法では、留学生のアルバイトは原則的に週28時間までは認められているが、“就労”はできない。アルバイトはあくまで“資格外活動”として許可されているものだ。

「シフトはだいたい週に4回か5回。学校に行く前の時間です。本当は毎日、夜も働きたいけど、時間がオーバーしちゃうからダメです」(ニュンさん)

 オーバーワークが見つかれば、母国に強制送還されてしまう。ただ、なかにはそれを覚悟で規定時間を超えて働く“出稼ぎ留学生”もいる。

 彼らが熱心に働きたがるのは、借金を背負って日本に来ているからだ。初年度の学費と渡航費、それから、日本行きの準備をする代理人(ブローカー)への手数料などを含めると、日本円で100万〜150万円にもなるという。

 約146万人──。

 これは現在、日本で働いている外国人の数だ。もちろんコンビニバイトの留学生も含まれている。その数は年々増えており、'18年に過去最高を更新した。

 昨年12月、ドタバタの末に国会で改正入管法が成立した直後、海外のメディアはこぞってこう報道した。「日本が移民に門戸を開いた!」と。

 “エッ、日本にも移民がやってくるの!?”と驚いた読者もいるかもしれないが、日本にはもう移民はいる。実際に146万人もの外国人がすでに働いているし、その家族も含めれば250万人以上の外国人が暮らしているのである。

 “移民”と聞くと、なにやら怖いイメージがつきまとうが、国連などの定義では“海外で1年以上、暮らす人”を移民と呼んでいる。つまり、アメリカで暮らしているイチローもYOSHIKIも移民。日本で暮らす外国人なら、英語の先生も、料理人も、コンビニで働く留学生も、農家で働く技能実習生もみんな等しく移民なのである。

 それなのに、安倍首相が「断じて移民政策はとりません!」などと繰り返すものだからややこしくなる。あれは自民党が「入国時点で永住権を持っている人」=「移民」としているので、自民党の移民の定義が国際基準からズレているだけの話だ。

「日本ではこれ以上、外国人は増えないかも」

 私たち日本人の生活は、すでに移民抜きには成り立たない。

 コンビニのおにぎりひとつをとってみても、売っているのはアルバイトの移民であり、工場でおにぎりを作っているのも移民、野菜やお米を育てているのも移民という構図になりつつある。

「でも、日本ではこれ以上外国人は増えないかもしれません」

 と言っていたのは、あるベトナム人留学生だ。彼は東京大学の大学院で経済学を学び、約5年間、都内のコンビニで働いていた。この春、大学院を出て、東京で就職する。将来は「日本とベトナムの懸け橋になりたい」と言う。そんな彼がこんなことを言っていた。

「東京オリンピックのあと、おそらく日本は不況になると思います。そのとき、不況の国で働きたいと思う外国人はいるでしょうか」

 2025年には、国民の3人に1人は65歳以上の高齢者となる計算。そんな現実が迫る国で、もし本当に不況になり、日本を避ける外国人が増えたらどうなるだろうか。

 積極的に外国人を受け入れている市長や担当者に話を聞くと、「日本のファンを作ることが急務だ」と言う。ファンを作るにはどうすれば?

 コンビニで働いている留学生に、どんなときがいちばんうれしいかと聞いたら、「ありがとうと言われたとき」や「日本語を褒められたとき」だという。

「ありがとう」「どこから来たの?」「今日も寒いね」「日本語、上手だねぇ」

 コンビニで交わすそんな何気ない言葉が、彼らの心にしみ込んで、日本を好きになってくれたら、少しは日本の将来に役立つに違いない。

(取材・文/芹澤健介)


《PROFILE》
芹澤健介 ◎ライター。1973年、沖縄県生まれ。著書に『コンビニ外国人』(新潮新書)など。外国人労働者の問題とともに、近年ではがんの最新治療法について取材を続ける