昨今“テレビはおもしろくなくなった”という声が聞かれ、テレビ離れが加速しているように思える。その原因について、メディア文化論に詳しい法政大学の稲増龍夫教授に聞くと、
「2つ原因があり、1つは少子高齢化です。テレビを視聴する層が圧倒的に高齢者が多くなり、彼らに即した健康番組やクイズ番組など、視聴率が取れる定番のものが多くなったのです。2つ目は、ネットの普及により、若い世代が斬新な企画が多いネットに流れてしまっていることです」
しかし、作り手たちはおもしろい番組を生み出す努力を続けている。その結果、生まれたのが『チコちゃんに叱られる!』(NHK)だ。
「昨年4月から放送が始まった人気番組。木村祐一さん扮するチコちゃんが、MCの岡村隆史さんやゲストと一緒に世の中の素朴な疑問を解決していくという番組です。昨年末の紅白歌合戦にも出て話題になりました」(スポーツ紙記者)
そんな『チコちゃん』以外の隠れた名番組を探すため、テレビ番組を批評する側、作る側の3人に本当におもしろいと思う番組を聞いた。
東京MX、BSフジのニュース番組
放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏は、東京MXテレビをおすすめする。
「『バラいろダンディ』や『5時に夢中!』では、下ネタも飛び交ったりニュースを批評したりしています。タブーや制約も少なく、昔のテレビの魅力が残っていますね」
今、おもしろいと言える番組は深夜枠に多いという。
「特にテレビ朝日系の『マツコ&有吉かりそめ天国』がおもしろいです。基本的に有吉弘行さんとマツコ・デラックスさんのトークが中心で演出のバランスがとれています。ゴールデンだと演出が過剰だったり、予算があることで余計なゲストを呼んでしまいがちなんですよね」(デーブ氏、以下同)
そんなゴールデンの中でおもしろいと感じるのは『探検バクモン』(NHK)だ。
「爆笑問題が会社などを訪問して舞台裏を覗く番組。ゲストなしで、2人が普段は立ち入り禁止の場所などを探検します。CMがなく30分番組なので非常に見やすいです」
業界内では、BSの報道番組が評価されているという。
「生放送のニュース番組のプチブームが来ています。平日の午後8時から放送されているBSフジの『BSフジ LIVE プライムニュース』は、政治家を呼んで、あるテーマを掘り下げるというポジションを確立しており、見ごたえがありますよ」
コラムニストのペリー荻野さんは、NHK Eテレで月に1回放送されている『やまと尼寺精進日記』がおもしろいと語る。
同番組は、尼さんたちが精進料理を作るという内容で、ダイエットをしたいと思っている人に最適なのだ。
「夏場だと、境内に飼っているニホンミツバチの蜜、秋には食べられる菊など、季節の食材で料理をします。どの料理も丁寧に作っていて、すごくきれい。見たら作ってみたくなると思いますよ」
また、BSには地上波とは異なる切り口で攻めた番組も。
「BS日テレの『ぶらぶら美術・博物館』もおすすめです。美術館と聞くと敷居が高いイメージですが、すごくゆるいんです(笑)」(ペリーさん、以下同)
美術評論家の山田五郎氏が、展覧会や作品について、アート初心者のおぎやはぎにわかりやすく解説するという番組だ。
「山田さんは、西洋美術を勉強するために留学していたので非常に博識。例えば、葛飾北斎について、“この人は部屋がすごい汚くて片づけるのが嫌で引っ越していたんだよ”など、解説がすごくおもしろいんです。おぎやはぎさんも説明を受けた後に“これ、俺でも描けそうな絵だな”などと言うくらいですから、身構えずに見られますよ(笑)」
女性だけの番組制作会社である、株式会社ベイビー・プラネットの代表取締役で放送作家を務めるたむらようこさんが評価するのは『世界の国境を歩いてみたら…』(BS11)。観光地から遠く離れた国境を歩くという旅番組だ。国境は紛争とも無関係ではなく、歴史の街でもあります。ストーリー性という意味でも、旅番組として見ごたえ十分。国境というと、どこか物々しいイメージがありますが、この番組を見てみると隣町のような雰囲気なんですよね。国境は便宜上のものだと思えてきますし、隣の国とは仲よくしたいと思えます」
『世界はほしいモノにあふれてる』(NHK)は、特に女性におすすめの番組だという。
「トップバイヤーが世界を旅して雑貨やグルメを紹介する内容。ウインドーショッピングの楽しさを家でパジャマを着ながら味わえるんです。出演している三浦春馬さんとJUJUさんの出すぎないリアクションがよく、友達と一緒に買い物の成果を分かち合っているような気になれるんです」(たむらさん、以下同)
女性をメインターゲットにした番組はNHKが絶対王者だそう。その理由について、作る側であるからこそわかる裏事情が。
データ主義のNHK
「ここ数年のNHKは番組にかける思いが非常に強く、時間とお金をかけて視聴者の興味を精細に分析しています。民放の番組の多くは勝手な女性ターゲット像を作ってしまいがち。一方、NHKは民放のテレビ職員に比べて浮世離れしている人が多く、流行りものを知らない人も多いです。しかし、それを自覚しているため、データ主義が根づいているのだと思います。データの向こうに等身大の視聴者を見いだす努力があるNHKの女性向けの番組は、安心して見ることができます」
ちなみに、たむらさんが担当する番組の中でおすすめなのは『サラメシ』(NHK)。
「働く大人のお昼ごはんを取材した番組ですが、この番組を見ると日本を動かしているのは政治家や有名人ではなく、日々働いている私たちだということを実感できます」
前出の稲増教授は、今後もテレビはなくならないと話す。
「趣味や嗜好が多様化して、生活時間も変化したため、お茶の間でテレビを見るという構図が崩れてきたのです。それでもテレビはなくならないですし影響力もあります。ネットも結局、テレビのネタを切り取ったりしているので今後はメディア同士の連携が必要になっていくと思います」
低迷時代の中でも、おもしろい番組は生まれている。テレビも捨てたもんじゃない!