続出するバイトテロに終わりはあるのか──

 調理に使うおたまを股間にあてがう『すき家』、ゴミ箱に投げ入れた魚の切り身をまたまな板に戻す『くら寿司』に、おでんの白滝を口に入れ吐き出す『セブンイレブン』……。アルバイトによってSNSにアップされた不適切動画が拡散される“バイトテロ”現象が止まらない。ネットでは「こんな店に行きたくない!」と非難の声が上がるなか、『くら寿司』『セブンイレブン』はついに法的措置を検討する事態に──。

 前代未聞のバイトテロ炎上騒動をコラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。

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──アルバイトによる悪ふざけ動画が続出、拡散されてとんでもないことにになっています。

辛酸「数年前も冷蔵庫に入る写真をツイッターにアップしたりといった“バカッター”が流行りましたが、今回の“バイトテロ”はさらに内容がひどくなったというか、明らかにレベルが上がっていますよね。

 その中でも特に衝撃的だったのが『くら寿司』でした。回転寿司でもすし職人が握るなか、普通のバイトが魚を捌(さば)いていたという事実も店側としてはバレたくなかったところかもしれません。これだったらロボットやAIに任せた方がいいのでは? と思ってしまいます」

 ネットの声を見てみると“外食が怖くなった”という意見も多く見られました。今後、消費税が10%に上がるにつけて、持ち帰りだと8%になる軽減税率の存在もありますし、色々と外食産業へのダメージは大きいですよね。これからは、誰もが自炊するような世の中になるかもしれません

──今の時期、コンビニのおでんなんかはすごく売れると聞きますし相当な痛手かと。

辛酸「レジにすごく近いところに陳列されているということもあり、元々清潔度はどうなんだろうという疑問はありましたよね。“底に小銭が沈んでいるんじゃないか”という不安もあったなかでのあの動画はきつかったです……。

 ネットの書き込みには、“くら寿司が空いている”という書き込みも見られました。衛生面を気にしないメンタルの持ち主は逆に“今なら並ばなくて済む”と喜んで行くのかもしれません

──そんな人いるんでしょうか……! やはり画像が拡散されるバカッターと比べて、動画はインパクトもケタ違いですよね。

辛酸ユーチューバーの“〇〇やってみた”といった動画がブームなのも背景にあるのかもしれません。彼らが過激なことに挑戦しているのを履き違えたまま真似してしまったというか……。人気ユーチューバーならもし炎上して訴えられても賠償金は払えそうですが、バイトテロの人たちは普通の学生風なので厳しそうですよね。

 前に知り合いから“スーパーでメントスとコーラを買っている人をみかけた”という話を聞きましたが、組み合わせ的に普通に飲み食いしないことは明らかです

──それにしても、あんな動画を見てしまった後では、学生風のアルバイトに偏見を抱いてしまいそうな気もします……。

辛酸「そう考えると、コンビニでも真面目に応対してくださる外国人の店員の方が信用できますよね。日本人の若者がどんどん落ちていくという印象は寂しい感じがします。以前、電車で隣になった若い男性ふたりがコンビニで働いている話をしていて、キャンペーンでやっているくじ引きについて“欲しいものは先に全部もらう”、“雑誌・マンガが届いたら先に全部読む”と言っていました。動画をアップして炎上する“陽のテロ”もあれば、こっそりやる“陰のテロ”も存在しているのかもしれません

人生が終わるかもしれない

──今回拡散された不適切動画は「仲間内のノリでやった」という認識だったようですが、それについてどう思われますか?

辛酸女性が華やかな場所だったり、可愛い服だったり、おいしそうな食べ物をインスタにアップして“いいね”を欲しがるのに対し、男性は過激な動画をアップして“ワルに思われたい”。男女間で承認欲求の種類が全然違うんだなと思いました。思えば、70〜80代の男性でも“ヤクザの友達がいる”と自慢気に話す人はいますよね」

──拡散された動画のなかには『バーミヤン』のアルバイトが鍋から上がった巨大な火でタバコをつけるものもありましたが、あれはまさにその気持ちが前面に出ていますね。スマホがなかった時代からこのようなバイトによる悪ふざけはあったのでしょうか?

辛酸「やはりSNSの登場で助長されているような気はしますね。すぐ世界に公開できるという状況が人をおかしくさせているのかもしれません。そもそも画面に大量の大腸菌が付着しているといわれるスマホを調理場に持ってきていること自体がまずいと思いますが。女子がインフルエンサーに憧れる一方で男子は細菌をインフルエンスするというヤバい方向にむかっています……。

 しかし、かつてバカッターが横行したときも名前や勤務先などが晒されて、人生が大変なことになった人がいたにも関わらず、いまだになくならないのが不思議です。SNSを始める前に“人生が終わるかもしれない”ということを知っておくべきですよね

──それにしても、このような投稿を見つけてくる人もすごいですよね。24時間で消えてしまうインスタのストーリーズにアップされた動画を保存してアップし直しているわけですから。一体どんな人なのか気になります。

「楽しんでいる若者が嫌いな、歪んだ正義感で動画を探すネット上の風紀委員のようなものですよね。ストーリーズは消えてしまうわけですから、炎上しそうな人を見つけては常にチェックする愉しみがあるのでしょう。

 もしかしたら、学生時代に動画に出てくるようなイケイケの人たちにイジメられた過去があったのかもしれません。あのとき、クラスの片隅で暗い目をしている人たちにもっと優しくしておけばこのような炎上は起こらなかったのかも……

──今後、バイトテロが起こらないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。

辛酸「食べ物をゴミ箱に入れたりといった見る側にとっても傷つくようなイヤな動画ですし、知らない人に対して怒りが湧くという、精神衛生上よくないことになっています。過激な動画をアップすることで仲間内から“ヤバイ奴”と賞賛されることより、お客さんをサービスで喜ばせることが承認欲求につながるようになればいいと思いますね


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。