事件現場となった自宅。人の気配はなく静まり返っていた

 事件が起きたのは元日。

「私、これから死にます」

 さいたま市浦和区の無職・細谷俊夫容疑者(67)は午前6時20分ごろ、そう110番通報した。

身長180センチ・体重120キロの息子

「救急隊員が通報のあったマンションに駆けつけると室内には家族3人が倒れていました」(捜査関係者)

 長男で無職の祐介さん(31)は6畳の和室で布団の上にうつ伏せになっており、搬送先の病院で死亡が確認された。妻(64)は脱衣所であお向けに倒れ、首に軽いケガ。細谷容疑者は果物ナイフで自ら首を刺したとみられ、重傷を負っていた。

「細谷容疑者が祐介さんの首を絞めて殺害したとみています」(前出・捜査関係者)

 ケガが回復した2月14日、埼玉県警浦和署は殺人の疑いで細谷容疑者を逮捕した。

 一家は約30年前に現場の分譲マンションを購入し3人で暮らしていた。

「祐介さんは大学に進学した10年ほど前に統合失調症と診断され、通院していました。介護が必要な状態で、お父さんが面倒を見ていました」(知人女性)

 妻も同じ病気で、細谷容疑者が2人の介護の担い手だった。数年前に定年退職してからもそれは変わらなかった。

 自宅療養していた祐介さんが日中、マンション周辺を歩く姿は近所で有名だった。

「祐介さんは身長180センチ、体重120キロと大柄。髪は肩まで伸びた天然パーマで、ヒゲもモジャモジャでした」(同じマンションに住む男性)

 その風貌に加え、目立っていたのは奇行だ。

「路上をはだしで歩いたり、夏場に上半身裸で道端に寝てしまい、マンションの住人が数人がかりで自宅まで連れて帰ったこともあった。病気のことはみんな知っていましたので、“しかたがない”って思っていました」(同男性)

 家の中では大きな声を出すこともあった。

「昨年8月、細谷容疑者は“息子が暴れている”と警察に相談したこともあったそうです」(全国紙社会部記者)

 細谷容疑者は中肉中背。息子を押さえつけるのは大変だったろう。

マンションの住人が祐介さんをよく見かけていた住宅街の一角

 発症前の祐介さんを知る小中学校時代の同級生の母親は、

「祐介くんは身体が大きくておっとりした優しい子。“ホッちゃま”と友達から呼ばれる愛されキャラでした。どうしてこんなことに……」

 と言葉を詰まらせる。

年越しの異変

 細谷容疑者は、病気と闘う息子や妻ととことん付き合ってきた。近隣住民の理解や助けを得るためか、自治会活動には積極的に参加したという。

「笑い声が大きくて、豪快な方。物事をはっきり言う裏表のない性格で、何事にも一生懸命でした。奥さまと買い物に出かけるときはいつも荷物を持ってあげて、見ていて微笑ましかった。家族のことでご苦労されていたと思いますが、愚痴は1度も聞いたことがありませんでした」(同じマンションに住む60代女性)

 妻に注いだ愛情は、長男にも向けられた。この女性には忘れられないシーンがある。

「祐介くんが外出するとき、お父さんが2~3メートル後ろから見守るようについていくのを見かけたんです。他人に迷惑をかけたり事故に遭わないかと心配なんでしょう。祐介くんは上の空で気づいていませんでしたが……」(同)

 なぜ、愛する息子に手をかけたのだろうか。前出の捜査関係者によると、細谷容疑者は取り調べに対し、「何も答えたくありません」と容疑を否認しているという。

 一方、前出の男性住人によると、細谷容疑者は「人の話を聞かなかったり、突然怒りだす側面もあった」という。

 年末の大掃除を終えて家族で1年を振り返り、テレビの紅白歌合戦を楽しむのが大みそかの定番スタイルだとすれば、細谷家の昨年末はどうだったのか。大みそかの晩から元旦にかけ、細谷容疑者が自宅で酒を飲んで大声で騒いでいたというマンション住人の証言がある。

 不穏な年越しの予兆はあった。細谷容疑者を知るコンビニのスタッフが打ち明ける。

「細谷さんは毎年うちの店でクリスマスケーキとおせち料理を注文してくれたんです。ところが昨年末はいずれも注文がなく、どうしたのかな?と気になっていました。事件は衝撃的でした」

 何が犯行の引き金になったのかはわからないが、12月初めには遠因が生じていたのかもしれない。家族を支える献身的な姿を長年見てきたマンション住人からは細谷容疑者に同情する声もある。