「先生なんで(僕を床に)押しつけるんだよ」
少年が絞り出すように訴える─。
2月1日、そんな衝撃的な音声がYouTubeで公開された。投稿者は冒頭の少年の母親・ゆうこさん(仮名)。
「やり返していいです」
《イジメっ子に指示してイジメ被害者を殴らせ、イジメに抵抗するなら、この学校から出て行け! と叫んだ先生、責任を取って教壇を降りてください! 心身共に激しく傷ついた被害者は登校できなくなり、自殺の寸前まで追い詰められました》
というタイトルのこの動画の再生回数はわずか2週間で13万回を超えている。
「教師がいじめに加担して被害児童のほうを責めるという展開はネット上ですぐに拡散され、ワイドショーなどでも取り上げられました」(テレビ局関係者)
8分53秒にわたるその録音の一部を再現する。
'16年5月24日放課後、千葉県松戸市立常盤平第一小学校の4年生のクラスで事件は起きた。
いじめっ子とされる少年Aくんが冒頭の少年Bくんを殴り、Bくんがやり返したところから音声は始まる。
その様子を見ていた担任の女教師は、
「やり返していいです」
とAくんに告げ、Bくんのみぞおちを殴らせる。
「うぅ」というBくんのうめき声が流れる中、
「そういうことなんだよ!」
と、女教師は床にうずくまったBくんの背中を押さえつけた。そこでBくんの冒頭のセリフである。
「先生なんで押しつけるんだよ」
「床に座ってないとあそこ(黒板)が見えないからだよ! 2回も3回も説明さすな! あなたの耳が悪いからでしょ」
女教師は意味不明の理屈をつけながらBくんを執拗に責め続ける。こうしたやりとりを見ていた児童がほかの教師を呼びに行き、駆けつけてきたのが男性の教頭だった。
女教師は教頭に、「今から殴り合いをするんだそうです」と説明。
「やめてください。殴り合いをするんだったらこの学校から出て行ってください」と教頭。
Aくんが「俺はやってない」と言うと教頭はBくんの声を遮り急に声を荒らげた。
「するんだったら、出て行け! この学校から! ここはなぁ、法律の国なんだよ!」
Bくんは、悪いのは自分ではないと何度も言おうとするも教頭はまったくそれを聞こうとしない。Aくんにどうしてケンカになったのか聞くと、
「僕がまずちょっかいを出して殴って」
と正直に話しているのだ。にもかかわらず教頭は、
「やったやり返したってなぁ、やくざに聞いてみようか」
といった話を持ち出す始末。教頭にやくざの知り合いがいるとしたら大問題だ。教壇に立つものがやくざを脅し文句に使うのも言語道断である。どちらにせよ、この発言はアウトだろう。極めつきに、
「ここは日本です。日本は法律の国です。大人だったら殴り合いなんかしたら警察がきます。それはわかっているよね? そうだよね? 子どもだから大丈夫ってことはないんだからね、いい?」
と、今度は警察の存在をちらつかせる。教師が警察に通報をほのめかすとは職務放棄もいいところ。小学4年生にとっては十分な脅しになっただろう。
最後にBくんに向かって、
「お前は嫌われ者」とまで言い放っていた。
Bくんはこの後から不登校となった─。
逃げ場のない地獄
問題の女教師は現在も同校で小学1年生のクラス担任をしているといい、教頭は昨年から柏市内の別の小学校で教頭職についているという。
松戸市教育委員会は15日、会見を開き、Bくんのケアを最優先に対応すると約束したものの、問題の教師らへの処分については明言を避けた。
また、ネットに音声が公開されるまでの2年間、Bくんの長期欠席理由は「家庭の事情」とされていたことも明らかになった。Bくんの母親が訴えなかったらこのままなかったことにされていたのだろう。
Bくんについて同校の保護者が説明する。
「お母さんが日本人でお父さんが中国人のハーフの男の子で、小学3年生のときに転入してきました。(音声を聞いて)人種差別につながる発言がたくさんあってひどいなと思いましたね。
うちの学校は全校生徒が200人に満たず、Bくんの学年もひとクラスのためクラス替えがないんです。もしいじめられていたら逃げ場のない地獄ですよ。同じクラスに4、5人くらい中国人がいてハーフが珍しいという環境ではないです」
Bくんが受けていたといういじめについては、
「初めて知りました。18日に保護者会が開かれたのですがそこでも学校は、いじめはなかった、と話しています。ネット上でいじめっ子とされているAくんを知っていますが、優しい子でいじめをするような子ではないです。
“有力者の息子だから学校から優遇されている”みたいな情報もひとり歩きしていますが、AくんもBくんも同じ団地に住んでいて、Aくんのお宅は母子家庭だったはずですよ」
現在、ネットにはAくんの本名がさらされ、誤った情報が拡散されるという二次被害が始まっている。
教師2名による誤った指導のせいで2人の児童が苦しい状況に置かれているのだ。自分たちがしたことを理解しているのだろうか。
女教師と教頭に取材を申し込んだが、女教師は“松戸市教育委員会に一任している”と雲隠れし、教頭は“1日出張中”と言い張り、その後、電話がつながらない始末。
こんな無責任で卑怯な人間に子どもを指導する資格はあるのだろうか。
現在、Bくんの母親は2人の懲戒解雇を求める署名活動をしており、早くも2500人を超えている。
教師によって傷つけられた児童2人は来月、卒業式を迎える。こんな教師に仰げば尊しを歌う必要はない!
やまさき・のぶあき●1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している