往年のブロードウェイで活躍し、多くのスタンダードナンバーを生み出してきたソングライターに光を当て、その名曲とともに人生を見せる「ブロードウェイ・ショウケース」シリーズ。その第3弾『Red Hot and COLE』が描くのは、『ビギン・ザ・ビギン』などで知られる作詞・作曲家コール・ポーター。
この中で、コール(屋良朝幸さん)をめぐるさまざまな人物に扮してその人生を彩るのが、ミュージカル俳優として成長著しい矢田悠祐さんだ。
「ひとつの通し役ではなく、作品の中でいろいろな役をやるのは今回が初めてなんです。普通だったら演じる人物には一連のお芝居の中で前後があって流れがあるわけですけど、それがない。
一部シーンだけに出る役だとしても、やはり前後があってのその人物にしないといけないのでたいへんなんですが、役者としては面白いと思えますね。やはり短い時間の中で人物のカラーを出さなくてはいけないので、ちょっとオーバーにやってみたり、試行錯誤をしながら調整中。稽古場では、自分のやりたいプランをいくつか用意して臨んでいます」
コール役の屋良さんとは縁があり、今回が5度目の共演。気持ちのいい信頼関係ができあがっている。
「コールはけっこう波瀾万丈な人生を送って、お金はあるけど満たされなかったり、足に大ケガを負ったり、プラスもマイナスも振り幅があった。そういう人生やコールという人のいろいろな面が、音楽を通して伝わる作品になっています。
そのコールを演じる屋良くんは、本当にいい方です。“こんな人が真ん中だったらいいな”という理想的な座長なんですよ。“気を遣いすぎ!”というくらい遣ってくださるし、役者のみんなを代表して言わなきゃいけないことは言ってくれるし、話しやすいし、空気を変えたいときには明るい方向に持っていってくれる。歌も踊りも何でも完璧にできる人なので、共演者としても最高です」
テニミュができたんだから大丈夫
このシリーズへの参加は2度目。前作の『ロジャース/ハート』ではリチャード・ロジャースとコンビを組んだ作詞家、ロレンツ・ハートを演じている。
「前回はロジャース&ハートのことをあまり知らなかったので、作品を通して知ることができたというのがすごく楽しかったんですね。“こんないい曲、なんで知らんかったんやろ?”と思うくらい、本当にいい曲ばかりがたくさんあったので。
今回もそれは同じなんです。僕くらいの年代の人でも刺さるというか、心惹かれるものがあるはず。それが100年くらい前に作られた曲だと知ると、純粋に“すごいな!”と思います。スタイリッシュだし耳触りがいいんですけど、歌ってみると意外なほど難しくて。今回はコーラスワークが多く、すごくこだわって作られているので、そこも楽しみにしてほしいですね」
矢田さんが俳優としてスタートしたのは、雑誌の読者モデルがきっかけだった。その前は、アパレル業界を目指していたという。
「たまたま人前に出る機会があって、そういうのも楽しいなと思っていたらチャンスに恵まれて。歌はもともと好きで、高校生のころは週3くらいでカラオケに行って歌ってました。それが生かされるなんて思いもしませんでしたけどね(笑)」
俳優修業は『テニミュ』こと『テニスの王子様』がさせてくれた。
「やはり『テニミュ』に育てられたと思います。だから『テニミュ』に出ていた人に会うと、年代が違っても“おっ!”ってシンパシーを感じるんです(笑)。男子校の部活ノリで、厳しかったけど “あれができたんだから大丈夫”みたいな自信も芽生えました」
そして「役者としての何もかもを変えた」のが『アルジャーノンに花束を』への大抜擢。幼児の知能から天才へと変化するチャーリィ役を演じ、感動を呼んだ。
「この作品をやった後ではいただく台本の色が違って見えました。以前よりもっと“いろいろできるな”と感じたんですね。書かれていることだけじゃなくて、深められると。チャーリィは苦しい役でしたしたいへんでしたけど、そのぶん、舞台上で“本当に生きているな、この役の人生を歩んでいるな”と感じられたので、そういう役にまた出会いたい。いまの役ももちろん演じがいはありますが、あそこまで追いつめられる役ってなかなかないので。稽古中は1日100個くらいダメ出しを言われましたから。“もうこれ以上は入りません、限界です!”ってなると稽古が終わる、みたいな(笑)」
かなりストイックなんですね!?
「どうかなあ(笑)。でも僕はいつも作品全部を背負っているくらいの覚悟で、自分の全存在を懸けて舞台に立っています。だからめちゃくちゃ追いつめられてしまうんですけど、自分のやろうとしたことがはまったらすごく楽しい。納得いかない歌い方をしてしまったら最悪の気分になりますけど(笑)。そういうことも含めて、生の舞台が好きなんだと思いますね」
<出演情報>
ミュージカル『Red Hot and COLE』『エニシング・ゴーズ』や『キス・ミー・ケイト』などのミュージカルや数々のスタンダード曲を生み出した作詞・作曲家、コール・ポーター。名門の出でパーティー好きだった彼の愛や孤独、人生を名曲で綴る。ソングライターを描く「ブロードウェイ・ショウケース」シリーズの第3弾。東京公演は3月1日~17日 博品館劇場。
<プロフィール>
やた・ゆうすけ◎1990年11月16日、大阪府生まれ。雑誌の読者モデルを経て、2012年に俳優デビュー。同年から'14年までミュージカル『テニスの王子様』7代目青学・不二周助役を演じ、注目を集める。'17年にはミュージカル『アルジャーノンに花束を』で初主演を果たした。近年の主な出演作に『THE CIRCUS!』シリーズ('16-'18)、ミュージカル『王家の紋章』('16-'17)、『ドッグファイト』('17)、『「陰陽師」〜平安絵巻〜』('18)、ブロードウェイ・ショウケース『ロジャース/ハート』('18)、『The Silver Tassie 銀杯』('18)など多数。
<取材・文/若林ゆり>