災害時には情報伝達が課題となる。
SNSが被災地内外を結ぶ手段に
1995年の阪神・淡路大震災では固定電話が主流。個人による発信は、ほとんどなされていない。総務省の統計によれば、携帯電話・PHSの世帯普及率(単身世帯を含む)は10・6%、10人に1人しか所有していない。情報伝達としてはラジオが注目された。
2004年、新潟県中越地震のときの携帯電話・PHSの普及率は92・2%。携帯電話だけでも85・1%となっていたが、基地局が崩壊、通話できない状態が続いた。一方、PHSは基地局の範囲が狭く、1つのエリアを複数の基地局でカバーする仕組みだ。
ITジャーナリストの三上洋さんは「携帯電話よりもPHSのほうが通話できたため、災害用に自治体がPHSを持つようになった」と話す。
東日本大震災が起きた'11年、携帯電話の普及率は94・5%。多くのユーザーがSNSを利用していたが、スマートフォンの普及率は29・3%。3人に1人しか利用していない。
もちろん、津波被災地域は基地局に電源供給がされず、特に地震直後は携帯電話が情報を得る手段にはなりえなかった。だが、時間がたつにつれ、ユーザーが増えていたツイッターやフェイスブックを中心にSNSは、被災地外と結ぶ手段となった。
3・11の前年にはライブ配信が流行。ユーストリームやニコニコ生放送では徐々にユーザーが増えていた。その影響で、リアルタイムに津波情報や避難所からの情報を流しているユーザーもいた。
「テレビがインターネットでも同時に放送されるきっかけとなりました。最初は、中学生がiPhoneを使ってユーストリームでテレビ番組を流していたのですが、運営側も超法規的に認めたのです」(三上さん、以下同)
'16年、熊本地震のときの携帯電話の普及率は3・11のときとほぼ同じだが、スマホ普及率は71・8%と2・5倍に増加。スマホと相性のいいツイッターやフェイスブック、インスタグラムが情報発信の場に。開局したばかりのネット放送局『AbemaTV』も注目された。
「動物園のライオンが逃げ出したというデマも流れました。友達との間のネタ投稿としてあげたものですが、流した人は書類送検される結果に。SNSは災害時にデマが拡散されてしまうことが問題になっています」
災害時の「流言」は必ず起きる
震災が起きると、いまではSNSに情報を求めがちだが、停電にならないことが大前提。昨年の北海道胆振東部地震では全道停電となり、ネットでのコミュニケーションも難しくなった。
災害が発生すると、真偽不明の情報が一時的に飛び交う。今年2月21日、北海道胆振地方で震度6弱の地震が発生。気象庁は前年の余震と発表した。
そんな中、鳩山由紀夫元首相がツイッターで《苫小牧での炭酸ガスの地中貯留実験CCSによるものではないか》《本来地震に殆ど見舞われなかった地域だけに、CCSによる人災と呼ばざるを得ない》とツイート。これを北海道警が“流言飛語”と判断、注意を呼びかける事態に。
東京大学大学院・情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也准教授は、「災害時の流言は江戸時代から確認されており、絶対に起きるもの。止めようがありません」と話す。
その内容は災害に関するデマや余震に関するもの、性犯罪被害の増加、外国人の窃盗団といった内容がパターン化している。
「大きな災害だと、家を離れ避難所生活をしますが、そのときに不安が増します。知りたい情報量が与えられている情報を上回ると、それを埋める形で流言が飛び交うのです。信憑性を高めるために“知り合いから聞いた”“ラジオやテレビで言っていた”などの言葉が付け加えられたりする。しかし、災害時に発生するデマのパターンを知っておけば、間違いだと気づくことができます」(関谷准教授)
(取材・文/渋井哲也)
《PROFILE》
しぶい・てつや ◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『命を救えなかった―釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(第三書館)ほか著書多数。