「今は射出成形機も電動機ですので見てのとおり静かでしょう。24時間稼働で1日20万個から25万個、年間で6000万個製造しています。そのうちの約20%は海外、20か国へ出荷しているんですよ。私どもの消しゴムは、企画から設計、製造、出荷まですべて自社で賄う“メード・イン・ジャパン”です!」
そう笑って工場内を案内してくれたのは、埼玉県八潮市に社を構える株式会社イワコーの創業者・岩沢善和さん(85)。
’68年の創業後、「鉛筆キャップ」など幾多の大ヒット商品を世に出したアイデアマンだ。代表職を譲った今も、「岩沢さん」として“ものづくり”に携わっている。
そんなイワコーの主力商品が、動物や乗り物、食べ物などの形をした『おもしろ消しゴム(R)』だ。1個の値段は50円。シンプルなつくりに見える消しゴムだが、かなりの手間とアイデアが詰まっている。
『おもしろ消しゴム(R)』のこだわり
「デザインや設計を考えるのに1年以上。そして、最初にサンプル模型を職人さんが“ロウ”でつくるのですが、これが名人芸。あぶった針の先でロウを削っていくんですが、熱すぎるとほかの部分が溶けてしまい、また針先はすぐに冷めてしまうので、正確さと速さが求められるのです」(岩沢さん、以下同)
できたロウ模型から、今度は硬いプラスチック素材で製作し、パーツごとにベリリウム銅の金型をとっていく。1個の消しゴムを作るのに500万円、高いものでは800万円かかるという。
消しゴムの原料に使われるのは「SBSエラストマー樹脂」。有害物質の鉛や、他社製品で使用されることもある塩化ビニールは一切使用しない、国際検査機関で認められる安全性も、イワコーのこだわりだ。
このSBSに、300色から選び配合した顔料を混合機にかけて色づけ。見た目にも「おいしそう」「かわいい」が決まる重要な工程だ。
いよいよ射出成形機へ。ドロドロに溶かした材料を、高圧射出でノズルから金型に流し込まれる。あっという間に成形された消しゴムのパーツが、次々と金型からはがされて出てくるさまはおもしろい。パーツ同士をつなぐ余分な“軸”は、粉々にされて無駄なく再利用するそう。こうしてできた各パーツを組み立てるのだが、これがまた手作業。ご近所の250軒に届けられ、内職としてひとつひとつ丁寧に組み立てられる。
無事に完成すると検品、梱包されて、消しゴムは工場から国内外へ出荷されていくのだ。
“形のある消しゴムは消えない”!?
今でこそ、世界中で親しまれる『おもしろ消しゴム(R)』だが、すべてが順調だったわけではない。初めて作られたのが’88年のこと……。
「その少し前くらいから、キャラクターフィギュアが大流行していたのですが、それが柔らかい素材だったことから“消しゴム”として認知されていたのです。それで“形のある消しゴムは消えない”という概念が植えつけられてしまったんですね」
イワコーの消しゴムは、いわゆる“キャラクター消しゴム”の類とは全くの別もので現在の消字率は87・7%。JISが定める規格値80%以上をクリアする、れっきとした消せる消しゴムなのだが、「誰も相手にしてくれなかった」と、岩沢さんは当初を振り返る。
その後も、ライバル会社の出現や倒産危機など山谷あれども、夢と目標を持ち続けて、国内唯一の立体消しゴムメーカーの地位を確立。’08年には国土交通省主催の『日本のおみやげコンテスト』で金賞を受賞し、海外のおもちゃショーにも出展するほどに認識されていったのだ。
今回、体験させてもらった工場見学には、親子連れや社会科見学などで年間およそ1万人が訪れる。そのすべての回で、岩沢さん自らが案内をしているのだそう。
「子どもたちには“夢は寝て見るな。文字にして達成するまで毎日それを見なさい”。そして“小さいことでもいいから1番になろう。そうしたら、もっと自信がついて、今度は大きな1番になれるよ”と、話しています」
岩沢さんも、今なお大きな夢と目標を持っている。
「世界中の子どもを消しゴムで笑顔にしたい。ワッと驚くようなものを作りたい。お金をかければいくらでもいいものはできますが、お小遣いで買える、手にできる値段の50円は崩せません。そのうえで、精いっぱいのこだわりを持って作ること。それがメード・イン・ジャパン。日本製のこだわりだと思っています」
ジャパン・プライド。いや、埼玉から発信する“イワコー・プライド”もまた“ものづくり大国”ニッポンの一翼を担っていた!
埼玉県八潮市大瀬184-1 毎週土曜日(1)10:00~(2)13:30~(3)15:30~ 完全予約制(2か月前から予約可能) 詳細は https://www.iwako.com/
<撮影/齋藤周造>