2001年、創刊から20年の時を経て休刊した『週刊宝石』は、現在アラフィフ以上のオジサマたちと、われらが岩井志麻子先生にとって、愛してやまない伝説の雑誌という。本書は、志麻子先生が当時の“週宝”の裏話を取材&暴露しながら、愛情と郷愁を存分にしたためた復刊版である。
今ならセクハラ?
刺激不足の2大企画
「『週刊宝石』の2大名物企画が、『処女さがし』と『オッパイ見せて!』。画期的だったんですよ。いま、いきなり街中で“処女ですか?”なんて聞いたらセクハラ問題でどうなることか!
『オッパイ~』はふつうの女の子が街角で胸元をはだけるんだけど、’80年代はそれが大興奮、大貴重なエロだったわけです。ところが、いまは下まで丸出しの姿が載った雑誌がコンビニに並んでるし、ネットならいくらでも無料で見られる。
その一方で、昔と違ってテレビではまったくオッパイを出せないんだから、時代とともに厳しくなっているのか、ユルくなっているのか、よくわからんですねえ」
そのオッパイ企画、登場するとナント謝礼を10万円もらえたそう。現在のAV界では若くてキレイな女性でも出演料5万円の場合があるというから、破格の高値だ。そのお金目当てに彼氏に人身売買状態で撮影現場に置いていかれた女性の悲哀や、露出マニア夫婦のお騒がせ撮影風景といった裏話が、志麻子先生ならではのツッコミを入れつつ軽快な文章で綴られる。
ついでに、本書は電車内など公共の場で読むには向かないことを記しておこう。取材に同席する“週宝”の担当編集者や志麻子先生絶賛の画家、東陽片岡氏を交えたおバカなやりとりに、つい吹き出してしまうことが多いから。
さて、そもそも志麻子先生の“週宝”への愛は、いつ始まったのだろう?「岡山の純朴な高校生だったころ、お父ちゃんが毎週『週刊宝石』と『週刊新潮』を袋に入れて帰ってきたから。
新潮は実際の事件をエロ小説に書き換えた『黒い報告書』に夢中でね。宝石は『オッパイ~』のビジュアルも『処女探し』もカラッと明るいエロなんだけど、『黒い報告書』は追い詰められた男女の行く末みたいな暗いエロで、私の頭の中でこの両者が並び立っていましたね」
その後、地元で主婦となり少女小説家としてデビューしたものの、開店休業状態だった志麻子先生は、“週宝”に投稿を始めたという。
「『OLの性』っていうコーナーにバンバン出しまくりました。『週刊女性』にも投稿していて、どちらもけっこうな打率で取り上げていただいて、文章修行と小遣い稼ぎですよ」
そして見事、夢を叶えて一流の作家となった志麻子先生は、こうして“週宝”の本を出版し、『黒い報告書』では書き手に成り上がり、週女でも以前、小説を連載してくださった!
「好きな雑誌の仕事をするという願いが、全部叶ってるんですよ。投稿のハガキ職人としては、私がいちばんの出世頭(笑)」
容疑者の素顔を追い
天の教えを受けた!?
鳥取連続不審死事件を追って、現地へ出向いた話も載っている。そこでは、へレン・ケラーが手に水をかけられ「ウォーター」と言葉を発したのと同じくらいの衝撃を受けたという。
「死刑が確定した上田美由紀は本当におブスで、安い服を着てゴミだらけのアパートに住んでいたんですけど、勤めていたスナックはホステスの平均年齢が65歳ぐらいなんですよ。
そこに当時35歳の美由紀がいれば、光り輝くピチピチのかわいい子。自分が1番になれる場所は絶対にあって、そこに行けばいいんだと学びましたね。
もうひとつ、彼女に殺されかけた男性に話を聞いたんですけど、彼女はどんな男でもすごく褒めたんですね。しらじらしくても“若いとき、高倉健に似てるって言われたでしょ”とか。
だから、美由紀が魅力的でなくても、褒めてもらえることがうれしくてみんな夢中になっちゃう。人を褒めるって大事だとつくづく思いました」
現在の週刊誌の勢力図といえば、文春と新潮、現代とポスト、アサヒ芸能と大衆が、それぞれ読者層や作り方が似ていてライバル誌と見られている印象だ。
「でも宝石は、ほかとは違う独立した唯一の存在だったんですよ。お上品ぶったり、硬派ぶったりしなくて、でも、振り切ったエロには踏み込まない」
サラリーマンが出張のときに新幹線で必ず読み、降りるときに捨てて家に持ち帰らない存在だったとか。
「そんな雑誌で興奮できたって、ええ時代だったんですよね。インターネットの発明は、簡単にスケベなものが見られる状況をはじめ、人類にとっていろいろな面を変えた本当にスゴいものだと思います。
それにしても“週宝”について語って、まさか古きよき時代の話になるとは。自分が20代のころ、“昔はよかった”なんていう大人に絶対ならないと思っていたのに、バンバン言ってる。
若いときはオバサンになるのが本当に怖かったけど、なったらなったで楽しくてしょうがないですね(笑)。佐藤愛子さんに曾野綾子さん、寂聴先生もみんな90歳を越えてますけど、しっかりしてキレイなんですよね。やっぱりオバサンは強い生き物だから、みんなで堂々と渡り歩きましょう」
ライターは見た!著者の素顔
取材の日も服はもちろん、バッグ、ブーツもヒョウ柄だった志麻子先生。「ヒョウになる作家は私ひとり。業界の“週宝”なんですよ」と話しつつ、黙っていてもヒョウ柄のものが贈り物で集まってくるとうれしそう。
ヒョウといっても怖さはみじんも感じさせず、撮影の際にはこちらの勝手なリクエストに照れ隠しの笑顔で応えてくださいました。
(取材・文/熊谷あづさ)