高視聴率作だけがドラマじゃない! 数字以上に高評価を得た名作、話題をさらった労作、物議を醸した意欲作……。平成ドラマ史において、忘れるわけにはいかない作品たちを、ドラマ通のコラムニスト・エスムラルダとテレビ解説者の木村隆志が振り返る。
シュールと情念の内館、炎上の野島&遊川
木村 平成前半はフジとTBSに尽きますよね。その2局はキャスティングも先に押さえていましたし。
エスムラルダ(以下、エス) ここ最近はテレビ朝日が元気よね。
木村 テレ朝は、米倉涼子を松本清張3部作“『黒革の手帖』('04年)、『けものみち』('06年)、『わるいやつら』('07年)”で育てましたよね。
エス 平成ドラマといわれたら、初期の内館牧子作品を推したいですね。『クリスマス・イヴ』('90年)とか。『想い出にかわるまで』('90年)なんてラストは家が燃えちゃう(笑)。
木村 それをみんなで見つめながら、エンディングにダイアナ・ロス。すごいシュール(笑)。
エス 姉(今井美樹)の結婚相手(石田純一)を奪う妹が松下由樹でね。
木村 名作ですよ。内館さんはその後の『週末婚』('99年)でも、やはり姉妹ドロドロをやってて。
エス 初期のころはプロデューサーがうまく手綱を引いていたんだろうけど、『週末婚』以降は内館さんの暴走をコントロールできる人がもういなかったんじゃない?
木村 後期はドラマとして破綻しているものも。僕は、平成初期にハズせないのは野島伸司さん。作風がガラリと変わっていったのがおもしろい。平成は『愛しあってるかい!』('89年)に始まり、月9の『すてきな片想い』('90年)という超純愛。
エス そして『101回目のプロポーズ』('91年)。
木村 でも『愛という名のもとに』('92年)でチョロ(中野英雄)の自殺に味をしめちゃって(笑)。PTA猛反対の炎上路線を突き進むんですよね。『高校教師』('93年)、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』('94年)とか。でも、ちょっとピュアに戻って『ゴールデンボウル』('02年)とか。
その一方で木村拓哉さん主演の『プライド』('04年)もやってるし。何でもアリ。野島さんは、もう地上波に戻ってこないだろうと言われていたのに結局、誘われて戻っちゃったところが好きです。
エス 昨年の『高嶺の花』ね(笑)。わりとオーソドックスでしたよね。
木村 結局、野島さんは純愛が書きたいんでしょうね。“究極の愛とは何ぞや”みたいな。
エス 野島作品だったら、『この世の果て』('94年)がいちばん好き。
木村 僕も好きです。ラストが衝撃ですよね。
エス まりあ(鈴木保奈美)が飛行機から飛び降りるという(笑)。
木村 豊川悦司も茫然ですよ(笑)。
エス あと、横山めぐみ! 素晴らしかったわぁ。
木村 硫酸! 硫酸かけられるんですよね。
衝撃の“死にざま”が忘れられない
エス 思えば、あのころのフジには冒険心がありましたよね。
木村『あなただけ見えない』('92年)なんてとんでもないドラマも。あの三上博史の、水を得た魚のような明美の演技(笑)。
エス あははは。アベクカンパニーの“ジェットコースタードラマ”ね(笑)。
木村 展開がめちゃくちゃ早くて、1週見逃したらおしまい、みたいな。みんな本気で見てましたよね。
エス『もう誰も愛さない』('91年)は、伊藤かずえの死にざまが最高! 「海ってお金で買えないものかしらねぇ」と言った数分後には、ゴミ捨て場で死体だもん。
木村 しかも、生首ですからね(笑)。そしてこの作品から、山口智子は『ロングバケーション』('96年)に行くわけですから。
エス 山口智子って朝ドラ『純ちゃんの応援歌』('88年)のヒロインだったけど、いまいちブレイクしきれなくて。『もう誰も愛さない』で悪女を演じたのが、人気女優へのきっかけだったわね。
木村 平成初期は、まだイメージを気にする女優さんが多かったですからね。炎上つながりでいえば『女王の教室』('05年)は衝撃的でしたね。スポンサーが撤退して、CMがなくなって。遊川和彦さんと野島さんは、平成の2大炎上脚本家(笑)。
エス 名作ですよね。遊川さんのメッセージ性が明確で。ちゃんと最後まで見ないと。
木村 あの“タメ”があるから最後の笑顔が効いてくる。『家政婦のミタ』('11年)もそうでしたね。
エス 最近のドラマはタメられなくて、カタルシスが小さい感じですよね。
木村 人がせっかちになったんでしょうね。
“修業場”となるドラマ枠が消滅
エス アイドルドラマ枠も、平成の途中まではありましたよね? 『イグアナの娘』('96年)とか『闇のパープル・アイ』('96年)とか。
木村 テレ朝の月曜8時!『イグアナの娘』、最高ですよ。
エス 本当に。今見ても、私、毎話泣いちゃうの。川島なお美の最高傑作ね。
木村 イグアナもCGじゃなくて……。
エス かぶりもの(笑)。
木村 フジも昔は「月曜ドラマランド」や「ボクたちのドラマシリーズ」があった。『白鳥麗子でございます!』('93年)とか。観月ありさや、いしだ壱成、一色紗英が育ちましたね。
エス 昔は、アイドルが演技力を磨く修行場みたいなドラマ枠があって。そこから、みんな演技派になっていきましたよね。戦隊ものから、次世代イケメン俳優が出てくる流れも平成からですよね。オダギリジョー、佐藤健、福士蒼汰、菅田将暉とか。
木村 学園ドラマも若手俳優が名前を売る王道でした。『3年B組金八先生』でいえば、第6シリーズ('01年)の上戸彩はすごくよかった。第5シリーズ('99年)の風間俊介は、いまだに役名(兼末健次郎)が浮かんじゃう。
エス 金八先生は、みんな背負っているものが重すぎよ!
木村 第5シリーズには、イケてない役で亀梨和也が出てたり。
エス まだ世に知られていないイケメン探しも、学園ものの醍醐味。『ごくせん』('02年〜'08年)、『ウォーターボーイズ』('03年)、『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』('07年)とか。男の子がわちゃわちゃしているだけで、かわいかった。
木村 最近の学園ドラマは熱血教師じゃなくて、スクールカウンセラーだったり、校長だったり。『3年A組−今から皆さんは、人質です−』('19年)もサスペンスでしたしね。
エス 学園ものは、もう何かをかませないとダメなのかしらね。
木村 学園ドラマは平成の遺産として引き継いでほしいですね。
“見たくてももう見られない”作品たち
エス いま思うと、平成初期はクリスマスへの盛り上げがすごかった。12月24日前後が最終回で。『クリスマス・イヴ』とか『29歳のクリスマス』('94年)とか。
木村 『すてきな片想い』や『逢いたい時にあなたはいない…』('91年)も。
エス 『やまとなでしこ』('00年)も? 毎年、クリスマス前に再放送されていたのに、押尾学事件後はやらなくなっちゃった。あの松嶋菜々子は素晴らしかったのに。
木村 『星の金貨』('95年)の再放送も難しいでしょうね。
エス “碧いうさぎ”ね。できないわー(笑)!!
木村 『ひとつ屋根の下』('93年)もダメでしょうね。2まで作られましたけど。
エス 生ける伝説・井沢満先生の『同窓会』('93年)はゲイ的にはエポックメーキングな作品だけど、山口達也が(笑)。
木村 『のだめカンタービレ』('06年)には小出恵介がいますね。
エス でも、作品に罪はないから再放送してもらえるといいですね。
木村 ドラマはみんなの財産でもありますしね。
《PROFILE》
エスムラルダ ◎えすむらるだ ドラァグクイーン、コラムニスト。本名名義でドラマの脚本も手がける。新宿2丁目発の音楽ユニット“八方不美人”のメンバーとして『有吉ジャポン』などのメディア出演も
木村隆志 ◎きむらたかし テレビ解説者。1日に20時間テレビを視聴(2番組同時含む)し、地上波の連ドラは全作品を視聴。“日本一PVを稼ぎ、最もYahoo!トップを獲るコラムニスト”として活躍中