視聴率が取れるジャンルとは──?
 テレビを見ていて「ふと気になったこと」や「ずっと疑問に思っていたこと」ってありませんか──? そんな“視聴者のナゼ”に『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』など人気番組を多数担当する放送作家・樋口卓治がお答えします!

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「『バラエティー』『音楽』『スポーツ』『料理』などなど……テレビ番組にはいろいろなジャンルがありますが、視聴率がとれるジャンルは時代によって変わってくるのでしょうか? 気になります」(40代/主婦)

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 時代を遡って視聴率のとれるジャンルが気になるとは、この投稿者さんは、かなりのテレビっ子のようですね。

 ご質問のとおり、これまでいろんなジャンルの番組が視聴率をとってきました。

 ボクは1989年に放送作家になったのですが、最初に目の当たりにしたのはF1ブームでした。

 アイルトン・セナという天才ドライバーが、最後尾から優勝したり、ギアが壊れて1つのギアだけで優勝したり、まるでヒーロー映画のような活躍をした時代、F1というテレビではなじみのないスポーツが高視聴率をマークしました。

 当時、日本はバブル絶頂期で、中嶋悟が日本人初のF1参戦、ホンダエンジンがぶっちぎりの速さ、古舘伊知郎がドライバーにあだ名をつけて盛り上げたり、いろんな火種が一気に集まり大爆発をしたようなブームでした。

誰も見たことない番組づくり

 そして'90〜'00年にかけてバラエティーもさまざまなジャンルから多くのヒット番組が誕生しました。例えば、『料理の鉄人』『トリビアの泉』『SMAP×SMAP』『ガチンコ』『あいのり』『学校へ行こう!』などなど。

 これらのヒット番組に共通して言えることは、これまで見たこともないオリジナル企画だったということです。

 とくに画期的だったのが『トリビアの泉』(フジテレビ系)この番組はただのバラエティーではなく、クイズ番組の常識を変えました。

 通常、クイズは「〜〜は何?」と問題を出して回答者が答えるものでしたが、「小便小僧もいれば小便少女もいる」とクイズの答えを先に言ってしまう。パネラーは問題に答えるのではなく、「へぇ」とどれだけ驚いたかリアクションする役目。

 こんな斬新な演出、今までなかった! ということで人気番組になります。

「誰も見たことない番組を作ろう!」という企画力が、視聴率の獲れるジャンルを生んできました。

 人気アイドルが料理でゲストをもてなすのが斬新だった『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)。

 まるで少年ジャンプの連載のように、毎週、いろんなシリーズが見られ、それが斬新だった『ガチンコ!』(TBS系)。『ガチンコファイトクラブ』では不良たちがプロボクサーを目指し、『ガチンコラーメン道』では佐野実というラーメン界のカリスマの熱血指導のもとラーメン店をオープンしたり。

 ニュースで“キレる中学生”と報道されていたころ、屋上で生徒が思いの丈を叫ぶ企画が斬新だった『学校へ行こう!』(TBS系)など、例を挙げればキリがないほどいろんな企画が誕生しました。

 面白い番組は面白い企画をやっているというのが視聴率をとる条件でした。今なら『チコちゃんに叱られる』(NHK)がそれにあたります。

 投稿者さんのご質問を裏読みすると、「じゃあ、今はなんで似たような番組が多いの?」と聞かれている気がしてドキドキしてきましたが、ボクなりの見解を、チコちゃん風に答えると、

「それは今のテレビは企画よりテーマの時代だから〜」

 ではないかと思います

 企画よりテーマとはどういうことかというと。

 自分の経験からいうと、誰も見たことのない視聴率のとれる企画を作るのは、結構大変です。お金と時間をかけ、何度も会議を重ね、失敗を繰り返してもできないときもある。企画を開発しているうちに時間切れで打ち切りなんてことがちょくちょくありました。さらに予算削減、コンプライアンス重視、働き方改革と環境も変わってきた……。

 そこでテレビは視聴率のとれるテーマに少しずつ移行していきました。

 ここでいうテーマとは『健康』『グルメ』『雑学』などなど、ジャンルにあまり企画性を乗せずに見せる番組です。

 企画はまねするとパクリと言われてしまいますが、テーマはもともとテレビが作ったものではないので、あんまり気兼ねせずにまねしてしまう。ゆえにいろんな局で何度も見るので、似たような番組が多くなってしまうのです。

 少しいい話をすると、今、視聴率の物差しが変わりだしています。

 簡単に言うと、今までは大人から子どもまですべての年齢層が見ている番組が、視聴率のとれる番組だったのですが、これからはスポンサーが提供したくなるような、「ある世代が“面白い!”という番組でもいいよ!」というふうに物差しが変わってきました。これを業界用語で“コアターゲット”と言います。

 そうなると再び企画の時代がやってくる可能性が大です。

 予算がない、コンプライアンスがうるさい、働き方改革で時間がないとか言い訳ができなくなってきました。これは自分も含めてです。

 映画『カメラを止めるな!』が若者にウケるなら、あれを超える番組を作ろう! というのもOK!

 そんなディレクターがたくさん出てくることを願い、この質問を取り上げさせてもらいました。

 『ヒットを飛ばしている業界に才能は集まる!』

 昔、なんかの本に書いてあった言葉です。

 再び、そんなメディアに戻れるような企画がビシバシ見られることを期待していてください。

 投稿者さんありがとうございます。まだ、テレビを嫌いにならないで!


<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。直近では、テレビ朝日『離婚なふたり』(4月5・12日、23時15分〜放送)の脚本を担当。監督は吉田大八、主演はリリー・フランキー。