麻薬取締法違反の容疑で逮捕された、ピエール瀧容疑者が出演する映画『麻雀放浪記2020』が、4月5日よりノーカットで予定どおり公開することを、3月20日、配給の東映が発表した。
<映画の上映は有料かつ鑑賞の意思を持ったお客様が来場し鑑賞するメディアであり、テレビ放映またはCMなどのメディアとは性質が異なります>(作品HPより)ということが、決断の大きな理由だ。
「やらない」がベター
一方、瀧容疑者が出演中だったNHK大河ドラマ『いだてん』は、瀧容疑者出演場面を、すでに放送したぶんも含めて代役を立てて差し替えることを発表している。所属するテクノユニット・電気グルーヴの楽曲に関しては、現時点ではCD等の自主回収と配信停止という状況だ。
坂本龍一がツイッター上で「なんのための自粛ですか?(略)聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない」とつぶやいたことが大きな話題を集めたが、俳優やアーティストが不祥事を起こした場合、出演した作品の放送や発売は、自粛されるケースがほとんどである。
例えば2016年、強姦致傷容疑で逮捕(のちに不起訴処分)された高畑裕太は、今回の『いだてん』のように放送中のドラマの一部を再撮影し、出演シーンのカットや、出演予定作には代役を立てて対応した。
2017年に未成年女性との飲酒と不適切行為などの不祥事を起こした小出恵介も、出演作への代役、再撮影、CM降板に加え、放送予定だったNHKドラマは中止という措置が取られた。ある芸能記者は言う。
「元TOKIO・山口達也の強制わいせつや、ノンスタイル井上の当て逃げ、脱税騒動の板東英二など、収録ずみのバラエティーでは、存在がなかったように出演部分をカットしたりトリミングして放送されたこともあります。その技術が“神編集”と言われていますが、現場が大混乱したのは間違いないですね」
基本的にこれらの対応は、「テレビ局や番組それぞれの判断によるものが多い」とテレビ局関係者は言い、瀧容疑者の“作品”については、こう分析する。
「ピエール瀧の地元、静岡の局で制作された彼がメインMCを務める番組は、過去に収録されたものだとテロップで表示し対応しました。『作品に罪はない』ということであれば、この処置で問題ないと思います。でも、コンプライアンスに細心の注意を払わなければならない現在では、余計な苦情や抗議を避けるために、『やらない』という判断が一番ベターなんでしょうね。
そういう意味では、今回の映画のノーカット公開という、ユーザーの判断で選ぶというのは大きな変化だと思います。有料のBS放送や、お金を払って購入するCDやDVDなどの回収や販売停止の対応も、今後は変わっていく可能性があります」
破天荒なパフォーマンス
ミュージシャンとしての瀧容疑者の今後については、どうなる見込みだろうか。前出の芸能記者が言う。
「例えば同じく薬物で逮捕されたASKAは、チャゲアスやソロの作品の回収と販売停止となりましたが、約3年後に販売が再開されました。ほかにも酒井法子や槇原敬之や岡村靖幸、古くは井上陽水や研ナオコなど、作品が完全に封印されることはありませんでした。電気グルーヴの作品も、今後、再発売される可能性は高いです」
過去の例をみると、電気グルーヴの活動も再開する可能性が十分に考えられるわけだが、彼ら独特の“演出”については難しいところ。
「ピエールの破天荒なパフォーマンスやトークは、電気グルーヴの大きな魅力のひとつでした。でも、この一件があったことで笑いづらいものになり、本人も以前のようなパフォーマンスをしにくいのではないでしょうか」(同)
すでに放送された『いだてん』に関しては、代役による差し替えで今後のDVD化などについても対応されるが、
「近年だとアニメ『おそ松さん』の1話に“問題”があり(製作側は「製作委員会の判断により」とし、具体的な理由は発表していない)、配信の停止と、DVDとBDは1話未収録となりました。そういう意味ではピエール版『いだてん』も、幻の作品となることは間違いないですね」(同)
不祥事を起こしたタレントが出演するテレビの再放送やDVD化の不可となれば、“封印作品”が誕生してしまうことになる。しかし今後、『作品に罪なし』論が進み、ユーザーに判断を任せる、という作品も増えていくのかもしれないーー。
<取材・文/渋谷恭太郎>