少女マンガや青年マンガなどのカテゴリーを飛び越え、気に入った作品をジャンルレスに読む大人の女性たちが登場した平成という時代。業界に精通する2人に、平成女子マンガの変遷を熱く語ってもらった。
女子マンガの世界が豊かに
福田里香(以下、福)「大人女子が好むマンガを『女子マンガ』とカテゴライズしたのは小田さんですね?」
小田真琴(以下、小)「はい。雑誌『FRaU』の取材を受けた際、少女マンガでもなく、少年でも青年でもない第4のカテゴリーということで名づけました。
平成は、そんな女子マンガが市民権を得た時代。以前は大人の女性が読むマンガといえば、レディースコミックぐらいでした。いわゆるレディコミではない、大人女子が読むマンガにようやく日が当たったことで、ジャンルも内容も多様化しました。女子マンガの世界が豊かになってきたと感じています」
─女子が少年誌や青年誌の作品に“萌え”る現象も盛んに。
小「井上雄彦『SLAM DUNK』と冨樫義博『幽☆遊☆白書』。女子にとって、この2作は平成2年にスタートした“萌え”マンガの代表ですね!」
福「青山剛昌『名探偵コナン』も。昨年の映画で、安室(透。声は『機動戦士ガンダム』でアムロ・レイを演じた古谷徹)に萌えが炸裂しました」
小「『週刊少年ジャンプ』なんて、読者の大半が女子といわれていましたからね」
福「“幽白”のイケメンキャラクター・蔵馬と結婚したいって女子、多かった。初恋率が高かったです。そして、BL(ボーイズラブ)が花開いた時代!」
小「SLAM DUNKがBL同人業界を盛り上げた」
福「素晴らしかったのは、脇役も全員イケメンに描いたこと。それまでは脇役って扱いが雑で全員ブサイクだった。いま、マンガ家がイケメンを描き分けることができるようになったのは、井上先生のおかげです!」
小「同人BLではカップリングも楽しみのひとつ」
福「作家さんの技量によっては“このカップリングはナシでしょ”が“いや、アリだな”となることも。BLのカップリングなんて、邪馬台国が日本のどこにあったのか? って学説と同じなんですよ」
小「正解がないってことですね(笑)」
ヒロインはドジっ子から美人や頭のいいキャラに
─『きのう何食べた?』のよしながふみや『昭和元禄落語心中』の雲田はるこなど、BL誌の出身というマンガ家の活躍も目立つ。
福「BL作家がメジャーデビューをして大物に。男社会の出版業界に、同人誌から始まったBLが“そうじゃない”と一石を投じた。女子目線を如実に表してると思います」
小「ヒロインの性質も変わりましたね」
福「昔はドジっ子でダメなヒロインが主流だった。ところが平成では美人だったり、頭がよかったり。読者がドジっ子に感情移入できなくなった?」
小「神尾葉子『花より男子』はまさしく、強い女子が主人公。武内直子『美少女戦士セーラームーン』なんて悪と戦っていますからね」
─平成中期には少年ジャンプから、ほったゆみ・小畑健『ヒカルの碁』、許斐剛『テニスの王子様』などのヒット作が相次いだ。
小「“ヒカ碁”は意図的に腐女子ファンを増やそうとしたと思いますよ。いま見ると、少女マンガに近い絵柄ですもんね」
福「“テニプリ”はミュージカル化されて2・5次元という新しいジャンルを築いた。初演を見た友人の証言では、その完成度の高さに終演後、観客が一斉にロビーで速報メールを打ちまくっていたそうです(笑)」
─女性向けマンガでも歴史に残る名作が続々と誕生。
小「女子マンガ的にいうと、くらもちふさこ『天然コケッコー』が秀逸!」
福「くらもち先生はベテランですが、何歳になってもリアルな中学生を描く!」
小「研究されていますよね。画力も高いし、さすが」
福「矢沢あい『NANA』も大ヒット。“NANAはいちごのショートケーキが好きだった”という連載1回の名台詞から、雑誌の口絵に載せるレシピの依頼があり、光栄なお仕事でした」
小「NANAは10年ほど休載中。でも雑誌『Cookie』には今も頻繁に付録がつくほどの人気だとか」
福「羽海野チカ『ハチミツとクローバー』は、普段もうマンガを読まなくなったおしゃれ人間をマンガに引き戻しましたよね」
感情移入を必要としなくなった?
─ハチクロと同じく、二ノ宮知子『のだめカンタービレ』、荒川弘『鋼の錬金術師』もアニメ化、ドラマ化や映画化とメディアミックスを展開して成功した。
福「荒川弘さん、男性と思いきや女性なんですよね」
小「少年マンガではペンネームを男性っぽくしないと不利といわれるそう。逆に、男性が少女マンガを描くときは女性っぽい名前に」
福「そういった性差を描いた、よしながふみ『大奥』は男女逆転の大奥が舞台。BL出身でたくさんの男性を描いてきたから、月代の男性をあんなにイケメンに描ける。画力の進化です!」
─平成後期にはドラマ化し社会現象にもなった海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめとした、仕事と結婚に悩む大人の女性をターゲットにしたマンガが増加。
福「平成後期のヒロインは“王子様ひと筋”タイプじゃない。ドラマでも大きな話題となった、いくえみ綾『あなたのことはそれほど』なんかは、どの登場人物にも感情移入できないのがスゴイ(笑)」
小「感情移入を必要としなくなったのかもしれません」
─フェミニズムの視点が盛り込まれた作品も話題に。鳥飼茜『先生の白い嘘』は、レイプ被害と男女の不平等を真正面から描き、大きな反響を呼んだ。
'18年には牧野あおい『さよならミニスカート』が連載スタート。元アイドルの主人公を通して、セクハラや痴漢、周囲が求める女らしさへの違和感といった問題をリアルに描写。少女誌『りぼん』に掲載とあって、注目を集めている。
小「牧野先生はフェミニズムを描こうと思ったのではなく、日ごろの疑問を描いたらこうなったそう」
福「少女誌の現場に女性編集者が増えたという影響もありますね。平成の後期はカンブリア紀みたいなもの」
小「種の多様化ですね」
マンガの未来は明るい
─マンガとの接し方にも大きな変化が。紙媒体が部数を減らす一方、電子書籍の売り上げが伸びている。
福「オンラインで読むマンガは縦スクロール。流れやコマ割りも変わった。動画も入り、将来はアニメ、マンガの区別がなくなるかも」
小「カテゴリーもノンジャンルなものが増えてきた」
福「男でも女でも読みたいものを読めばいい。電子書籍になってBLも買いやすくなりましたよ」
小「ただ、多様化する一方で、作品としてメガヒットが出ないのが残念ですね」
福「美内すずえ『ガラスの仮面』なんて、昭和、平成と3つの元号をまたいだメガヒットのロングラン! 私は友達と勝手にラストを考えて盛り上がってます」
小「ガラスの仮面の話を始めたら、とても2ページじゃ話せません(汗)」
福「平成が終わってもマンガの未来は明るいですね」
小「今後もアニメ、AR、VR、ゲーム、ジャンルの枠を超えて発展しそうです。みなさんもお楽しみに!」
平成「読むべき」おすすめマンガ
《福田さんセレクト》
・'90年代『SLAM DUNK』井上雄彦 (集英社)
・'00年代『大奥』よしながふみ (白泉社)
・'10年代『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ (講談社)
《小田さんセレクト》
・'90年代『ハッピー・マニア』安野モヨコ (祥伝社)
・'00年代『ハチミツとクローバー』羽海野チカ (集英社)
・'10年代『プリンセスメゾン』池辺葵 (小学館)
《PROFILE》
福田里香 ◎マンガ好きの菓子研究家。著書に雲田はることの共著『R先生のおやつ』(文藝春秋)など、マンガとコラボした本が多数
小田真琴 ◎女子マンガ研究家。「女子マンガ」というカテゴリーの創始者。『マツコの知らない世界』に女子マンガの紹介者として出演