ピエール瀧
 いまだに収束する気配がないピエール瀧容疑者の逮捕報道。芸能界への衝撃もさることながら、出演作の公開自粛、CD等の販売がストップするなど、世間にも大きな影響が出ている。この平成最後の大騒動について、コラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。

* * *

──かなり衝撃の大きいニュースでしたね。

「あれほど才能がある方ですし、このまま順調にずっと成功され続けるのかなと思っていたので驚きました……。ただ、ニュースを見る限り、そこまでピエールさんを悪く言う人が多くなかったというのが印象的でした。一部で、“高架下の自転車置き場で立ちションをしていた”という近隣住民のこぼれ話も報じられていましたが……」

──毎日のように続報が出てきて、めまぐるしかったです。

「日本では珍しい薬物ということもあり、ワイドショーがコカインの使い方などをたくさん特集していたのも記憶に新しいです。あるニュース番組ではコカインの化学式まで紹介していましたし、ほかの番組でも覚せい剤などほかの薬物との比較をフリップにまとめていましたが、かなりしっかりとした出来でした。

 逆に世間の人がコカインに詳しくなりすぎて興味が湧いてしまうのでは? と感じてしまいます。高価で希少な“セレブドラッグ”というカッコいい紹介のされ方も悪影響を及ぼしていそうで心配です。とにかく、すごくコカインについて学ばされた数週間でした

──辛酸さんが普段からウォッチされている海外セレブも薬物がらみの報道が多いですよね。

「海外セレブのケイト・モスもかつてコカインで話題になりましたね。なりふり構わず、机でなく地べたに粉のラインを引いて吸ってたというワイルドな逸話もあるとか。適当な台すら近くになかったのでしょうか……。まさにコカイン番長です。

 その後、中毒になった彼女は一度モデルとしてのキャリアを全てを失いましたが、人望が厚かったのでまたカムバックを果たしています。

 レディ・ガガも“コカインだけが友達だった”だと公言したり、オランダ公演でもステージ上でマリファナを吸引。そんな彼女は今でも世界中で活躍していますし、薬物から立ち直ったことを語ることで啓蒙活動を行なっています。一方、今の日本は薬物犯罪に対して相当厳しいという印象はありますね」

──今回のピエールさんの事件は過去作品の放送自粛やCDなどの音楽、出演しているゲームまで販売停止・回収となったことについても賛否がありましたね。

「コンプライアンスが厳しい現代。すぐ芸能人が引退したりとか、作品がお蔵入りになっていますが、作品制作に関わったスタッフの気持を考えると残念ですよね。クスリも心中もやった太宰治が教科書に載っているわけですし、もうちょっと心を広く持ってもいいんじゃないかとは思いました。

 例えば女性に乱暴するとか泥棒だとかは致命的ですけど、今まで割と日本の芸能界はクスリ関係に寛容なほうでしたよね。大麻や覚せい剤をやっていたタレントが復帰したりもしていますし。

 あそこまで多方面で活躍されていたピエールさんだからこそ、ここまでの大ごとになってしまったのかもしれません。私も過去に『お願い! ランキング』で何度か共演させていだいたことがあります。“変わった学校校則を紹介する”というコーナーで、何度か再放送もされたのですが、あれもお蔵入りになるのでしょうか……

常人には見えないモノ

──ピエールさん、電気グルーヴさんについての印象は?

「ピエールさんにお会いしたときは普通に面白い方だなと思いましたし、高校生のとき電気グルーヴが好きで、彼らが出したプレイステーションのゲームもやっていました。すごくシュールなゲームで、流れてくるボールペンにキャップをかぶせていくだけといった、今思えば“すごい発想だな”というミニゲームがとても印象的でしたね。

 そのゲームのタイトルは『グルーヴ地獄V』というのですが、そもそもⅠ〜Ⅳがない……。こういう天才的な発想もクスリから出てきたものだったのかな、と考えてしまうと少し残念な気はしますが、クスリをキメながらプレイするとより楽しめるゲームなのかもしれません

──ワイドショーなどでも「クスリの力を使って生み出された彼の作品はドーピングなのでは」といった厳しい声も各所から聞かれましたね。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け新しくなった「温泉マーク」について言及したピエール滝(インスタグラムより)

「是非は置いておくとして、確かに報道の後だと、色々と“クスリの力なのでは?”と穿(うが)った見方をしてしまうというのは事実としてあるかもしれません。インスタをのぞいても少し気になる写真が……。

 '16年の12月に《新しい温泉マークって【前髪垂らしたほっぺの赤い子供】に見えない?》といった文言つきで温泉マークの写真をアップしていたのですが、私にはしばらく凝視してようやくそれっぽく見える程度のものでした。当時のピエールさんには常人には見えないモノが見えていたのかもしれません。

 ほかにも猿のマスコットキャラクター・モンチッチのファンイベント『モンチッチ展』のためにデザインしたというオリジナルの作品が、“天ぷらモンチッチ”という、人形の全身をサクサクの天ぷら衣で覆うというすごい発想のものでした」

ピエール滝がデザインした「天ぷらモンチッチ」(インスタグラムより)

──麻薬取締部もピエールさんのインスタを常にチェックして“キメている日”を見極めていたのかもしれませんね……。ピエールさんが罪を償ったあと、電気グルーヴがどうなってしまうのか気になりますが。

「電気グルーヴが手がける音楽は海外でも相当な人気だと聞きますし、今後、活動の場は日本でなく海外になるのかもしれません。

 石野卓球さんがピエールさんの逮捕後にツイッターに電気グルーヴの“ユニットロゴ”のタトゥーを入れている写真をアップしていましたが、あれも“もう日本の銭湯は行くつもりはない”という意志の表れなのでしょうか……

人生初のタトゥーを入れたという石野卓球(ツイッターより)

──大混乱を生んだ今回の逮捕劇、ネットでも非難の声が多くみられました。

「人は誰しも何かに依存していると思うんですね。それは例えばチョコレートやタピオカ、アルコールかもしれないし、あるいはペットの犬や猫を溺愛しているかもしれない。スマホやゲームも脳の報酬系を刺激し、依存性が生まれるという意味ではドラッグと同じかもしれません。

 コカインは違法ですが、みんなそこまで非難する必要はあるのかなと思いますね。むしろ連日報道されるこのニュースに過剰反応しているネットの人たちもある意味、“ピエール依存症”になってしまっているのかも

──その関係かどうかわかりませんが、カラオケ店に行ったら、デンモクの履歴にほかの客が入れたであろう『Shangri-la』が多くみられました。

「確かにニュースで曲がたくさん流れることで“歌いたくなる”ということはありますよね。私もASKAさんが逮捕されたとき『SAY YES』が頭のなかでずっと回っていました。光GENJIの赤坂さんのときは『ガラスの十代』だったり……。逆に飢餓感が煽られるのでしょうか。

 逮捕された後でも“あの曲いいな”と思えるということこそが、“曲に罪はない”ことの証明なのかもしれませんでもやはり、薬物依存は怖いですし、ご本人も内心“やめたい”と感じていたと思うので、これを機にリハビリをして依存から抜け出して欲しいです


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。