Vol.7 コロッケ
日本の『ものまね』を変えた男、コロッケ。
バラエティー番組において、いまでもものまね番組だけは時代に左右されず、確固たる地位を築いている。そこには、ものまねタレント・コロッケの存在が大きく関係しているはずだ。
“師匠のいない芸人”の時代
「『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)は、視聴率が高かったこともあって、紅白抜くんじゃないかって思ってたときもありましたね(笑)」
高視聴率を出し続けた『ものまね王座決定戦』。その中心にいたコロッケは昭和から平成に切り替わるとき、何を思っていたのだろうか。
「平成になったあたりから、世代別の笑いが増えて、いちばん笑いに敏感なはずの若い子たちが、笑わなくなってきてた。
当時、とんねるずさんを中心とした、若いアイドルやスタッフをイジる芸人が出てきて、ウッチャンナンチャンさんにしてもダウンタウンさんにしても、芸人ではない人をイジるっていう新しい笑いの流れができた。師匠のいない芸人たちが、芸風を変えて活躍しはじめた時代ですね。
彼らが活躍していくなか、僕だけ前と変わらないものまね芸をやっていたら“まだやってんの?”と言われると思って、ひとり焦っていましたね」
その葛藤の中で、確固たる地位を築き、ものまねタレントの代名詞的存在になったコロッケでも『ものまね王座決定戦』や『ものまね珍坊』(フジテレビ系)で、どうしてもできなかったことがある。
「ほらよく、ものまね番組収録中にご本人が来るじゃないですか、サプライズで。そのとき、ご本人の前で、調子こいてものまねをやることができなかったんです。いつも、慌てて逃げてましたね。
ご本人にリスペクトはあるけれど、やってはいけないこと、つまり失礼な芸(笑)をやってるから、“すみません”って気持ちになるんです」
コロッケとしての“はずれ方”
ご本人登場で、実は慌てていたコロッケは、自身のものまね芸に対して、あることに気づいたという。
「ご本人登場の中で思ったのは“ああ、僕のものまねは違いすぎるから(ご本人も)ツッコめるんだ”って。
そっくりだと“ありがとう、歌ってくれて”ってなって、終わっちゃう(笑)。
でも、僕が野口五郎さんのネタをやったら、五郎さんが“あいつにだけは会いたくない”ってツッコむことができて、それがまた笑いになる。
はずれることがいいかどうかは別として、“コロッケとしてのはずれ方”っていうのは、ものまねの中のひとつの要素として、ちゃんと受け入れていただいた時代だった。
だからいまだに、ものまね番組以外のバラエティーでも、そのやり方を崩していない。怒られるだろうなって思いながらも、やる」
“コロッケとしてのはずれ方”こそが、「五木ロボ」のような独自の世界観を作り上げたのだろう。ほかにも、森進一や美川憲一、淡谷のり子や志村けん。古くは聖徳太子まで。いったい彼はどのようにネタ作りと向き合っているのだろうか。
「すごく雑な言い方なんですが、“通りすがり”ですね。テレビってそんなに真剣に見ませんよね。食べながら、しゃべりながら、仕事しながら。僕もそんな“通りすがり”のスタンスで見ている。
でも、その中でも頭に残る“残像”があって、この人は髪の毛がチリチリしてる、声がハスキー、太っているやせている、背が高い、大勢いる、5人組だなとか。その“残像”こそが僕がやってること。
だから僕の中では、河村隆一さんは寝っ転がってる。平井堅さんは手で背の高さをずっと測っている(笑)。ノリでいけば、そんな感じなんですよ」
似てないけど、なんか似てる
自らを「永遠のミーハー」と言う。芸能のみならず、美味しいお店、おしゃれなインテリア、ファッション……何もかもに興味がある。「興味」からスタートする彼の芸は、表面的な「似てる」や「うまい」を軽々と超えていく。
「例えば、武田鉄矢さんのものまねといえば、髪をかきあげて「コラ〜」ってやつでしょ(笑)。でも僕は1回もやったことない。だって武田さんは年齢を重ねるごとに、どんどん変わっているから。
今のものまねタレントたちは誰かがやった武田さんをマネしてやるから、ウソの武田さんになってしまう。
美空ひばりさんのものまねでも、ひばりさんのいちばん大事な日本舞踊の動きは誰もやらない。声を似せて、ただ歌っているだけ。
でも僕は、イントロから首をスッと引いてクッて傾ける。ひばりさんならではの日本舞踊の動きをやるから、ひばりさんが好きな方には“わかってる!”って思っていただけて、でもそのあとふざけるから、笑いも生まれる。
ただ歌が似ているものまねは3回見たら“似てるけど、なんか違う”ってなる。だけど僕のものまねは声が似てなくても“似てないけど、なんか似てるよね”ってなる」
自分のものまねは「似せるのは3割。あとの7割は、別の生き物(笑)」と分析する。思い切って、ものまねがうまいと思われたいか、聞いてみた。
「うまいと思われたってしょうがないじゃない(笑)」
相手が一番、自分が二番
「僕のネタはしょっちゅう見るもんじゃない。お客さんから“気が滅入ったとき、何か月かに一回コロッケさん見ます”って言われたときに、僕はこのうえなく、最高の位置にいるなと思った。
以前、ある夫婦にお手紙をいただいたことがあって。
“包丁を持ち出すような夫婦喧嘩の最中。テレビに、松山千春のネタをするコロッケさんが目に入りました。頭をパカパカしてるコロッケさんを見て、喧嘩している自分たちがバカらしくなって、なんかやめよっかって。
あれがなかったら私たちは修羅場でした。頭パカパカは私たちにとって大事な思い出です(千春さんごめんなさい)”
そのお手紙をもらったとき、受け取り方によっては、ものまねでもありがたいと思っていただけるんだなって知ることができた」
来年は還暦を迎えるが、現在行っているツアーでは、DA PUMP・安室奈美恵・三代目 J SOUL BROTHERS・BIGBANGなど最近のアーティストも取り入れつつ、おなじみのネタも披露し大好評となっている。彼のエンターテイメントへの欲求はまだまだおさまりそうにない。
最後に、インタビュー中も笑顔を絶やさない彼に「笑顔の理由」を聞いてみた。
「モテたくて(笑)。中学校のときに、カッコいい人は黙っていてもモテる。だから僕は僕にしかない武器を持とうと思った。それが、ものまね。
最初は女性だけにモテたかったのが、今では、子どもにも大人にもおじいちゃんにもおばあちゃんにも楽しんでもらいたい思っている。
心の中で大事にしていることは“相手が一番、自分が二番”だということ。それは新しい時代になっても、変わらないよ」
『ものまねエンターテイメント コロッケコンサート2019 笑う“顔”には福来たる!』
・東京都 ルネこだいら2019/6/20(木) ①14:30~②18:00~
・千葉県 千葉県文化会館2019/6/21(金) ①14:30~②18:00~
チケット情報 一般発売6,000円 (ともに好評発売中)
●ころっけ●'60年3月13日生まれ。熊本県出身。『お笑いスター誕生』(NTV)でデビュー。TV・ラジオ等に出演する傍ら、全国各地でのものまねコンサートおよび、大劇場での座長公演を定期的に務める。現在のものまねレパートリーは300種類以上となり、エンターテイナーとして常に新境地を開拓している。