中国古代の杞の国に、「天が崩れ落ちてこないか」と心配していた人がいたことから、必要のない取り越し苦労をすることを“杞憂”と言いますが、婚活者に多いのが杞憂に過ぎない心配をしている人たちです。 
 婚活ライターをしながら、仲人としてもお見合い現場に携わる筆者が、目の当たりにした婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えてゆく連載。今回は、『先のことを心配するなら、今の足場を固めろ』です。

先のことを考えてばかりいても前には進まない

彼に貯金があるかないか、ひとり査定

 先日、葉子さん(34歳、仮名)が、交際中だった洋輔さん(35歳、仮名)に“真剣交際”を申し込まれました。

 結婚相談所には、“仮交際”と“真剣交際”の区分があります。お見合いの後に「お付き合いしてみたいな」と思った方とは、まず“仮交際”に入ります。これはお互いがお人柄を見る期間です。これを経て、“この方とは結婚に向かいたい”と判断すると結婚を前提とした “真剣交際”に入るのです。

 葉子さんは仮交際期間中から、「今までお見合いしてきた中では、いちばんフィーリングも合うし、素敵な方です」と言っていました。洋輔さんから“真剣交際”を申し込まれてさぞ喜んでいるのだろうと思いきや、「ちょっと不安なことがあるので、面談をお願いします」と、私に言ってきたのです。

 事務所にやってきた葉子さんは、言いました。

「彼ってもしかしたら、金遣いが荒いんじゃないかと心配なんです。貯金もないかもしれない」

 なぜそんなことを心配しだしたかというと、洋輔さんのこんな発言があったからでした。

「先月は残業続きですごく疲れたし、頑張った自分へのご褒美のために、ひとりで回らない寿司屋に行って、お腹いっぱい食べたらお勘定が1万5000円だった」

 葉子さんは、続けました。

「ひとりで1万5000円の食事をしてしまうなんて、私には考えられない。それが当たり前にできる人だったら貯金もないと思うんです。ただ、着ている服を見ると、そんな高そうなものは着ていないし、デートに同じ服を何度も着てくるので、そんなに洋服にはお金をかけていない気がします」

 35歳の男性が、仕事で頑張った自分へのご褒美にお寿司をお腹いっぱい食べたらお勘定が1万5000円だったというのは、確かに贅沢(ぜいたく)かもしれないけれど、たまにならいいでしょう。

 ところが、「それを頻繁にやっていたらどうしよう」→「かなりの金額を食事に費やしている」→「きっと貯金がないに違いない」という発想になっていたようでした。

 そう思いながらも、「いやいや、待てよ。服にはそんなにお金をかけていなさそうだ」→「ならば貯金はあるかも」→「でもやっぱり、食費に散財していたら貯金はない」と彼女の頭の中は、彼の言動や身なりに“ひとり査定”を繰り返していたのでした。

 私は、葉子さんに言いました。

「お金をどう使うか、お金にどんな価値観を持っているかは、結婚するカップルにとっては、大事なことですよ。だから、結婚前にしっかり話し合ったほうがいいの。ひとりでクルクル考えていないで、今思っていることを彼に聞いてみたら?」

 すると、葉子さんは言いました。

「先回りしていらないことばかり考えてしまうのは、私の悪い癖です」

 この場合、聞き方を工夫すればよいのです。「これから結婚式をしたり新居を構えたりするとまとまったお金が必要になるけれど、貯金はあるの?」そう聞けば角が立ちませんね。

お見合いが組めると条件の重箱の隅をつつく

 雅治さん(51歳、仮名)は、婚活を始めて2年がたちます。婚活を始めたきっかけは、「子どもを授かって家族を築きたいから」でした。そうなるとお見合いする女性の年齢も限定されてきます。

 最初は“30代の女性限定”としていました。しかし、それではお見合いが組めない現状を理解し、最近では43歳くらいまでの女性ならお会いするようになりました。

 年齢の幅を広げてもお見合いを組むのが大変な状況。それにもかかわらずお見合いが組めると、相手のプロフィールを見直して不安要素を持ち出すのです。

 先日も41歳の女性とお見合いが組めた時のことでした。

「この女性、父親がすでに他界していて、お母さんは80歳近い高齢ですよね。一人っ子だし、結婚したらすぐにお母さんの介護が待っていそうですよね。彼女の実家の近くに住むことになったら、僕の通勤時間が今の2倍近くかかることになる。親の介護について、どう考えているかなぁ」

 そこで、私は雅治さんに言いました。

「お母さまの介護が必要になるかどうかは今の時点ではわからないし、それはそのときに考えればいいことではないですか? 雅治さんにもご両親がいらっしゃるし、老いる親のことを心配していたら結婚なんてできませんよ」

 離婚歴があり、子どもがいる美和さん(42歳、仮名)とのお見合いが成立したときには、こんなことを言っていました。

「4歳の子どもがいるけれど、父親とは今も定期的に会っているのかなぁ。養育費は、いくらもらっているんだろう。こういう場合、僕と再婚したら養育費は支払われなくなりますよね。そうなっても、子どもは父親と定期的に会うのかなぁ。そのあたりって、お見合いの前に相手の相談室に聞けますかね」

 このときには、こんなアドバイスをしました。

「離婚をしても、子どもにとって実の父親は永遠に父親ですよ。子どももひとりの意思ある人間なのだから、大人の都合で、『もう新しいお父さんができたから、あなたの父親に会ってはダメよ』とは言えないでしょう? 再婚女性と結婚するときには、彼女の過去もすべて受け入れて結婚を決断しないとうまくいきませんよ」

 こうしてお見合いの前には、毎回、重箱の隅をつつくような心配をするのです。

心配ご無用、1回の食事で交際終了

 美和さんとは、お見合いの後お付き合いに入ったのですが、その先々の心配は絶えませんでした。

「42歳だと、3か月仮交際をして、それから真剣交際に入って結婚したら間もなく43歳。ますます子どもを授かるのが難しくなりますよね」

 しかし、その心配も杞憂に過ぎず、お付き合いに入り1回の食事をしたら、美和さんから“交際終了”がきました。

 起こるかどうかわからない未来を考えて、悩んだり不安になったりするならば、まずは今、立っている足場を固めることです。ふたりの関係をしっかり築いていくことが大事なのです。何が起こるかわからないのが人生。起こったときに、それをどう解決していくか考えればよいのです。


鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイト『最短結婚ナビ』http://www.saitankekkon.jp/