小林よしのり 撮影/坂本利幸

「ともだちんこ!」などの“茶魔語”で、子どもたちに大ブームを巻き起こした小林よしのりさんの『おぼっちゃまくん』が、なんと、大人向けバージョン『新・おぼっちゃまくん』として帰ってきた!

 1984年に「月刊コロコロコミック」で連載が開始されたおぼっちゃまくん。アニメ化もされて、当時の子どもたちの大人気コンテンツとなった。

 そんなおぼっちゃまくんで育った世代も、今や30~40代になる。

「出版社に届くアンケートハガキのほとんどが、30~40代の女性からで意外でしたね。わし、もしかしてモテ期? なんて思ったりして……(笑)。“ともだちんこ”なんて言っていたから、てっきり女子からはイヤがられているもの、と思っていました」

 恥ずかしがっていたはずの女子も、今や「おぼっちゃまくんが好き!」と堂々と声に出して言えるほどに成長し、再来を待ちわびていたのだ。

 実は最終回を描いていなかったというこの作品。今なぜ、続編を再開?

「おぼっちゃまくんは、子ども向けのマンガでありますが、大金持ちをテーマにしたバブルを風刺した作品でした。今、再び格差社会が訪れたので続編にとりかかりました」

自由に描きたいから文芸誌で連載

 新・おぼっちゃまくんは登場人物の年齢はそのままで、「忖度(そんたく)」や「パワハラ」など現代を風刺する内容が炸裂(さくれつ)。掲載は、コロコロコミックではなく、なんと文芸誌! 幻冬舎「小説幻冬」に2018年4月から連載を開始し、第1巻は全7編が収録されている。なぜ、文芸誌に?

「大人向けのマンガ雑誌『コロコロアニキ』からも、お誘いがあったのですが、マンガ雑誌は自主規制が厳しいので断りました。また、毎月描きたいので月刊誌にしたい、と思っていたので、ちょうど幻冬舎から依頼があったものを引き受けることにしたんです」

 勢いあるストーリーと画風、ギャグの切れ味も当時のまま。御坊家(おぼっちゃまくんの生家)のお金のように、ネタがあふれ出てくるものなのだろうか。

「ギャグマンガ家って4年くらいでネタがつきるもの。ギャグドランカーというか、カスカスになってしまうんですね。でも、わしは、60歳過ぎてもパワーが落ちていなかった」

 実際に描いてみて、パワーダウンしていたら、やめようかと思っていたとか。

「読者はすぐに見抜きますからね。連載を始めて評判がよかったので、これはイケると思いました」

 当時より時事ネタも多く、さらに濃厚にパワフルになった、という声も。だが、おぼっちゃまくんは8年間の連載が続いた後、25年間というかなり大きなブランクがあいている。

「25年もブランクがあったとは……今日知って驚きましたね(笑)! ごく自然に続編を描き始めたので、特に影響はありません。その間『ゴーマニズム宣言』という社会派のマンガを描いていて、ストックもたまっていたので、連載再開はいい機会でした」

『ゴーマニズム宣言』を読んで育った現代の若者には、小林よしのりさん=社会派というイメージが強いかもしれない。だが、「若い世代にこそ、おぼっちゃまくんのヒューマニズムに触れてほしい」と、おぼっちゃまくんを推す。

小林よしのり 撮影/坂本利幸

ギャグマンガは
生きる力を与えてくれる

 今回の連載再開でうれしいニュースがある。それはキャラの秘密が明らかになるかもしれないのだ!

「御坊家は999代続く歴代の大財閥なんですが、999代っていうのは計算すると、7万年かかる計算なんですよね(笑)」

 7万年前というと霊長類が出現したころ。御坊家は霊長類最古の大金持ちなのかも!? 

「御坊家の始まりなんかも描いてみたいですね」

 もしかして原始人のドデカイ石のお金は、御坊家が作ったものだったりして。

「実は御坊家には謎がたくさんあるんです。そもそも、おぼっちゃまくんは田園調布住まいなのに、なぜ博多弁なのか? とかね」

 一方、貧乏キャラの貧ぼっちゃまにも謎は多い。

「彼がなぜ落ちぶれたか……知りたくないですか?」

 えっ、もちろん知りたいです! 今後は少しずつ登場人物の謎が暴かれていくというから楽しみ倍増だ。

「おぼっちゃまくんを連載していた当時は忙しすぎて、客観性を失っていました。今、それらを解決しなきゃと思っています」

 今後はさらに、社会で問題になっていることを果敢に取り上げ、小林流社会論を新おぼっちゃまくんで展開していく予定。

「ギャグマンガだからできることだと思います。ギャグマンガって、そもそも風刺作品なんですから。ブラックなところを笑いに変える力があるんです」

 小林さんは真のギャグマンガを後世に伝えたいと意欲を燃やしている。

「ギャグマンガは、バイタリティーにあふれていなければなりません。生きる力が湧いてくるのがギャグマンガなのです」

 皮肉と業が交じり合った人間の社会。それを率直に表現できるのはギャグマンガだからこそ。

「社会はそういうふうにできているのです。純粋で美しい世界なんて、どこにもありません。その中で生き抜いていくには、エネルギーが必要。ゲラゲラ笑って、ホロリと泣いて、この厳しい世の中を渡っていきましょうよ!」

ライターは見た!著者の素顔

 社会派のイメージが強く、怖い先生かと思いきや、優しくてダンディー☆ 素敵なナイスミドルでした。おぼっちゃまくんのファンは年齢層が幅広く、アラフィフ記者もマンガとアニメで大笑いしていました。本作では、おぼっちゃまくんと貧ぼっちゃまの壮大なる(?)「ともだちんこ」シーンがあり、思わず泣けてしまいました。今後はこの2人の秘密も解き明かされるということで、ますます楽しみ、ワクワクです~♪

『新・おぼっちゃまくん』小林よしのり=著 幻冬舎 926円 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

PROFILE
こばやし・よしのり●デビュー作『東大一直線』(週刊少年ジャンプ)が大ヒット。1986年、「月刊コロコロコミック」(小学館)にて連載された『おぼっちゃまくん』が大ブームに。1989年にはアニメ化もされ、第34回小学館漫画賞を受賞。主人公がしゃべる「茶魔語」が子どもたちの間で流行語となり社会現象となる。