イタリア料理のサラダやスープ、ピザなどに欠かせないイタリア野菜。普段、スーパーなどでもなかなか見かけないこの野菜が、実は山形県・河北町で生産が急拡大している。
“冷たい肉そば”が名物というこの町が、なぜイタリア野菜の産地になったのか?
国内に生産地がないなら作ろう
「2013年に商工会が町から農商工連携事業の委託を受け、地域活性のための事業を模索していました。ある日、当時の職員が県内のイタリア料理店に出向いたとき、シェフから”日本でイタリア野菜を購入できないからしかたなく自家栽培している”と聞いて、国内に生産地がないなら河北町で作れば新しい特産品になるのではないかと考えたのです」
と教えてくれたのは、河北町の『かほくイタリア野菜研究会』の事務局長である佐藤淳也さん。
そのシェフがキッチンの片隅で栽培していたのは、イタリア野菜に欠かせないチコリの一種、“トレヴィーゾ・タルティーボ”。アルプス山脈に近い寒冷な地域が原産地で山形と気候が似ていること、また12月から3月が収穫時期であり農家にとって冬場の収入源にもなると考え、有志の生産者を募り試験的に栽培をスタートした。
ところが、そう簡単に事は運ばなかった。
「そもそも種苗会社に種の取り扱いがなく、どこにも売っていなかった。自家栽培していたイタリア料理のシェフに種を分けてもらったのですが、種まきや苗の移植のタイミング、肥料はどうすればいいのかなど何もかもわからない。
なので、ユーチューブで海外の投稿者の動画を見たりしながら勉強して、収穫までたどり着くことができました」
当時、町にはイタリア料理店が1軒もなかったが、試行錯誤を繰り返した末、トレヴィーゾのほかにもレストランでニーズのある“イエローターニップ”“フィノッキオ”といった数種類の野菜作りに成功。
立ち上げ当初のメンバー4名が脱会するというトラブルはあったものの、現理事長である牧野聡さんが新たに手を挙げ、12名の生産者を集めることで再スタートにこぎつけた。
有名シェフに直接交渉
「販路開拓にあたっては、JAや卸会社に大量に購入してもらうのか、個別にレストランへ販売するのか議論がありました。ただ、先のことを考えるとマーケティング調査のためにもシェフとのつながりが欠かせないと考え、個別に売り込む出荷体系にしました」
そこで、商工会はSNSで有名シェフに直接メッセージを送り、河北町のイタリア野菜をPR。東京のイタリア料理店にも足繁く通い、実際に試食してもらいながら地道に営業活動に励み、販路を作っていった。
「毎年必ず、生産者と東京のレストランへ出向いています。実際にどのように調理され、どういったニーズがあるのかを直接聞くことは生産者にとってモチベーションになります」
今では県内のレストラン約100店舗、県外125店舗、卸会社30店舗と取引。売り上げは出荷を開始した'13年12月の決算では60万円だったが、'18年は1800万円。今年は3600万円を目標としている。
3月には東京・三軒茶屋に河北町のアンテナショップをオープンし、一般向けの小売りの販売も開始。地元の食品メーカーとの商品開発や学校給食、病院への利用も進んでいる。
河北町のイタリア野菜としてブランド化に成功したものの、栽培が難しく、まだ生産者にとって主要な収入源にはならないという。
「今後は、生産技術のマニュアル化を進めて生産性を向上させることと、生産者を増やすことが課題ですね」