この春、地上波のゴールデン・プライムタイムに放送される連続ドラマは全部で17本。ほかに深夜帯、BS、CS、ネット配信なども含むと、今期は実に60本近いドラマが放送される。
地上波のドラマはラブストーリーから刑事ドラマ、医療ドラマ、学園ドラマ、ミステリー、サスペンス、ヒューマン、コメディー、ホームドラマ、お仕事ドラマの中にはそれらがミックスされたものもあり、ほぼほぼ、すべてのジャンルが出そろっていると言えよう。
その中で、目を引いたのが、窪田正孝が主演を務めるフジテレビの『月9』ドラマ、『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』だ。
人気コミックが原作となっており、主人公は総合病院に勤める診療放射線技師。この放射線技師とはX線やCT、MRIなどの撮影に従事する医療関係者のことだ。
いまや世界各国で放送されている医療ドラマ。その歴史は古く、アメリカでは'60年代の初めから放送されていて、日本でも大人気となった『ベン・ケーシー』は有名だ。
日本の医療ドラマといえば、すぐに思い浮かぶのは『白い巨塔』だろう。
'67年に佐藤慶さん主演、'78年には田宮二郎さんで大ヒットしたドラマだが、その後も何度かリメークされていて、来月にも岡田准一主演でスペシャルドラマとして放送される予定だ。
そして、この時代の代表作といえば『ドクターX』(テレビ朝日系)だろうか。
業界では、医療ドラマは視聴率をとりやすいと言われていて、毎クール、必ずと言っていいほど“医療モノ”が放送されている。その理由はなぜか?
「病気は誰にとっても身近なものですし、誰もが一度は病院にかかったこともあるでしょう。つまり、“お仕事ドラマ”として非常にイメージのしやすい職業なんです。だから視聴者はドラマの世界に入り込みやすいのだと思います。
加えて、基本的には毎回新しく登場する病人を救うという1話完結型の構成が多いため、視聴者が途中からでも番組を追いやすい」(テレビ誌ライター)
ひと口に医療ドラマといっても、その内容はさまざまだが、これまでの作品を見ると外科医が主人公であるパターンが多いことに気がつく。
「ドラマがヒットする要因のひとつに、ストーリーの緊張感があります。医療ドラマで緊張感を出すところとなれば、生死にかかわるかもしれない手術シーンでしょう。毎回、手術シーンを入れようと考えたら、外科医を主人公にせざるをえないんです」(同・テレビ誌ライター)
だが毎回毎回、手術シーンといっても、そう“ドラマ映えのする”病気の種類がたくさんあるわけではない。
医療ドラマでは、扱うテーマに沿って産婦人科や精神科、小児科など診療科目が分かれ、さらに舞台も離島や船上、山岳地帯、ドクターヘリなど病院だけではなくなった。
そして、“ついにそこに行きついたか”と思ってしまった、放射線技師。
これまで放射線技師を主人公として扱った日本の連続ドラマは存在しなかった。
肝心のドラマ第1話は
第1話は頭部のMRI検査を行ったが、その画像の一部に黒いモヤがかかっていて見えない。主人公はその箇所を復元することで隠れていた病巣を発見、患者を救うストーリーとなっていた。
だが、画像の復元方法について主人公が「湿布の薬面を保護するシール」を見た瞬間に解決策がひらめいた理由や、写真が復元できた原理もわからない。
ただただ、必死にキーボードを打ち続け、パソコン画面に数字が並び、やがて画像が復元するのだが、映画『マトリックス』のようなSFっぽい演出を理解できた視聴者はいるのだろうか。ドラマだから、多少の演出はあるにしても、現実から乖離(かいり)しすぎたらしらけてしまう。
メスや鉗子(かんし)を使った見ていてわかりやすい外科手術とは打って変わって、放射線技師というテーマになじみがなさすぎて、肝心の医療シーンが何をやっているのかがわかりづらかった。
さらに言ってしまえば、前者にあるような「生死をかけた手術シーン」という切迫感のある見せ場がないということも、問題かもしれない。手術こそ医療ドラマの醍醐味(だいごみ)のひとつではないだろうか。
もちろん人間ドラマがあるのは認めるが、病気を発見するまでがメインであとは投薬でサクッと助かってしまい、拍子抜けした感は否めない。
“視聴率のとれる”医療ドラマだからといって、あまりにも専門性が高くなると、難解になり、視聴者離れにつながる可能性もある。
実際に放射線技師をしている視聴者からどんなツッコミが入るのか、気になるところだ。
もしこのドラマがヒットしたら『臨床検査技師の女』とか『調剤薬局の事件簿』なんて、次なる“裏方ドラマ”が出てくるやも。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌などで取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。