第21回 矢口真里
いったい、いつになったら世間サマは、彼女を「許す」んでしょうか。
今をさかのぼること6年前、2013年に『女性セブン』(小学館)と『週刊女性』が、元モーニング娘。・矢口真里(以下、ヤグチ)の不倫を報じました。ヤグチが夫(当時)の不在中にオトコを自宅に招き入れたところ、帰ってくるはずのない夫が帰宅してしまい、不倫相手をクローゼットに隠したことから、“クローゼット不倫”と呼ばれました。自宅で妻が別のオトコと同衾(どうきん)しているところを見てしまった夫(当時)の心中は、察するにあまりあります。
ヤグチは大バッシングを受け、離婚を発表。レギュラー番組をすべて降板し、休業に追い込まれます。2014年には活動を再開、2016年にはCMにも出演しますが、苦情が殺到し、わずか1週間程度で放送中止になっています。
その後、2018年3月に不倫相手だった男性と結婚し、今月に入り、妊娠を発表したヤグチ。しかし、ネット民からは「引退しろ!」「子どもがかわいそう!」という心ない書き込みが殺到したのでした。
オンナが浮気するなんてとんでもない?
既婚者が自宅に異性を連れ込むという前例は、芸能界にないわけではありません。例えば、俳優・大鶴義丹は歌手・マルシアと結婚中の2004年、留守中に自宅に女性を連れ込み、マルシアが女性と鉢合わせ。ふたりはその後、離婚しています。芸能記者に取り囲まれた義丹が、カメラに「マーちゃん、ごめん」と語りかけた様子を今でも思い出します。
2016年に義丹は『じっくり聞いタロウ ~スター近況(秘)報告』(テレビ東京系)で、「女性がいたのは確かだが、男女関係ではない」と不倫関係を否定しましたが、当時の週刊誌は義丹が不倫をした前提で書かれていました。しかし、義丹に引退を求める声はなかったと思います。
あのころは不倫に寛容な時代だったからと言う人もいるでしょう。それなら、このケースはどうでしょう。2017年に国際派俳優・渡辺謙の不倫を『週刊文春』(文藝春秋)が報じました。当時の妻である女優・南果歩が乳がん闘病中の不倫。一瞬でも生と死の瀬戸際をさまよっているときに、夫が別の女性と不倫をしていたと知ったら、その精神的ダメージは計り知れないでしょうが、渡辺謙に芸能界引退を求める人はいません。
結局、ヤグチを叩いている人は「オトコの浮気はしかたないが、オンナが浮気するなんてとんでもない」と思っているのではないでしょうか。
ヤグチを許せない理由として、こんな書き込みをネット上で見つけました。
「私は不倫なんてしていないのに、結婚も妊娠もできない」
単なる自虐のウケ狙いかもしれませんが、もしこの書き込みが真実で本心だとしたら、ヤグチが許せなくても無理はなかろうと思いました。自分は人を傷つけるようなことはせず、まじめに生きているのに、願いがかなえられない。その一方で、ヤグチのようにヤバ女でありながら、要領よく、自分の欲しいものを手にしていく人を見たら、腹が立つかもしれません。
まじめな女性が気づくべきポイント
女性がヤバ化するいちばんの原因は、「まじめだから」ではないでしょうか。
まじめな人は、ルールやモラルを守りますから、いつ誰に見られても問題のない行動をとっているでしょう。まじめさは学生時代は評価されますが、社会人となると必ずしもそうとは限りません。企業は利潤を追求する集団ですから、会社員は会社に利益をもたらす必要があります。
極端な例ですが、
(1)勤務態度がよく、売れている営業マン
(2)勤務態度がよく、売れない営業マン
(3)勤務態度が悪く、売れている営業マン
がいたとします。同僚として、仲よくしたいのは(1)と(2)でしょうが、会社に利益をもたらすのは(1)と(3)で、会社からの評価は高いでしょう。営業のように結果が見える職種でなくても、「まじめに頑張りましたが、できませんでした」では、評価は上がらないと思います。
「まじめの何がいけないんだ」とか「極端な成果主義だ」と立腹する方もいるかもしれませんが、まじめがいい悪いの話ではないのです。社会が求めるのはメリット(利益)です。ということは、全方位でまじめにやるのではなく、求められることをピンポイントで満たせばいいということ。誰に見られても恥ずかしくない行動をし、ノーミスを目指すより、優先順位の高い部分さえクリアすれば、あとのことは余力でOKということなのです。
ここに気づかないと、まじめに頑張っても報われたと感じられず、ヤグチのようなちゃっかりした人が許せなくなってしまうのではないでしょうか。
「まじめは役に立たない」の最たるものは、実は婚活だと思うのです。常に相手のことを思い、間違っても浮気なんてしない女性の婚活がうまくいかないというのはよくある話です。こういう女性は自信をなくして自分を責めてしまったり、「自分は結婚できない」と思い込んでしまいますが、それは単に相手に“メリット”を提示できていないからだと思います。常に気を張って“いい人”でいるよりも、「私と一緒にいると、あなたの人生にこんなにいいことがある」と示すことができれば、あとは縁の問題です。
ヤグチが見せつけるふてぶてしいまでの強メンタル
それでは、ヤグチが相手に与えるメリットとは何か、考えてみましょう。『胸いっぱいサミット!』(関西テレビ)に出演したヤグチは、不倫騒動で生じた違約金をいったん事務所に立て替えてもらい、彼女が毎月返済していると話していました。これは事務所の立場から考えてみると、違約金を返済してもらわないと困るので、彼女のための仕事を用意するとみることもできるでしょう。
モデルをしていた現在の夫はクローゼット不倫を機に芸能界を引退、サラリーマンとなったそうです。夫はヤグチについていけば当分、食いっぱぐれないというメリットがあります。
妊婦さんになったヤグチが、不特定多数からの悪意的な書き込みを目にすることは、体調を崩すことにもなりかねないわけで、ネットとは距離をとってほしいと思ってしまいますが、ヤグチはそんなことでへこたれるほど弱くないようです。『Abema TIMES』の取材に対し、ヤグチは「失敗したからこそ、今の自分がある」とケロリとしたもの。ふてぶてしいまでの強メンタルを見せつけました。
変えられない過去をくよくよ悔やむことも、悪い意味で人をヤバくさせる原因のひとつではないでしょうか。「人に知られたくない過去のこと」を英語で「クローゼットの中の骸骨」と表現しますが、日本女性は「ヤグチのクローゼット」を合言葉に、ヤバ女・ヤグチの強すぎるメンタルの部分「だけ」見習うことをおすすめします。
プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。