「今回演じたのは、昭和の男の代表のような不器用な男。監督から“世の中の女性に嫌われてください”と注文があったので、嫌な男だと思われたら本望だね」
西炯子原作の漫画『お父さん、チビがいなくなりました』を実写映画化した作品で突然、熟年離婚を切り出される夫を演じた藤竜也(77)。自身の夫婦関係について聞くと、ちゃめっ気たっぷりにこう語る。
「うちも何度か離婚危機の気配はありましたけど、その話題に触れるとヤバい感じがして曖昧(あいまい)な感じで乗り越えてきました(笑)。夫婦円満の秘訣? 女房に惚れていることかな。“好きだよ”と言葉にすることはないけど、相手の人格をリスペクトすることは忘れない。あ、最近は寝る前に必ず手を握るようにはしているよ。この年になると、お互い目が覚めないかもしれないじゃない(笑)。だから生存確認の意味も兼ねて、触れ合うことで愛を確かめているよ」
昨年5月にこの世を去った、星由里子さんの遺作となった今作。
「われわれの世代には星さんはスターだから、撮影中は“あの星さんが目の前に”と、共演できたのを感動していただけに、訃報には驚きました。でもこの年齢になると、もうしかたないと思うしかない。命はいつか終わるものだし、僕自身も最近はこれが遺作になるかもな、ぐらいのつもりで撮影に臨んでいます」
3つの時代で演じ続けるスターの思い
昭和・平成を駆け抜け、令和の幕開け直後に最新作が公開される。3つの時代で演じ続けている藤に、特に印象に残った作品を聞くと、大胆な性的描写により、国内外で大きな賛否を呼んだ映画『愛のコリーダ』が挙がった。
「いろんな反応があったからこそ、今でも語り継がれる作品になったと思っています。あの作品に出たことでつけられたレッテルは取れないけど、それが俳優としての個性にもなったと思うので、それでいいと思う。でも基本的に、自分の最新作は毎回、代表作のつもりでやらせてもらっているので、今の代表作はこの『初恋~』。まぁ、次の作品が公開されるころには、忘れちゃっているかもしれないけどね(笑)」
冗談を交えつつ話すものの、自身の出演作品には誇りがあるとキッパリ。
「これまで出演させてもらった作品で嫌なものはひとつもないし、毎回よい作品に出させてもらったなと思っています。おこがましいけど、“藤竜也が出ている作品だから悪い作品ではないだろう”と思われる俳優でありたい。だから作品を選ぶときはその点だけは気にしているかな。ジャンル問わず、作り手に志の高さを感じるものを選んでいます」
ネット時代に「若い子たちは大変そうだな」
最近はSNSでの口コミがヒットにつながることも多いが、ネット時代に対してはこんな感想を。
「今はネットでニュースが拡散されるのが早くなったから、若い子たちは大変そうだなって思う。昭和の時代はいろいろ緩かったし、今の藤竜也は議論の対象にならないから気が楽だけど、自分たちが若いころにネットがなくて本当によかったなって。これまでの色恋は墓場まで持っていくと決めているけど、これだけネットで情報があふれている時代ならそれも難しいでしょう。だから今回の作品について、もしネットで書いてくれる人がいるなら、いい意見だけにしてほしいね(笑)」
最後に、改めて見どころについて聞くと意外な答えが。
「見どころはない(笑)。でも長く一緒に過ごしたパートナーがいる方は、1度言ってみたいセリフが出てくると思うので、そういう何気ないセリフにも注目してほしいね」
溺愛しているものは?
「女房。もし女房がいなくなったら、人生終わってもいいと思っている。彼女に褒められていたいから、仕事も続けているようなもんだしね。絵や焼き物など、これまでハマってきた趣味は、いつも夫婦一緒にやっているよ。どちらかが何かにハマると、一緒にやろうってなるんだよね」
5月10日、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演/倍賞千恵子、藤竜也ほか