久志本眞子と冨士眞奈美の“スー女”に挟まれる、元旭天鵬の友綱親方

──柏戸関をはじめ往年の名力士にも詳しい大女優・冨士眞奈美と、高校1年生にして早くも芸能界一の相撲女子との呼び声高い久志本眞子。時代&世代を超えた“スー女”が、まさかの初顔合わせ! 制限時間いっぱいの取組は……白熱必至の対談、はっけよい、のこった!

元祖スー女と現役スー女

冨士 まだ若いのに、“十両以上の力士のしこ名をすべて言える”くらいお相撲が好きなんてビックリ。どうしてお相撲が好きになったの?

久志本 初めて相撲を見に行ったのは5歳のときなんですけど、その前日に両親とちゃんこ鍋屋さんに行ったんです。そのときに偶然、旭天鵬関(現・友綱親方)がいらっしゃって、そこから興味を持つようになりました。

冨士 それで今に至るまで友綱部屋との交流が続くのね。

久志本 それからどんどんハマっていって、巡業や、各部屋の朝稽古を見に行くようになりました。学校のスケジュールとかぶらないように調整しつつ、相撲ライフを送るのが日課ですね。

冨士 筋金入りね! いま着ているお洋服、なんだか渋いわねえ……。

久志本 はい! (友綱部屋の)旭大星関の浴衣をワンピースにアレンジしています。

 冨士さんが相撲をお好きになったきっかけは何だったんですか?

冨士 私たちが子どものころは、ラジオしかなくてね。相撲と野球中継は人気番組で、いつも聞いていたから、気がついたら大好きになっていたの。私の場合、周りから「女の子は聞くものじゃない」なんて言われたことなかったし。お相撲は取らなかったけど、田んぼで野球はしていたわよ。

 18歳で女優になったときに、そのころは相撲と野球が好きで語れる若い女性なんていなかったから、雑誌なんかの企画でよく呼ばれたのよ。相撲部屋を訪れたり、王(貞治)さんと対談をさせてもらったりね。

20代のころの冨士さん。女優ながら、スポーツ選手との対談の仕事も多かった

久志本 元祖スー女であると同時に、元祖野球女子でもあるなんてカッコいい……憧れます!

冨士 うふふ。今では亡くなってしまった方も少なくないから本当に貴重な体験をさせていただいたわ。眞子ちゃんは、北の湖さんにお会いしたことがある?

久志本 小学生のときに1度だけ。優しい方でした。

冨士 そう。とっても優しい人。北の湖さんは、15歳のときに北海道から上京したんだけど、稽古がつらすぎて逃げて帰ることを決意したそうなの。

久志本 のちに大横綱になる人が!? 意外……。

冨士 ところが、東京へは右も左もわからない状態で連れてこられたから、帰り方がわからない。上野駅に行く方法がわからなくて、あきらめて部屋に帰ってきたんだって。

久志本 なんかかわいい。でも、もし上野駅にたどり着けていたら名力士は生まれていなかったってことですよね。

冨士 そういうことよね。眞子ちゃんも、これからこういったおもしろい話を聞く機会に恵まれるだろうから楽しみね。

久志本 頑張ります! 

久志本眞子

冨士 今でもよく覚えているのは、画家の山下清さんと一緒に柏戸さんの伊勢ノ海部屋へ行ったこと。

久志本 柏戸さんって、あの大鵬さんのライバルで“柏鵬時代”を作り上げた名横綱ですよね!? あと……山下清さんって実在していたんですか? 「裸の大将」ってフィクションかと思っていました。

冨士 実在の人物よ(笑)。柏戸さんたら、吸っていたタバコを素足の裏で消しちゃって、山下さんも私もビックリ! 足の裏を見せてもらったら革靴みたいだった。

久志本 私にとっては、伝説上の人物しか登場していない……おとぎ話の世界みたい。

──冨士の引き出しの多さと、懐の深さにビックリの久志本。さらに五月場所の展望に話が及ぶと、トークはますますがっぷり四つの大熱戦に……!

私のイケメン力士

冨士 眞子ちゃんが、いま注目している力士って誰?

久志本 幕下だと……

冨士 ま、幕下から!? さすが芸能界一の相撲女子ね!

久志本 恐れ多いです(笑)。注目してほしい力士は、對馬洋さん(三月場所時点で東幕下6枚目)。イケメンでもあるので要注目です!

冨士 イイ男と聞いてが然、興味が湧いちゃった。遠藤関とか勢関とか、昔なら寺尾とか、イケメン力士がケガをおして、苦悶の表情で相撲を取るのはもったいないわ。色男が台無しよ。

冨士眞奈美(右)と久志本眞子(左)

久志本 ちょっと話が逸れちゃいますけど、冨士さんが見てきた力士の中で、「カッコよかった!」って方は誰ですか?

冨士 魁傑さんや(初代)貴ノ花さんは、顔立ちもカッコよかったけど、相撲にも艶があったわね。あと、北の富士さんも個性的でカッコよかったな。

久志本 わかります! 

冨士 孫ほど離れた眞子ちゃんにも、カッコよさが伝わるなんて、北の富士さん……恐るべしね。解説もおもしろいしね。

久志本 お会いしたときに、服装がほんとカッコよくて。

冨士 昔、テレビで見たんだけど、ハワイでバンダナを巻いてビーチでくつろいでいたの。さすが“現代っ子横綱”と思ったわ。

久志本 バンダナを選ぶなんておしゃれすぎます! 冨士さんの注目力士は誰ですか?

冨士 私と本名が同じ岩崎さん、英乃海関と翔猿関の兄弟力士に頑張ってほしい。幕内だと、眞子ちゃんは誰に注目してる?

久志本 御嶽海関に期待したいです。取材をさせていただいた際、「自分にはまだ引き出しがある」っておっしゃっていたんですよ。

元旭天鵬の友綱親方

友綱親方 あれ? うちの力士はいないの?

─ここで、笑いながら友綱親方が登場。「もちろん、友綱部屋の力士もよ、ね~」と顔を見合わせるふたり。まさかの親方を巻き込んだ三つ巴の後半戦が幕を開ける!

白鵬は、何回優勝するつもりだよ!

冨士 現役を引退されて、約3年。親方と呼ばれることに慣れてきました?

友綱 ぼちぼちですね。古い付き合いだから、眞子ちゃんからはあんまり親方と思われていないかもしれないけど。

久志本 思ってますよ! 現役時代よりシャープになって、カッコいい親方だなって。

冨士 ほんとね。(親方の腕を触りつつ)ちょっとこれってセクハラかしら(笑)、筋肉質で身体も締まっていてすごいわねぇ。

友綱 大女優に触ってもらえるなんて、ごっつぁんです!(笑)。現役時代より25キロくらいやせましたけどね。

冨士 相変わらず肌もきれい。せっかく親方がいらっしゃるんだから、令和の大相撲の展望を聞いちゃおうかしら。

友綱 僕は平成4年に来日して、ずっと平成とともに相撲人生を歩んできました。ですから、いち相撲人として新しい元号はワクワクしますね。

冨士 「令和最初の優勝力士」って、大相撲史に名前を刻みたいでしょうから、みんな燃えているんじゃない?

友綱 幕内だけでなく、各段の力士がそう思っているでしょうね。願わくば、友綱部屋からそういった力士を輩出したいですよ。

久志本 白鵬関も、「令和最初の場所で優勝を目指す」って公言していますよね。

横綱・白鵬と

友綱 ホント、何回優勝するつもりだよ! って思うよね(笑)。

冨士 白鵬関と仲がいい親方だからこそ言える言葉ね。でも、あのモチベーションはすごいですね。

友綱 大相撲は長い歴史とともにあるから、元号が変わったからといって急に何かが変わるわけではない。でも、間違いなく世代交代の波が押し寄せている。それが令和の幕開けと重なっているんだから、偶然とはいえ、よくできているなって思いますよ。

冨士 そういう意味では、私は貴景勝に期待したいかな。押し相撲で攻め続ける、その姿勢が気持ちがいいんだもの。

友綱 彼はきっぷがいいよね。勝負審判として土俵下から見ていても、そう感じる。

久志本 勝負審判って感情を出しちゃいけないですよね? 友綱部屋の力士が取組をするときは、難しくないですか!?

友綱 我慢できないときもあるよなぁ。それこそ、うちの魁鵬が三段目東5枚目で勝ち越しをかけて千秋楽で相撲を取ったとき、自分が勝負審判をしていたんだけど……

冨士眞奈美

冨士 どうなったんですか?

友綱 優勢だったのに逆転負けをしてしまった! 思わず、天を仰いでしまったんだけど、思いっきりテレビに抜かれていたの。ツイッターでもちょっと話題になっちゃった。

冨士久志本 アハハハハハ!

友綱 ほかの勝負審判も、僕の気持ちがわかるから、笑っているの。親方って、大変な仕事だよ、ホント! 

冨士 親方は若貴時代から朝青龍、白鵬、稀勢の里まで、いろいろな力士と相撲を取ってきたと思うけど、やっぱり今と昔とでは違いますか?

友綱 若貴時代は、幕内平均体重が140キロ台で、今は160キロ台。当然、対策や傾向も違うから、どちらの時代のほうが面白かった、強かったとは一概に言えないと思っています。それぞれの時代によさがある。そのうえで、新しい時代に向かおうとしている。

冨士 いいことおっしゃる。

久志本 しかも、今は誰が優勝するかわからない面白さもあります。 

友綱 そのとおり! 誰が令和の時代を築くのか、ワクワクするよね。

冨士 平成になって、ハワイ出身だけじゃなく、モンゴル、中国、ブラジル、ジョージア……本当にいろんな国から角界を目指すようになってるんでしょう。令和になったら、もっとグローバルになるかもしれないわね。もう国籍なんていってられないわね。

友綱 そういっていただけるとうれしいですね。

冨士 シンプルなルールの中で、真っ向からぶつかり合って勝敗を決める。要するに、強い男がカッコいいってことよ。それが相撲のいちばんの魅力なんだから。幸い、眞子ちゃんのような可愛いスー女もいてくれる。相撲の未来は明るいわね! 

久志本 新弟子検査って、中学卒業からなんですよね。私と同じ年の子が、新弟子として土俵に上がっていると思うと、いちファンとしてもっと相撲の魅力を伝えられるように頑張ろうって思うんです。

友綱 冨士さんから眞子ちゃんに伝承だな。継承も立派な相撲の文化ですから。期待しているよ! 

久志本 そのときは改めて伝達式をお願いします! 

冨士 もちろん! 

 老いも若きも大相撲、敢闘賞よ!


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、小説家としても知られ、句集をはじめ著書多数。11年間「俳壇賞」選考委員。最新刊は『吉行和子・冨士眞奈美 おんなふたり 奥の細道 迷い道』。出演作『ばあばは、だいじょうぶ』が5月10日より全国イオンシネマほかで公開される。

くしもと・まこ 2003年8月28日、三重県生まれ。小学校1年のときにスカウトされ、以来女優、歌手として活躍。2016年公開の映画『クハナ』で主演を務める。趣味はスポーツ観戦で、特に相撲においては「芸能界最高スー女」の呼び声も高い。特技は「十両以上の力士は全員しこ名が言える」こととバイオリン。ツイッターは @kushimako828。

友綱親方 本名:太田勝。元関脇・旭天鵬。1974年、モンゴル・ナライハ市(現ウランバートル市ナライハ区)生まれ。1992年2月、のちの小結旭鷲山らと来日し、史上初のモンゴル出身力士となる。'98年1月に新入幕。'05年にはモンゴル出身力士として初めて日本に帰化。同年七月場所で昭和以降最年長の37歳8か月で優勝。'15年七月場所限りで引退。'17年に江戸時代から続く年寄「友綱」を継承し、モンゴル出身力士として初の師匠(部屋持ち親方)に。

取材・文/我妻アヅ子 撮影/伊藤和幸 撮影協力/友綱部屋