「タピオカミルクティー」のお店に多くの若者が並ぶのは、おいしいという理由だけでしょうか?

 こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャ(R)」の大野萌子です。

 最近、街中でよく見かけるタピオカミルクティーを求め並んでいる大勢の若者の姿。時には、驚くほどの大行列を見かけることもあります。次々とオープンする新店舗に、なぜ、あんなに行列するのか? そんなにはやっているのか? と、不思議に思っている人も多いのではないでしょうか。

 確かに、つるんとしたのど越しやモチモチの食感を、おいしいと筆者も思います。ただ、これほどに盛況なのはそれだけの要因ではなさそうです。

自信のなさを埋められる

 社会性動物である人間は、情報が不確かなときほど、他の人間の行動や言動に影響されやすく、行動規範の参考にしやすい特性を持っています。いまや、ネットをはじめ情報があふれ、何が本当で何がうそなのかもわからないほどです。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 そのような中で、情報を絞り込んでいく過程で大きな影響力を及ぼすのが「多くの人がよいと支持すること」です。特に、若者世代は、学校などの狭い世界をすべてと思いがちで同世代の人たちの言動の影響力は絶大です。

 さらに、自分の価値観をはっきりと自覚できていない、もしくは、自信がない人ほどその傾向は強く表れます。

 そして、「並ぶ」という実際に行動を起こす人たちが作る「行列」は、信憑性を増し、「みんなが選んでいる」という安心感によって、自分自身の行動が間違っていないことへのある種の証明が行われるのです。これは、自分の価値観への自信のなさを補完します。

 もちろん「ドリンク1杯を購入することイコール自信がないこと」ではありません。ただ、行列に並びたくなる1つの要因として、自信のなさを挙げることはできると思います。並ぶことにより、多くの人と同じ価値観を共有でき、自己肯定感を満足させることができるからです。また、はやっているものを手に入れることで、SNSなどの拡散材料にもなり、「いいね!」をもらうことで、さらなる自己満足を得られる自己肯定の相乗効果も望めます。

 もう1つの要因としては、行列に並ぶことによって、マジョリティーとなる安心感を得ることができるということです。もっと言えば、疎外感や孤独を基本的には好まない本来の欲求を充足させ、安心感を満たすために行列に並ぶという同調行動をとりやすいのです。

 安心感は、セロトニンに影響します。セロトニンとは、気持ちを左右する影響を持つホルモンの一種で、思考や意欲に深く関わるものです。例えば、うつ状態のときは、セロトニンの分泌量が激減することから、報酬系回路が遮断され、興味や喜びを著しく喪失すると言われています。安心感は、セロトニン分泌を促し、心のコントロールをしやすくさせ幸福感を高めやすくなるというわけです。

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 そしてさらに、同調快感(シンクロニシティ・コンフォート)というものがあります。これは、人類が獲得した生存のためのホメオスタシス(恒常性)で、共通の思いを持つことによる一体感です。昨今は、プライベートやプライバシーを重視し、個人主義の意識が強く、個別に行動することが増えています。集団で何かを成し遂げたり、チームで取り組むという場が少なくなっているからこそ、このつながっている感じが求められるのではないかと考えます。

 前後に並んでいる人との関係性はないけれど(密には関わらなくてよい状況にありつつ)、同じ目的に向かっている感覚(一体感)を得られるわけです。よって、同じものを求めて並ぶ人数が多ければ多いほど、この同調快感は増幅されると考えます。そして、SNS空間ではなく、並ぶという現実でその実感は、より確かなものになります。

自己決定の重要性

 ただ、「その他大勢」に埋もれることはしたくない、オリジナリティーを持ちたいという欲求もあります。それをも可能にするのがカスタマイズです。

 並んだ先にある商品の選択肢の多さが、自分で選んだという意識を高め、能動的な意思決定欲を満たします。お茶の種類をはじめ、量や甘さ、氷の量などまで細かくカスタマイズできるお店がはやるのもうなずけます。

 もし、並んだお店の商品に対して満足が得られない場合も、並んだ時間が多ければ多いほど、「損をした」と思いたくない防衛本能で、「満足した」と思いこもうとする気持ちが働くことにより不満な気持ちが、ある程度抑えられます。

 また、私たちには、「つじつまが合わないと落ち着かない」という心理が備わっており「こんなにたくさんの人が並んでいるのだからおいしくないはずはない」「こんなに時間をかけたのだから特別なものに違いない」という思いから、さらにおいしさや特別感を覚えます。よって、おいしいものなら、なおさらおいしさが増すというわけです。

 以上に挙げた、多くを満たすために必要な要素がそろい、テイクアウトできるお茶という誰しも手にしやすい手軽なアイテムが、若者の心を虜にしたのではないでしょうか。

 さて、あなたは、行列に並びますか?


大野 萌子(おおの もえこ)◎日本メンタルアップ支援機構 代表理事 法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。