出演すると全国区の人気を獲得できる国民的番組・朝ドラ。近年、特にその期待は高まって、ヒロインオーディションには常に2000人以上の応募がある。
一体、どんな方法でヒロインが選ばれるのか、『なつぞら』の磯智明チーフ・プロデューサーに直撃!
サプライズ発表の場合も多い
まず行われる時期は?
「前期(4月~9月放送作)だと前年の5月くらいまでに行います。'20年前期『エール』の主役、窪田正孝さんの相手役となるヒロインのオーディションも、まさに今、進行しています。
以前は前期だとオーディションは前年の夏くらい、クランクインは秋でしたが、最近、働き方改革の影響もあって前倒しになり、春にオーディション、夏にはクランクインという流れになっています」
“われこそがヒロインに!”と思ったとき、応募方法は?
「事前に各事務所や劇団などにお知らせを出します。事務所や劇団という会社や組織に所属していることが原則で、フリーの方には応募資格はありません」
書類審査で絞り、一次試験、二次試験が基本で、三次試験まであるかはそのとき次第。面接と演技試験がメインで、アドリブ的な課題もある。
例えば、『ぴあの』('94年)の純名里沙は得意のミュージカルナンバーを披露する機会があり、『あさが来た』('15年)の波瑠は劇中に相撲シーンがあるため、実際に相撲をプロデューサーの前でとったりもした。
「こうして勝ち抜いた俳優は、晴れてマスコミ向けヒロイン発表会でお披露目となりますが、当人には会見ギリギリまで秘され、サプライズの模様をメーキングで紹介することも最近は多いです。
『なつぞら』は最初から広瀬すずさんに決めていましたが、僕らが彼女に初めて会うとき、事務所の社長はCMの打ち合わせということで引き合わせたんですよ。僕らはてっきり広瀬さんが知っていると思って話し始めたら、なんだか話が噛み合わなくて……。その様子を社長ひとりが楽しんでいたわけです(笑)」
広瀬のほかに『まんぷく』('18年)の安藤サクラ、『ひよっこ』('17年)の有村架純、'19年後期『スカーレット』の戸田恵梨香など非オーディション型のヒロインも増えている。
「視聴者は新人ヒロインと自分を重ね、成長を応援しながらドラマを見る方が多かったのですが、最近、ヒロインの芝居に一定の演技力を求める視聴者の方も増えていて、認知度も実力も定評のある方にお願いするケースが増えてきました」
“磨けば光る”原石探しも
そのかわり、ヒロインのオーディションを行わないときは相手役のオーディションを行い、新しい才能との“出会い”の可能性は残している。
「オーディションで、今は未熟だが、磨けば光るのでは、という子に出会うこともありました。『あまちゃん』('13年)の能年玲奈(のん)さんはそうしたタイプだと思いますね。才能を発掘することも朝ドラ本来の大きな役割ではありますから、『なつぞら』では、なつ以外の若手を男女各々2500人くらいの応募の中から選びました」
実際の台本にあるワンシーンをアレンジして役を入れ替え、芝居への注文もしつつ、何回か演じてもらい、応募者をいろいろな角度から審査。表現力とともに柔軟性も重視するとか。
「ドラマは俳優同士のコンビネーションが重要で、ヒロインを支える周囲の若手キャスティングはとても大切です。
朝ドラはホームドラマですから、食事をしながら話すシーンも多く、日常生活を自然に演じることが求められます。それが芝居としてはいちばん難しいのですが、周囲に気を配ることができ、芝居がちゃんとできる若手俳優が、朝ドラには必要なんです」
《PROFILE》
磯智明 ◎いそ ともあき。 『なつぞら』のチーフプロデューサー。朝ドラ『春よ、来い』、大河ドラマ『風林火山』の演出や、大河ドラマ『平清盛』でチーフプロデューサーを務めた