「テレビドラマのお仕事をさせてもらうようになって10年以上たちますが、まだ自分の名前がお茶の間に届いていないことを実感しました。どれだけやっても満足しちゃダメなんだなと」
現在、NHK朝ドラ『なつぞら』にも出演中で、最近は番宣のため、バラエティー番組に出ることも増えてきた井浦新(44)。
「バラエティーのお仕事は挑戦してこなかったわけではなく、今までの僕に需要がなかっただけだと思います。ずっと映画でキャリアを積ませてもらってきたからか、お茶の間的にはまだあまり浸透していないんでしょうね。
たまに出させてもらっても、“井浦新って何者?”ってところから入ることが多いですから。でもこれまでは、出演しているドラマと同じ局の番組に呼ばれる程度だったのですが、最近は映画のプロモーションでも、バラエティーに出させてもらえるようになったのが大きな変化。こんな人気番組で映画を宣伝させてもらっていいの? って感動しているところです」
嵐電にまつわる不思議な物語を集めるために鎌倉から京都にやってくるノンフィクション作家役を演じた、主演映画『嵐電』が24日から公開される。
京都市街を実際に走る同名の路面電車が舞台となった今作。キャスト、スタッフの多くはメガホンを取った鈴木卓爾監督のもとで映画を学んでいる、京都造形芸術大学映画学科の生徒たちだ。
「生徒のみなさんたちは、“映画を作りたい!”という情熱にあふれ、知らないながら一生懸命に取り組む姿勢を見て、よい作品を作りたいという思いはプロも学生も変わらないんだなと、こちらが学ぶことが多かったです。
俳優部の学生の何にも染まっていない表現方法は、デビュー当時の自分を見ているようでした。これまで役者として走り続けたことで、経験からこなせるようになったことも多いですが、この現場を経験したことで、きれいな水で洗い流してもらえた気がします」
本当に現場が好き
是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』で役者デビュー。日本インディペンデント(自主製作映画)の巨匠・若松孝二監督の晩年の作品の常連だったこともあり、今作のようなインディーズ映画こそがホームだと微笑みながら語る。
「インディペンデント作品で育ててもらい、映画作りを学んできましたから。予算が限られた作品は、無我夢中で監督の作りたい作品をみんなで一丸となって作るしかないんですが、僕はその感覚が染みついているので、そういう現場のほうが落ち着きます。
予算が潤沢な作品だと、自分の出番まで快適な楽屋で待機させてもらえるのですが、逆にムズムズしちゃう(笑)。
今回も自分の出番のありなし関係なく、ずっと現場にいさせてもらったのですが、若い役者たちの演技をずっと見ていたかったほど。本当、現場が好きなんだなと思います」
一方で、バラエティー番組から学ぶことも多いようだ。
「今まで僕が味わったことのない世界なので、いまだに変な汗が出ます(笑)。でもバラエティーが苦手だから……と断ってしまうのは、わがままでしかないと思っていて。
作品を取り上げてもらえるのはもちろん、慣れない世界に飛び込んでいくのは、自分でも新しい発見があります。バラエティーの百戦錬磨の方のトークで、自分でも驚くような反応を引き出してくれたり。
大きなくくりでは同じ芸能界で活動しているけど、ジャンルが違うと必要な能力も違うんだなと、日々、勉強させてもらっています」
舞台となった『嵐電』は知ってました?
「この映画を撮る前に乗ったことがありました。鉄道はどちらかというと好きなほうで、見るのも好きなんです。
だから撮影期間中は嵐電に乗って、撮影現場に行くこともありましたし、嵐電を見ながら、音を聴きながら仕事ができたのは幸せな時間でした」
出演/井浦新、大西礼芳ほか
5月24日からテアトル新宿、京都シネマほか全国で順次公開