ダイナミックな個性とダンスで、宝塚のトップスターとして絶大な人気を誇った柚希礼音さん。初舞台から20周年という節目の年を迎えた今年の柚希さんは、まさにフルスロットル。今度の挑戦は、小さな劇場でのひとりミュージカルだ。
もっと近くに濃密に
私を感じてほしい
「ソロ・コンサートの『REON JACK』は、さまざまなダンス・パフォーマンスをやれる場で大好きなのですが、会場が大きいとお客様がどうしても遠くなってしまう。躍動する私の呼吸や空気をもっと近くに、濃密に感じてほしい、というところから始まった企画です。
最初はダンス・パフォーマンスのつもりでしたが、ただ踊るよりストーリーのあるダンスのほうが楽しんでいただけるんじゃないか、歌で表現したいこともある、と考えていったらミュージカルになったんです」
この作品で柚希さんが演じるのは、バリバリのキャリア・ウーマン。でも仕事にのめり込むあまり、病んでしまった女性だという。
「責任感とプレッシャーから自分を追いつめてしまうんですが、それって働く人なら誰にでも起こりえますよね。療養所で限界がきて、ポンッと生まれ出たのが、男性と女性の別人格。そのふたりの支えでなんとかバランスを保ち、生きている状態です。そこから偶然見つけた日記に救われて……。
私自身も2月~3月に出演させていただいた『唐版 風の又三郎』では、なかなかセリフを覚えられなかったりと追いつめられたので、この台本を読んだとき“わかる! この感じは知ってる。身をもってできそう”って感じたんです。完全に私のためのアテ書きで、男役経験も生かせるし、踊りまくってやりたいことをやらせてもらえる。すごく贅沢でありがたいなぁと思います」
20周年を迎えるにあたり、柚希さんの決めたテーマが「挑戦を続けること」。宝塚を退団して以来、毎回のように限界ぎりぎりの高さにハードルを据え、チャレンジしてきた柚希さん。そこまで挑み続けるのはなぜ?
「今回は“20周年がただの感謝イヤーになるのは嫌だな”と思ったし、今年が終わるとき“守りに入らなかったな”と思いたくて。本当は、ひとり舞台は“大変そうすぎて避けたい!”と思ってました(笑)。
でも思い切ってやってみて、お客様に何かが通じたら、また新たな感覚を知ることができるんだろうなと。そう思ったら、やってみたくなりました。始まる前はいつも怖いです。でも道が開けたときの喜びが大きいから、20周年もそれを追求していきたいと思ったんです」
20年間歩んできた
経験すべてが宝物
これまでの挑戦の中でも、初のアングラ劇『唐版 風の又三郎』は、非常にハードルが高かった。
「“絶対にできない”と思いました。まず、先ほども話しましたがセリフが覚えられなくて。毎日必死でやったんですが、世界が違いすぎてなかなか頭に入ってこない。相手に対する呼称も“アンタ”とか“オマエ”とかいろいろあったし、長ゼリフが少しずつ変わるんですが、なぜ変わるのかわからなさすぎて。
でも、周りに助けてくれる方々がたくさんいらっしゃいました。その時々に言われたことが、演劇を始めたころに言われたようなことだったんです。“自分が楽しんでいないとお客様だって楽しくないよ”とか“どんなにうまくなくても、自分が納得してやればいい”とか。
いちばん最初に教わった根本の、いちばん大事なところを、20周年でもう1度、学べる機会をいただけた。“ああ、本当だ!”と思うことだらけで、とてもありがたい経験でした」
壮絶な苦労をしたが、そのかいは大いにあった。
「宝塚を退団して“どうやったら女性になれるんだろう?”というところから始まり、4年間いろいろな作品で小さく見せようとしたり、かわいく見せようとジタバタしたこともありましたが、それも大切な時間。
それがあったうえで演じた『唐版 風の又三郎』のエリカという役は、何も縮めることなく、野太い声で歌い(笑)。これまでの経験すべてを生かせたという感覚があって。“この20年、とても大切な道を歩いてきたんだな”と思えてうれしかった」
宝塚では、男役を完成させるまでに最低10年はかかるという意味で“男役10年”という。では女性役は? 退団してからの4年で完成させることができた?
「まだまだです。ただ、女性だからこうしなきゃいけないとか、スカートをはいているからこうだ、みたいなことは少しずつなくなり、ひとりの人間だからこう、と思うようになってきました。
男性も女性もひとりの人間、というところで考えられるようになったんですね。男役のときも、男のカッコよさをいろいろ学んだ後に、そういうものを全部ストンと落として“男も女も感情は一緒だ”というところでやると、すごくしっくりくるものがありました。退団後もそこに到達できたのは、1度“女性らしく見せたい”と、あがいて試行錯誤をした経験があってこそ、なんです」
すべての経験が、いまにつながっている。
「以前は女性としても“カッコいい”をメインにしようと思っていましたが“カッコいい”があるなら“カッコ悪い”も“醜い”も、“かわいい”もあっていい。
すべてをひっくるめて役の生きざまを見せられたら、そのほうがカッコいいと思うようになりました。おかげで女性役をやるのがどんどん楽しくなっています」
Musical「LEMONADE」
芸歴20周年を迎える柚希礼音が、趣向を変えて挑むオリジナル企画。小さな劇場で、観客と近い距離で歌・ダンス・芝居を感じさせる、密度の濃いひとりミュージカルだ。キャリアウーマンの主人公が病んで三重人格になりながら、人生を取り戻そうとする姿を描く。作・演出はダンスにも造詣の深い小林香。5月24日~6月9日 CBGKシブゲキ!!にて、7月13日~15日 梅田劇場シアター・ドラマシティにて上演。
■公式サイト(http://musical-lemonade.com)
<プロフィール>
ゆずき・れおん◎6月11日、大阪府生まれ。1999年に宝塚歌劇団で初舞台、2009年より男役トップスターとして絶大な人気を呼ぶ。2015年に退団後は『プリンス・オブ・ブロードウェイ』、コンサート『REON JACK』シリーズ、『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』『マタ・ハリ』『唐版 風の又三郎』などで女優・エンターテイナーとして活躍。7月には『氷艶 hyoen2019-月光かりの如く-』、9月よりミュージカル『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』に出演予定。
<取材・文/若林ゆり>