「学校には行かなくていい」と主張するゆたぼん(本人のYouTubeより)
 10歳の“不登校YouTuber”『少年革命家ゆたぼん』が炎上している。「宿題を強制する学校に嫌気がさした」「先生に従う同級生がロボットにみえた」などの発言がメディアで取り上げられることにより、一気に拡散。義務教育なのに行かないのはアリ? ナシ? など賛否巻き起こるこの炎上について漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。

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──親子でワイドショーの取材にたびたび応じるなど、かなり大きな話題になりました。

「テレビを見ていてまず感じたのは、“親子揃って後ろ髪が長いな”ということでした。正面からだとわかりにくいのですが、横とか後ろを向いたら束ねた長い髪がみえる。綾小路きみまろの長髪版といった感じでしょうか……。学校だけでなく美容院に行くのも嫌なのかもしれません。

 それにしてもゆたぼんはYouTuber向きの顔をしていますよね。ヒカキン・セイキン系列というか。多少地味だけれども味わいがあってまたもう一回みたくなるような、いわゆる“YouTuber顔”かと。芸能人ほどの派手さや華やかさがないからこそ、ある意味小さい画面で見ても満足できるといったところでしょうか

──「宿題をしたくない」などの、“不登校になった理由”も今回の炎上が起こった原因ですよね。

「この件を受けて、朝の情報番組で小学生を対象にした街頭アンケートをしていたのを見たのですが、『おバカになるから学校は行ったほうがいい』といった冷静な意見が多くてちょっと驚きました。

 個人的にも、基礎学力は必要かなとは思います。特にYouTubeの世界は1再生回数あたりの広告収益がすぐに変動する世界だと思うので、小学生でYouTuberになりたいような人は、基本的な算数は習っておいたほうがいいですね。動画1再生で0.05円〜0.1円くらいと、数字が細かいと聞きますし、利益計算ができないのはマズいと思います。

 あと、彼はカバー曲やオリジナルソングを歌っている動画もアップしているのですが、やはり“まだ喉で歌っているな”と感じてしまいました。音楽の授業も受けてちゃんとした発声法を習ったほうがいいかも。

 “学校は行きたいときに行く”姿勢のゆたぼんは、図工の授業や給食を食べにだけ行ったりしているとテレビのインタビューに答えていました。すでに自分で科目を選ぶ大学生の感覚です

─ゆたぼんと両親がそろってテレビに出演したことで、父・幸也さんの過去もネット上で騒がれていました。暴走族から心理カウンセラーに転身したという経歴をお持ちみたいです。

「かつて本を出版されたときのプロフィールには、《恐喝、窃盗、傷害、暴走、喧嘩、シンナー、麻薬、覚せい剤…etc》との記述が……。基本的に悪いことは全部やっていますね。

 さらに、

《中学時代はかなりのやんちゃ坊主。盗んだバイクでグランドを走りまわり、タバコを吸いながら廊下を堂々と歩く》

 ともあります。なんというか、お父さんはこの経歴を黒歴史だと全く思っていないという感じですよね。むしろ誇りに思っているというか……。すごいポジティブな方なのでしょう。ヤンキーは後ろ髪を伸ばす風習がありますし、今も生やす後ろ髪は、その名残なのかもしれません。

 また、この家族をみていると、ビッグダディを思い出します。ちょっと大家族っぽいところもそうですし、一家で沖縄に移住したり、息子が目立ってくるところもそう。ビッグダディ一家も全国のいろいろなところに住んでいましたし、“大家族はさすらいがち”なのかもしれません。

 まだそれぞれのキャラクターが見えてこない部分もありますが、ビッグダディ的な感じでテレビに出るようになったらYouTubeの動画を見る人も増えるのかな、と思いました。しかし、テレビで見た限りだと奥さんもおとなしそうな感じでしたので夫婦喧嘩のシーンは期待できなさそうですが」

──確かに現在ゆたぼんの動画の再生回数も、話題になっていたときと比べるとだいぶ寂しい感じになっていますしね……。

 今年の3月に子どもたちを対象に行われた「将来なりたい職業」アンケート調査によると、小学校高学年男子のあいだではなんと『YouTuber』が1位とのデータがあるそうです。

「この騒動のなか、同じく10歳のYouTuber、『U10(ゆうと)』が、ゆたぼんの言い分に反論している動画をアップしているのを見つけました。

 その子は割と冷静なタイプで『勉強したほうが社会でめっちゃ楽だよ』とまともなコメントをしていました。

 また、“宿題をしていないヤツとは遊びたくない”と友達に言われたというゆたぼんの動画を引用し、『僕もそんなズルい子とは遊びたくない』と返したり、例の“ロボットになりたくない”発言に対しては、ロボットの絵を描いて『ロボットかっこいいよね』と言ったりですとか、返しがウィットに富んでいます

──ついに10歳同士がYouTubeで論争する時代になってしまったんですね……。今、どんどん若年層のYouTuberが増えていることに関してはいかがお考えでしょうか。

そもそもYouTuberのシステムがいつまで続くかわからないというのがありますよね。ヒカキンさんほどブレイクできればいいのかもしれないですけど、聞いた話によるとだいたい300万回の再生回数で30万円ほどの収益だと聞きます。

 でも、そのレート(再生回数あたりの収益率)もいつ変わるかわからないですし、収益化のルールもどんどん厳しくなっているとか。

 結局、そういったYouTubeのシステムやルールを作る側は、勉強を極めて一流大学を出た人たちが多いですよね。そういった支配者層の、ちょっとしたさじ加減ですぐ生活が成り立たなくなる職業は危険なんじゃないかと思ってしまいます

──確かに彼らは宿題をやってきた層かもしれませんね。そんななか、YouTubeの世界で炎上してもたくましく動画をアップし続けるゆたぼんはすごいと思うのですが。

「突然ですが、占星術の話でいうと、'19年3月6日に『革命』を司る天王星が、『価値』を意味する牡牛座に移動するという大きな出来事があったそうです。

“今までの価値観に変化が起こって古い考え方では通用しないという時代に突入する”とありました。ゆたぼんは『革命家』を名乗っていますし、もしかしたらその流れに乗って世に出てきて、“みんな当たり前に学校に行く”という価値観を壊しにきた存在なのかもしれません。

 でも、不登校の子たちに向けて“死にたくなるくらいなら学校にいかなくていい”と励ましている彼ですが、学校に行かずネットで何万もの人から叩かれること自体、私なら十分死にたくなってしまうと思います。コメントも大人が書いたりもしていますし、内容もより辛辣なので心配です。

 もともとメンタルが強いほうなのかもしれませんが、学校に行ってネットのことを忘れるのが精神的にもいちばんいいかな、とは思いますね。

 あと、当たり前のように学校に行ける日本の環境について感謝したほうがいいかもしれないと老婆心ながら感じました。未来の可能性は無限大なのでがんばってください


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。