「犬や猫にとって、あそこの施設は地獄です!」
茨城県古河市の動物愛護NPO法人に対し、内情を知る関係者は大激怒。
60代の男性A氏が代表を務める同法人は、非営利で動物を保護・譲渡する「第2種動物取扱業者」にあたる。運営する保護施設の出入り口には「動物愛護」「殺処分ゼロ」ののぼり旗を掲げているが、施設内は犬や猫の排泄物が堆積する劣悪な環境にあり、ネグレクト(飼育放棄)疑惑が持ち上がっている。
同法人は2009年に設立された。関東近県を転々とし、約5年前に現在の場所に居を移している。元工務店だった築46年の古い木造住宅を利用し、最大で犬・猫計100匹以上を飼育していた。
排泄物のにおいがひどい
女優の杉本彩さんが理事長を務める公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」(東京都)は約2年半前から同団体を問題視。県などに現況を訴え、改善を求めてきた。
「必要な世話や健康管理を怠っているため動物の健康状態は悪く、施設内は不衛生。病気になってもなかなか治療させないので結果、死なせてしまう最悪の団体です」(杉本さん)
行政がようやく重い腰を上げたのは昨年10月。県の調査で不衛生な飼育状況が確認され、同12月の再調査でも改善はみられず、県は動物愛護法に基づき行政指導の改善勧告を出した。
しかし、今年2月までの期限内に状況が変わらなかったため、動物愛護団体に対しては異例の改善命令を発動。ようやく同法人は清掃や頭数管理などに本腰を入れるようになったという。
県は今年度、2週間に1度のペースで抜き打ち調査を続けているが、施設の近隣住民はほとほと困り果てている。
「とにかく排泄物のにおいがすごい。施設のそばを通るときは息を止めて、できるだけ息を吸わないようにして歩いています」(60代女性)
「夏場や雨上がりは特にひどい。施設の敷地から排泄物が混ざった汚水が道路まで流れ出ることもあり、衛生面が心配です。どこかに引っ越してほしい」(80代男性)
施設から犬が脱走し、近くの畑の作物を踏み荒らしたり、救急車のサイレンなどに反応する犬の鳴き声で睡眠不足になった住民もいるという。
こうした現状に、前出のEvaなど複数の動物愛護団体が同法人を動物愛護法違反の疑いで刑事告発し、茨城県警古河署の捜査が始まった。
告発に踏み切った非営利一般社団法人「日本動物虐待防止協会」(神奈川県)の藤村晃子代表理事は、
「3月にA氏の施設に入り、現場の撮影に成功したので、これを証拠として動物虐待を告発しました」
と経緯を説明する。
布団と糞のミルフィーユ
藤村さんが撮影した動画には、足の踏み場もないほど垂れ流された糞尿のなかで生活する犬や猫の姿が……。
「ケアも全くされていなかった。毛にはうんちがついたまま、体も洗ってもらえずブラッシングもされてない。爪も伸びていて肉球に刺さり、歩くのも困難な子、不衛生な環境で失明した子もいました。避妊・去勢せず雄雌一緒にケージ(檻)に入れていたので子犬もたくさん生まれていました」
特にキツかったのはにおいだという。
「マスクを3枚重ねても吐きそうなほど臭気がこもっていました」(前出・藤村さん)
さらに、冒頭の関係者が信じられない内情を激白する。
「施設に常駐しているのはAさんだけですが、Aさんは絶対に掃除をしない。掃除はほかのスタッフ頼みなので、スタッフが来ないと糞だらけ。Aさんは床に糞がたまると布団をかぶせて隠します。その上に犬や猫がまた糞をして、たまったらまた布団をかぶせるという繰り返しでミルフィーユ状態になっていました」
当然、虫も大量発生する。
「夏場は糞や腐ったエサにウジ虫がわいて、どこもウジ虫だらけ。黒い壁と思っていたら、全部ハエだったこともありました」
ウジ虫は犬や猫にとって脅威という。
「ある日、すごい勢いで犬が鳴くからおかしいとスタッフが病院に連れていったそうですが原因がわからない。獣医がお尻についた糞の塊に気づいて取り除くと、中からウジ虫が何匹も出てきたそうです」
ウジ虫が犬の尻の肉を食べ、体内に侵入しようとしていたことが痛みの原因だった。
暴力以外は虐待ではないと思っている
水飲み用のボウルの底にたまったヘドロから、小さな謎の赤い虫がうじゃうじゃ出てきたこともあったという。
エサは腐り、飲み水は乾いているか、濁ってドブのようなにおいがするかのどちらか。熱中症や脱水症状で衰弱して死んでいく犬・猫もいた。
「ほとんどの動物はカビが原因の皮膚病や感染症にかかっていました。Aさんは自分のお気に入りの子はすぐに病院に連れていくのに、それ以外は放置する。2か月で19匹が死んだこともあったそうです。死んだ猫がタンスの引き出しから出てきたり、真っ黒な塊があったので“うんちかな”と思ったら猫の死体だったことも……」
命を救うための愛護団体なのに、むしろ命を軽視しているようにしか思えない。
「ただ、Aさんは動物を本当にかわいいと思っているようでした。自分のことを“パパさん”と呼んで、お気に入りの子はいつも車でどこかに連れていっていました。施設がこんな状態なのに“ここにいる子は本当に幸せだよね”と本気で言っていました」
動物を叩いたり、蹴ったり、直接的な暴力をふるうことはなかった。
「暴力以外は虐待に当たらないと思っているようです」
警察に相談したこともあったが、「不衛生というだけでは罪にならない」と取り合ってもらえなかったという。
「施設は廃業させ、Aさんには今後一切、動物と関わってほしくありません!」
関係者は取材中、何度も目に涙を浮かべてかわいそうな犬や猫の救出を訴えた。
A氏は告発をどのように受け止めているのか。
施設で本人を直撃すると、
「今日は忙しい。手が離せない。来る前に電話ください」
翌5月23日、再び施設を訪ねると、県警が捜査に入っていた。施設の中からケージに入れられた犬や猫が次々に運び出され、A氏は警察車両に先導されて施設を後にした。
前出・杉本さんは、
「自分が引き受けた命は、最後まで責任を持ってほしい。今回の動物愛護法改正で動物虐待の罰則が引き上げられたら今後は厳正に処罰されるでしょう。動物は声をあげることができません。気づいた人が声をあげなかったらそこにいる動物は助けられません。勇気を出してみんなで声をあげ、動物を救える社会にしたい」
A氏が歪んだ愛情に気づく日はくるだろうか。