* * *
先日、全国で運動会が行われました。いや〜、よく晴れて運動会日和やね!…なんて言っていられないのが、昨今の異常気象。まだ暑さに身体が慣れていない5月に気温35度超えとか、小さな子どもを持つ親からしたら恐怖ですよ。
そもそも、5月に運動会をする学校が増えた理由のひとつに、「秋の開催やと、暑〜い残暑に校庭で長時間、練習せなあかんねんで? 危険やん?」が、挙げられていたはず。でも5月もこうなってしまったんじゃあ、あんまり意味ないし、今度は本番の日の気温が危険になってきました。
気温も昔とは違うし、外で遊ぶことが減った子どもたちは、体力も昔の子とは違う。子どもたちはもちろん、先生方や保護者も命がけでやる運動会の是非が今、問われています。世間では、午前中で終わる「時短運動会」なんて言葉も話題になっていますね。
やっぱり中止、また来週
私にも2人の娘がおりますので、幼稚園のころから数えて2人分で11回は運動会を経験しています。運動会の朝といえば、まー、早朝からから揚げ揚げて、肉巻いて、野菜ゆでて卵焼いておにぎり握りまくってフルーツむきまくって見栄えのする豪華なお弁当作って、パパは6時から門の前に並んで場所取りして…もう本当に親も大変!
しかもうちの子の学校は、小雨くらいならやっちゃうので、当日朝の「決定メール」が来るまではまだ中止かどうかわからない。これには困った。けっこう雨降ってるけど…? やるの? やらんの? どっち?
お弁当、作り出していいの? ねぇ? おーい、どないやねーん!! と、スマホをにらみ小一時間モヤモヤしつつ、もしあるならもう作らないと間に合わん! というギリギリのところで我慢できず作り出すものの、「やっぱ中止〜また来週〜」というメールが来ることも。
しかも2週連続で微妙な雨が降り、「またまた来週」も経験あり。歯ぎしりで奥歯粉砕の危機ですよ。もう、カップ麺でも持って行ってやろうかしら! ですわ。でも私なんかはまだマシで、ご近所さんなんか見ていると、家族のほかにおじいちゃんおばあちゃん、おじにおばに親戚まで見に来るから、お弁当が半端ない量。
でっかいブルーシート広げて、そば屋の出前か? ってくらいお重積んで、少年野球の練習ですか? って大きさのタンクでの麦茶持参。ほんまこれで当日キャンセルされたら地獄やで!
今日び、母親も働きまくって忙しい人が多いねんから、前日夜にあれもこれも仕込むのもなかなかできへんねん! 夜の遅くまで仕事や家のことやって、なんとか当日、早起きして作るのがやっと。だから母の立場で言わせてもらうと、まず時短にすると、いちばん大変なお弁当問題がなくなる! これはでかい。
そして、次にパパの場所取り。時短になるとこれもなくなるかもしれない。というのも、「場所取り」ってあれ、何も自分の子どもがいちばんよく見える場所を取っているわけじゃないからね! それも大事だけど、保護者にとって運動会は朝から夕方までをいかに快適に過ごせるか、その「待機場所」が命! 特に小学校なんて1〜6年生がそれぞれ数種目やるので、自分の子どもの演目以外は、ほぼ待機時間。
日陰が少なく、砂ぼこりモウモウで紫外線バリバリの校庭にいると、体力が奪われてクラクラするし、お弁当もこの暑さじゃ傷みそうで心配。特に午後からの日差しはやばい!日向に座ってたら午後3時にはフニャフニャの干し柿母ちゃんになってしまう。
だからなるべく直射日光が当たらず、砂ぼこりが立ちにくい、その限られたわずかなスペースを取るためにパパたちは門が開いた瞬間、ダッシュするのだ! もしこれが時短になって午前中だけになるなら、場所取りしなくてもいいし、お弁当作らなくてもいいし、コーヒータンブラー片手にサラッと見て帰ることができるではないか!
時短は本当にいいのか?
時短、ええやん。……え? それならもういっそ運動会をなくそう、って意見もネットで出てるの? まぁ、さすがに運動会自体がなくなるのはさみしいけど、なければないで助かる家庭も多いのかな? 今はほとんど共働きで、お母さんがお弁当持って見に来るのが当たり前の昔とは時代が違うから…。
ん? でも、ちょっと待って?これ、全部「親の意見」やん。
「子どもの意見」は全く入ってない。これで決めるのはよくないぞ。
子どもたちにとって危険な暑さ、だから時短にしよう。それは、わかる。先生たちの負担が大きすぎるのも、時短で解決できるならそうすべき。
だけど、「お弁当作るのがめんどくさいから」「場所取りがしんどいから」午前中で終わらせろ!「忙しいから」いっそ運動会なんてなくなってもいい!というのは、親が自己都合を押しつけているだけで、子どもにとって大切なものは何か、を見落としてないか?
学校行事の主役はあくまでも子どもたち。まずは、子どもたちが楽しんでいるか、その行事で何を得るのか。それを抜きで決めたらあかん! 正直、お弁当も場所取りもめんどくさいけど、彼、彼女らが一生懸命、練習したことを頑張って披露する、年に1度の運動会の日くらい、親も頑張ろう! 仕事も大変だけど、お弁当や場所取りに頑張っている親のことも、子どもたちはちゃんと見てる。
最近、テレビ業界でも教育現場でも、ごく少数のクレームが大きく取り扱われすぎるのも気になるところ。一部の文句をおさめるために、言われた部分を切り落としてばかりでは、やがて大事なものまでなくなってしまうぞ!
「なくす派」の人は「そもそも運動会やる意味がわからない」らしい。そんな人は運動会の結果発表での子どもたちの一喜一憂、見たことあるのかな? 自分の組が優位に立てば飛び跳ねて手を叩いて喜び、負ければ本気で悔しがる。それだけ本気で練習を重ね、本気で挑んでいるということ。
勝っても負けても、そこに大きな経験がある。それは意味のない経験か? ほとんどの子どもは、運動会に向けて「早く走れるように」自分で何かしら努力して工夫するもの。そして、その結果がどうであれ、受け止めて乗り越える、それが大事なんじゃないのかな。
「運動会の練習で授業がつぶれるから無駄」「暑い中、練習したらかわいそう。もうやめてもいいのでは」という親もいる。そりゃ、暑さやケガから守ることも大事だけど、これからそんな時代を生き抜かなければいけないのは、あなたの子どもたちだから。それを知って乗り越えることも大事な授業。「どうやったらこの暑さから身を守れるのか」「どうやったらケガせずにできるのか」自分で考え、工夫しながら経験して学ぶ。それだけでも意味はある!
運動会とその練習の過程で、子どもたちは何を感じ、何を味わい、何を学ぶのか。もしも、何もなければ、やめればいい。だけど、運動会でしか味わえない喜びや悔しさは必ずある。他人や自分の「苦手」を知り、「得意」でカバーしたり、団結して支え合う体験、そこでしか芽生えない対抗心や向上心、終わって得る大きな達成感。
大事なのは、なんでも「経験する」こと。人として成長するためには、よいことも悪いことも、ひとつでも多くのことを経験して乗り越えること。この時期に集団の中でしか体験できないこともある。その大事なチャンスを、一部の大人の都合で奪うな!
親も先生も忙しく大変なうえ、昔より面倒なことも危険なことも増えた今、なくさなくてはいけないものはまだまだ増えていくでしょう。言うまでもなく、何より大事なのは、子どもたちの命。運動会は、命の危険を冒してまでやるものではない。無駄の多い内容を見直し、練習も最低限に抑えて、先生方の負担も減らしたらいい。みんなの健康を守るために時短にするのはいいけど、どうか親も子どもも全力で挑み一生、思い出に残る運動会にしてほしい。
プロフィール
野々村友紀子(ののむら・ゆきこ) 1974年8月5日生まれ。大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人、2丁拳銃・修士の嫁。 芸人として活動後、放送作家へ転身。現在はバラエティ番組の企画構成に加え、 吉本総合芸能学院(NSC)の講師、アニメやゲームのシナリオ制作など多方面で活躍中。著書に『あの頃の自分にガツンと言いたい』『強く生きていくために あなたに伝えたいこと』(ともに産業編集センター)『パパになった旦那よ、ママの本音を聞け!』(赤ちゃんとママ社)がある。