『国際バカロレア』(以下、IB)という言葉をご存じだろうか。国際的な大学入学資格を取得できる教育プログラムのことで、認定された学校は幼稚園から高校まで、全国に138校ある。広島や埼玉などでIBを導入する公立校も現れ始めた。
東京大学では'16年から、教養学部や法学部、工学部で、推薦入試における能力証明の資格として採用。文部科学省も普及を推進していることから、今後、IBを活用する大学のさらなる増加が予想される。
勉強以外のスキルも身につく
では実際に、IBを導入した学校でどのような授業が行われているのか?
東京・千代田区の武蔵野大学附属千代田高等学院は、'18年にIB認定校となった。同校のドゥラゴ英理花先生は、IBの特徴についてこう語る。
「日本の教育は暗記が中心ですが、IBは勉強のみならず、探究心や論理的思考なども身につけられるのが最大の特徴です。授業はグループワークやディスカッションが中心。ただ黒板に書かれた内容を書き写したり、覚えたりといった授業ではありません。教師は何かを教えるのではなく、生徒の自発的な学びを促すことに従事しています」
成績の評価の仕方も、一般の学校と異なる。坂本龍先生によると、
「日本の学校は試験の点数がメインですが、IBは試験だけでなく、レポートや論文、プレゼンテーションなど、いろいろなものを活用して評価します。IB教育にあたっては、生徒自身が価値を見いだして、学ぶ覚悟を持つことが重要だと思います」
IBは、欧米などでは認知度が高い高校卒業資格で、多くの大学で独自の基準を設定し入学資格として認めている。当然ながら語学力は重要。同校では、英語や数学の授業が英語で行われていることから、英検2級以上のレベルが求められる。
同校の「国際バカロレアコース」で学ぶ生徒は6人。1年次は他コースと共通の授業を受け、2年次からIBコースに分かれる。自発的な学びが求められる環境で、生徒たちはどう過ごしているのだろうか?
山口達矢さん(16)は父の仕事に伴い、小6から中2までをイギリスで過ごした帰国子女。インドやオーストラリアなど外国籍の生徒も通う、国際色豊かな校風が気に入っている。
“自分で考える力”が育まれる環境
「ここでは、先生は基礎しか教えてくれません。自分で調べて考えさせる。例えば『日本語A』という授業では(芥川龍之介の小説)『羅生門』について“(作中に登場する)下人は老婆の着物を剥ぎ取ったあと、どこへ行ったのか?”という課題が出されました。こういうやり方に最初は戸惑いましたけど、考える力がついたと思います」
と山口さん。将来は海外の大学で、AIやプログラミングを学びたいと話す。
同じくIBコースのクーパー・シエラさん(16)はオーストラリアのシドニー生まれ。小学3年から家族と日本で暮らしている。
「この学校へ来て、テストで高い点をとるだけじゃ世の中、渡っていけないなって思いましたね。みんな、なにかしら勉強以外にも長けているものがある。海外で働くとなると、専門的な知識を英語で習得できるようにしておいたほうがいい。職業選択の幅も広がると思います」
今後は専門的な留学カウンセラーを招き、相談をしながら進学準備を進めていくという。
前出・ドゥラゴ先生が期待を込めて言う。
「IBの資格を持っていれば、選択肢の幅がグッと広がる。認定校を卒業した生徒の中には、日本の大学を出たあとに海外へ出たり、やるべきことを見いだして起業したりする人も多い。世界に目を向け、多様性を理解しながら、自分の進みたい方向に進んでいけるようになってほしいですね」