「うちの子は公立小でスクールバスを利用しています。保護者によるバス停での見守り活動を検討している学校もあるようですし、もし輪番制になったら命を張って子どもたちを守らなければならない。素手で不審者を撃退する自信なんてありません」
と首都圏に住む40代男性はため息をつく。
川崎殺傷事件はスクールバス通学の安全神話を崩壊させた。
どう防犯すべきか
登下校時の児童・生徒を事件や交通事故から守る有効な手立てとされていたのがスクールバスの運用だった。
昨年5月、新潟市で小2女児が下校中に誘拐・殺害された事件を受け、文科省は翌月には「登下校防犯プラン」をまとめ、子どもを極力1人にしないようスクールバスや集団登下校の活用などを推進した。
しかし、バス停で整列する児童を教職員や付き添いの保護者が見守る中、川崎殺傷事件は、わずか10数秒で凶行は終わった。カリタス小学校の教頭が容疑者を追いかけなかったら、さらに被害が拡大した可能性もある。
都内の防犯グッズショップの関係者は、
「バスやバス停に複数の警備員を配置するか、スタンガンやさすまた、催涙スプレーを常備して“武装”するぐらいしか手はないのではないか」
と思案する。
しかし、NPO法人「日本こどもの安全教育総合研究所」の宮田美恵子理事長は「バスに危険な物を持ち込むべきではない」と指摘する。
「間違って子どもに触れたときに傷つけるような防犯グッズを常備すると、日常の安全管理にも気を配らなければならなくなり、運転手や教職員の精神的負担が増えます。防犯上、マイナス面のほうが大きいでしょう」(宮田さん)
文科省の2015年度調査によると、全国の国公私立の小学校のうちスクールバスを運用しているのは3134校で全体の15・7%にあたる。同様に中学は1590校(15・5%)、幼稚園は5638校(55・4%)。小・中の6・3~6・5校に1校はバスを運用している。
同省が'08年にまとめた「諸外国におけるスクールバス活用状況等調査報告概要」によると、米国では幼稚園から高校まで児童・生徒の約半数がスクールバスを利用しているほか、ドイツでは最も事故が少ない安全な通学手段として多数が利用している。
カリタス小は3台のスクールバスで毎朝8便を運行していた。事件に巻き込まれたのは6番目のバス。最寄り駅からバス停まで教職員が付き添い、“見守りの空白地帯”を封じていたのに事件は起こってしまった。
前出の宮田さんは「この事件には2つの想定外があった」として次のように話す。
「子どもの見守り活動は、主に不審者による声かけや連れ去り事案などを想定した抑止力であって、今回のようなテロ的事件を想定したものではありません。スクールバスの待機・乗降時のリスクも想定していませんでした。だからといって、教職員や保護者、地域住民が身を挺してガードマン役まで務めるのはやりすぎ。テロ対策要員ではありませんし、警備のことは民間警備員や警察官に任せるべきです。制服姿の警備員が目に入れば犯罪抑止が期待できます。役割分担が大事です」
わたしたちは、どう子どもを守っていくべきか真剣に向き合わないといけないーー。