子ども、高齢者など体力の弱い存在ほど意識して守る必要が ※写真はイメージです

 観測史上、5月で最も暑い日として長いこと1位の座をキープしていた地点は、埼玉県秩父市。1993年5月13日に観測した37・2度だった。

 先月26日、異常な猛暑が、5月の最高気温ランキングを大幅に塗り替え、秩父は19位タイに大きく後退。秩父より高い気温を19地点が観測したが、そのすべてが涼しいはずの北海道だった。

『ウェザーマップ』所属の気象予報士・村木祐輔さんは、

「5月としては、今まで経験したことがない猛烈な暑さだったと言えます。それが北海道で観測されたということで、インパクトがあった」

 と解説。1位は道東の佐呂間町で39・5度、2位は帯広、足寄、池田で38・8度……と北海道の地名が上位を独占した原因について、

「日本列島が高気圧に覆われ晴れたことで、全国的に気温が上昇しました。そこに中国大陸から異常な暖気が北海道へと流れ込みました。その暖気が日高山脈を越える際にフェーン現象が起こり、道東では非常に高い気温が観測されました。これは珍しい現象で、今後しばらくは、5月の最高気温が更新されることはないでしょう」

 と、つけ加える。

気象予報士 村木祐輔さん

 1週間(5月20~26日)に全国で2053人が熱中症で救急搬送され、4人が命を落とした。

 昨夏も暑く、埼玉県熊谷市は、日本の最高気温41・1度を観測した。村木さんは、

「今年は暑い夏になる見込み。昨年は最高気温を更新しましたが、今年も極端に気温が上昇する日がありそうです。梅雨が明ける7月中旬から気温は上がってきますから、注意してほしい」

 と予想し、熱中症への注意を呼びかける。6~9月に集中している熱中症の死亡者数は昨年、1500人を超えた。

昨年5~9月で熱中症により9万人以上が救急搬送された

 帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長の三宅康史医師は、熱中症の死者数が多い原因を、

「ひとつは暑さそのものがひどくなってきていること。もうひとつは、高齢化が進んでいること。高齢者は熱中症に弱いんです。ひとり暮らしや老夫婦の世帯が増加し、熱中症の初期段階の発見が遅れて重症化につながっています」

 と分析する。そして、

「暑い中にいる、暑い中に長くいた人の体調不良は、すべて熱中症の可能性がある」

 と甘く見ないことを訴え、熱中症の症状は3段階に分けられると続ける。

「初期は手足のしびれ、めまいなど、中等症では頭痛がしたり吐くことも。重症化すると、暑さで内臓が機能しなくなる。特に腎臓、肝臓、脳が暑さによって影響を受けやすいのです」

 対処方法として重視することは3つ。三宅医師が続ける。

「1つ目は休む。すぐに日陰や室内に移動して安静にする。2つ目は冷やす。できれば冷房の効いた室内で服をゆるめ、冷たいペットボトルで冷やしたりタオルを水で濡らしてふく。首筋、わきの下、そけい部は体表近くに太い静脈が通っているため冷やすのに有効な場所です。3つ目は水分補給。基本は水。スポーツドリンクはより有効です。水分摂取は身体を冷やす効果もある」

 そして『FIRE』の4文字を意識してほしいと話す。

「熱中症になったときにとる行動の頭文字をとったものです。FはFluidで水分補給、IがIcingで冷却。RはRestで安静。EはEmergencyで救急車を呼ぶ。軽症のときは上から順に、重症のときは下から行ってください」

 と三宅医師。救急車を呼ぶかどうかの判断については、

「意識がもうろうとしていたり、反応がない場合には救急車を呼んでいいでしょう。

 逆に意識はしっかりしているが、身体がだるい、気持ちが悪いというのであれば、涼しい場所で水分補給をさせます。その際には、必ず自力で飲めるか確認してください。ペットボトルを自分で持って飲めれば、意識はしっかりしていてそこまで重症ではないことがわかる。持てなかったり、飲めない場合には水分補給ができないため、病院で点滴をしてもらいましょう。無理に飲ませると誤嚥して窒息する危険があるため、必ず自分で飲んでもらってください」

 と対処法を示し見守りの重要性を伝える。

体調が悪くなった人を1人で休ませずに、必ず付き添ってほしい。様子を見に戻ると、症状が悪化して、息をしていない場合もある。体調が回復しているのか確認してほしい。回復しなければ病院に行きましょう」(三宅医師)

帝京大附属病院 三宅康史医師

 さらに高齢者の場合、遠方からでも家族が目を光らせる必要性が。

「高齢者は基礎代謝が低いため、暑いのがそこまで苦じゃないんです。熱中症の死者の8割は高齢者です」

 と、リスクを指摘。居間に温度計を置いてあげ、暑くなる午後2時ごろに電話をし、

「“いま何度になっているの?”と聞き、高かったら“エアコンつけているの?”と確認します。“つけていない、暑くないから”と言うようであれば“悪いけど冷房を入れて。28度に下がったら切ってもいいから”と伝えスイッチを入れさせる。これぐらいケアしないといけない」

 暑さは他の病気のリスクを高めることも。再び三宅医師。

「うまく水分補給できないと、血液が濃縮して心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。また、暑さで食欲が落ち、栄養状態が悪くなり持病が悪化することも。一方、心臓・腎臓が悪いのに塩分や水分をとりすぎると、身体に水分がたまりすぎる肺水腫や心不全を引き起こす危険性もあります」

 変化に気づくには、普段の体調を把握するのが重要で、

「毎朝決まった時間に、自分の体調をチェックしてください。体重を量り、増えていれば水分のとりすぎ、減っていれば脱水状態です。脈拍や体温・血圧の上下を確認し、自分の体調を確認してほしい」

 と三宅医師は呼びかける。

 前出・村木さんは、

「今年は平年並みか少し遅れて梅雨入りするでしょう。海面の水温が上がっているため雨雲ができやすく、平年よりも梅雨の降水量は多くなる可能性がある。梅雨寒と言われる涼しい日が続いた翌日に晴れ、一気に気温が上がると熱中症のリスクがグンと高くなります。今年も注意警戒が必要です」

 夏じゃないからと油断せず、今から万全の準備を!

※帝京大学医学部附属病院の三宅医師監修。重要な項目順に上から並べた