ラジオパーソナリティー、コラムニスト ジェーン・スーさん

 すでに、ある程度の社会経験や年の功、それに加えて小金も備えた『週刊女性』の読者世代。それでも、理屈より気分を優先しがちで、かわいいと思われたい気持ちは消えず。そんな「女子」をいつまで名乗っていいものかと逡巡した経験がある人も多いはず。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』の著者、ジェーン・スーさんにその思いをぶつけると、

「基本的に“女子”マインドはいくつになろうとあるもの。ただ、それを私たちは蒙古斑のようなものと勘違いして、いつか消えると思っていた。でもまったく消える気配はなく、気づくとそれは消えない刺青だった……という話です」

 女子マインドは刺青……、ならば、死ぬまで持っていてもいいってこと!?

「女子マインドをわざわざ消す必要はありません。ただ、年齢を重ねるに従って自分の中の女子の部分はバランスよくコントロールできるようになったほうがいい。見せる場所、TPOに配慮して女子マインドを解放してということです。刺青も国際的には云々ともろもろ意見はあるでしょうが、今の日本では場所をわきまえずに露出するとギョッとする人も少なからずいる。それと同じです

時代とともに変化するオバさん像

 また、オバさんや中年という呼称も、怯えず、嫌悪せず、そして言い訳にも使わずに、もう少しフラットに使えたらいい、というジェーンさん。自身も3月には『私がオバさんになったよ』という本を上梓している。

「読者のみなさんから見たら私なんぞはまだ小童でしょうが、老いるとか年齢を重ねることをネガティブにとらえる必要はないということが大前提としてあると思います。いつまでもオバさんと人に呼ばせない圧をかけたりするのは、ちょっと違うかと」 

 とはいえ、自分からへりくだって“もう年だから”“そういう年だから”などと思う必要もない。

 オバさんの印象をネガティブにしたのは'80年代後半の『オバタリアン』に負うところが大きい。羞恥心がなく、図々しくて無神経……中年女性のダメ要素をデフォルメして描いた漫画は流行語大賞にも選ばれた。

「時代が過ぎ、オバさん像、中年像は明らかに変化しています。だからこそ、新しい中年の定義自体をオバさん自身が変える必要がある。

 “オバさんは駄目”という価値観ではいつまでたっても自分の加齢が受け入れられない。そこに痛々しさがにじみ出てくる。“オバさんーーそれは魅力的な生き物”と自分たちで書き換えようと声を大にして拡散したいですね

 オバさんに対するネガティブなイメージは、「女は若く美しくてナンボ」とする考えを反映したもの。女性に向けられる過剰な「若さ信仰」とプレッシャーが、その根底にある。

「これは男性の物差しで作られた考え。逆に男性は、若いより年齢を重ねて知識があって、社会的地位や経済力を持ち合わせている人が評価される。女性と男性が非対称にできている。だから、私たち女性と関係ないところで勝手に作られた価値観に乗っかる必要はありません。もちろん若々しくあることは素晴らしいけど、若いほうが価値があるというのとはまた違います

 とはいえ、やっぱり自分より若く見える人がいるとモヤッとするし、若く見えると言われたほうがうれしい気持ちも正直ある……。

「そこを否定するつもりはありません。でも、余興くらいのレベルにとどめておく。十分大人になって他者と横並びじゃなくてもそれほど不安にならない年齢になったのですから、そこをうまく利用してほしい」

 若さに憧れや執着を感じるのは、自分の中に男性的な価値観や物差しが内在していることの証。そこに気づいてほしい、とジェーンさんは語る。

自分の価値は自分で確立し、自分でつけることができる新しいタイプの中年、“ネオ中年”が増えてほしい。実際、“若くはないが死ぬほど楽しい!”というのがオバさんになった私の実感です。もう誰かにおもねる必要もありません。自分が楽しい状態、居心地のいい状態をどんどん作って、そこに遠慮しない……というのもネオ中年の生き方。そうあってほしい、と思います」

 ネオ中年が好きなように人生を楽しめれば“人生100年時代”の新しい生き方を切り開く、よき先駆者となるかもしれない。


じぇーん・すー/1973年東京都生まれ。コラムニスト。TBSラジオ『生活は踊る』でパーソナリティーも務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞受賞。『私がオバさんになったよ』ほか著書多数