現場となった田中容疑者のアパート。周辺は静かな住宅街

「逮捕された女の子はサチって呼ばれていてね。家なし子で、ここらへんでは知られた子だったんですよ」

 事情を知る飲食店の女性店主は、今月8日、神奈川県警に殺人容疑で逮捕された無職・山田幸子容疑者(32)のことを、ポツリポツリと話し始めた。

DV夫と離婚後、奇妙な人間関係に

 山田容疑者が川崎市麻生区に姿を現したのは、

「5~6年前かな。昨年まで駅近くに酒店があって、そこの角打ちでよく飲んでいました。スポーツ刈りで野球帽をかぶり本当に男みたいな格好をしていたんです。お金もないので、駅前のスーパーで万引きを繰り返すなどトラブルを起こす。素行もよくない子だけど、カラオケを歌いながら涙を流したり憎めない子でした」(前出・女性店主)

 その角打ちで山田容疑者は、ひとりの女性と知り合った。今回の事件の被害者、辻村幸代さん(54)だ。

「辻村さんは昨年の2月ごろに、DVのひどい夫と離婚したそうです。精神的にもかなり参ってしまい、心療内科にも通っていたようですよ。

 そのころから、帰る家のないサチを辻村さんが自宅に住まわせてあげるようになったんです。辻村さんもひとりになって寂しかったんだと思います。生活保護を受けていたようですが、サチにお金も貸していたみたいです」(同)

 面倒見のいい辻村さん宅に転がり込んだ山田容疑者。そこに今回、山田容疑者と一緒に殺人容疑で逮捕された無職・田中崇行容疑者(23)が加わり、奇妙な人間関係が誕生した。再び、女性店主の話。

「逮捕された男とは、サチが駅前のコンビニの前で飲んでいるときに知り合ったようです。そこから“じゃあうちにおいでよ”と一緒に住むことになったみたいです。辻村さんも含め3人で駅前の路上に座って飲んでいる姿を見たことがありますよ」

 山田容疑者は定職につかず肉体労働や、風俗の呼び込みなどで食いつなぎ、ときどき辻村さんの家からフラッと姿を消すことも。若い女性を“彼女だよ”と飲食店スタッフに紹介したこともあるという。

「辻村さんの束縛が嫌になったサチが“もう一緒に暮らせない”と捨てぜりふを吐くと、辻村さんが激怒してもめたことがあったようです」(前出・女性店主)

 家がない山田容疑者だったが、そのころにはもう行くあてがあった。田中容疑者の家だ。小田急線百合ヶ丘駅から徒歩10分に位置する築41年の2階建てアパート。戸数は4戸。事件は、そこで起きた。

 逮捕容疑は、6月7日午前5時ごろから午前7時10分ごろまでの間に、田中容疑者と山田容疑者が共謀し、辻村さんの頭部を殴打するなど暴行を加え殺したもの。死因は頸部圧迫による窒息死だった。

 近隣に住む60代の女性は、

「7日の真夜中、大声でわめく声が聞こえました。何を話しているのか、何人いたのかはわかりませんけど……」

 と振り返る。

「私の知人が事件当日の午前5時ごろ、辻村さんを見かけたので、“どこに行くの?”と聞くと、“サチのところに乗り込むんだ”と息巻いていたそうですよ。お金を返してもらうために辻村さんは何度も男性のアパートを訪ね、もめていました」(前出・女性店主)

 という証言から、金銭トラブルのにおいが立ち込める。親切心から自宅に住まわせたことが、命を奪われるきっかけになってしまった。

 恩を仇で返す形で終止符が打たれた。