千葉県の最東端。しょうゆや漁港の町として知られる銚子市。そこを走る銚子電気鉄道は、6・4キロの単線だ。
「昭和50年代は10万人近くだったのが、いまや6万人。沿線人口は毎年3%くらい減っています」
とは竹本勝紀社長。小学生も通学に利用しているが乗客率は低く、何度も経営危機に陥っている。線路を1m直すには10万円、電車の車検には1500万円など、鉄道には莫大な維持費がかかる。生き残りをかけ、'95年から副業とし『ぬれ煎餅』の販売を始める。
みるみる売り上げを伸ばすも……
「親会社の倒産、元社長の横領事件が重なり、'06年には預金残高が50万円に。藁にもすがる思いで自社サイトに“『ぬれ煎餅』を買ってください、電車修理代を稼がなくちゃいけないんです”と書き込んだところ、ネット掲示板『2ちゃんねる』で話題となり、爆売れしました」
以来、売り上げの7割を『ぬれ煎餅』が占めるように。だが、せっかく増えた観光客も東日本大震災後は激減。
「国や自治体の補助金で食いつないできましたが、数年前からそれもどんどんカットされ……」
昨年度は再び赤字に。この経営難を打開すべく、昨年8月に販売を始めたスナック菓子が『まずい棒』。妙になじみのある円筒状の形&パッケージ。15本セットで600円だ。
「味が悪いわけではなく、“経営状況がまずい”がネーミングの由来です」
考案したのは、同社の夏の名物イベント『お化け屋敷電車』の企画・演出を手がける寺井広樹さん。パッケージのキャラクターはホラー漫画の重鎮・日野日出志さんによる。自虐的なキャッチコピーと、本家を彷彿とさせるビジュアルで話題沸騰。でも、これって法的に“まず”くはないんですか?
「もちろん、事前にお話はさせていただきました。最終的に黙認というか、相互に関知しないという形に落ち着き、今日に至っています。あくまでも“本家”に対するリスペクトを込めたオリジナル商品という位置づけです」
発売初日は3万本が即完売。'19年5月時点で、100万本を販売している。
「コーンポタージュ味に加え、今年3月にはチーズ味を発売。こちらは、私を模したキャラクターの前髪が“カール”してます(笑)」
近々、第3弾のぬれ煎餅味を発売予定。こちらは、おばあちゃんがぽたぽたとしょうゆ煎餅を作る、懐かしくもなじみのあるイラストが描かれるそう。
「某製菓メーカーの商品に尊敬の念を込め、真剣にふざけております」
オンリーワンのビジネスモデル
『まずい棒』の利益により、今年度はどうにか持ちこたえられる見通し。今後もユニークなオリジナル菓子の発売予定がめじろ押しで、8月には同社を舞台にしたホラー映画『電車を止めるな!~呪いの6・4キロ~』も公開予定だ。
「なにかと“パクり”と言われますが、必ず自虐ネタが入っている。人様を傷つけるわけではないため、OKとしております」
銚子電鉄が目指すのは、日本一のエンタメ鉄道。
「銚子電鉄にご乗車いただいた方を最大限のおもてなしで迎え入れ、楽しんで帰っていただきたい。『まずい棒』の卸売りをせず、地元(と自社サイト)でしか売らないのは、実際に足を運んでもらいたいから。銚子のシンボルとして、地域経済のハブとして。鉄道を存続させるべく、オンリーワンのビジネスモデルという自負のもと、さまざまなアイデアを今後も出し続けていきますよ!」
※価格は注記がない限り、すべて税抜き
《PROFILE》
銚子電気鉄道 竹本勝紀社長 ◎同社の顧問税理士を務めた後、'12年に代表取締役に就任。'16年には電車の運転免許を取得。現在は週に1度は自ら電車を運転している