昭和の時代、デパートの屋上には遊園地が必ずあった。そして地下の食料品売り場にはたいていお菓子の回転台があったのをご記憶だろうか?
円形の台は3重になっており、仕切られたスペースごとに飴やラムネ、クッキー、チョコなどがぎっしりと詰まり、クルクルと回転し続ける。子どもの目には夢のように映ったあの光景だが、最近はめっきり見かけなくなった気がする。現存しているのだろうか?
当時は品出しができないほど大盛況に
「あのお菓子売り場は、“スイートプラザ”や“回るお菓子売り場”“ラウンドコーナー”など、いろんな名前で呼ばれていますが、現在の正式名称は『Gram(グラム)』です」
とは、松風屋の山内直哉さん。明治33年創業、『松風』という和菓子の製造をしていた同社。現在は、『尾張松風屋』『FOUCHER』など約20の菓子ブランドを百貨店などで展開している。Gramもその中のひとつだ。
「誕生は1959年。当時の先代会長がフランスに行った際、スーパーで小さな円形のアイスクリームの販売台を見かけたのがきっかけです。その台は固定式で、周りを歩きながら好きな物を選ぶ形式でしたが、“販売台自体を回転させ、お客様が止まったままでもいろんなお菓子が回ってきたらおもしろいのでは”と、回転機能を持ったお菓子陳列什器を開発しました」
同社ではちょうどデパートへの納品に注力していた時期。まずは地元・名古屋の名鉄百貨店に提案し、採用された。
「発売当初は自社オリジナル商品ではなく、他社商品がメインでした。菓子の種類は100種類以上あり、100g60円。当時はお菓子が少なかったうえ、量り売りも珍しかった。ほかにはない新しい売り場のインパクトは大きく、品出しができないほどの大盛況だったと聞いております」
その後、徐々に全国に広がっていったという。
「'80年ごろには、北海道から沖縄まで約200店舗を展開していました」
そして平成をまたぎ、令和を迎えた今は全国42店舗('19年6月時点)。とりわけ西日本に集中している。
「不思議なことに、東日本よりも西日本のほうが売り上げがいいんです。理由はわかりませんが、西日本のほうがGramのコンセプトが受け入れられる土地柄のようです」
時代とニーズに応じた変化を
しかしながら、最盛期の約5分の1とは寂しい限り……。
「閉店する百貨店が増え、Gramの店舗数も徐々に減っていったのは確かですが、デパ地下は活気があるので、近年のデパートの衰退は直接的原因ではないと思います。回転台には直径4・5mあるものもあり、売り場面積をとるため、ほかの店舗を入れにくいからではないでしょうか」
現在は、100g200円と250円の2つのコーナーがあるという。
「やはり親子連れに人気です。“どこに行けばあるのか?”というお問い合わせもよくいただきます。これまで、時代に応じたお菓子や機械を開発してきましたし、好きなお菓子を好きなだけ購入できるスタイルは、現代にもマッチしていると思います。今後もニーズに応じた変化や進化をしていきたいと思います」
今日も、お菓子は回り続ける─。
(※価格は注記がない限り、すべて税抜き)